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コラム

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『US-China Relations Report』Vol. 5
米中関係と朝鮮半島


倉田 秀也(防衛大学校教授)




Ⅰ.アド・ホックな「大国間の協調」と攪乱要因
 米国の朝鮮半島多国間協議構想の歴史は古い。キッシンジャー国務長官が1975年と76年の国連総会で提案した「キッシンジャー構想」にみられるように、軍事停戦協定の平和協定への転換をはじめとする問題で対米協議に固執して中国を排除しようとする北朝鮮に対して、米国は中国を交える多国間協議を提案していた。その中で米国は、北朝鮮を南北対話に誘導しつつ、平和体制樹立を含む主たる問題解決を南北当事者に委任し、南北間の緊張緩和に応じて対韓軍事コミットメントを逓減していくことを考えた。これは冷戦終結後、ベーカー国務長官が提起した「4大国フォーラム」構想に継承されていった。
 対する中国は、冷戦期には自らを排除する北朝鮮の対米提議を支持していたものの、冷戦終結後は、中朝2国間関係では制御困難な北朝鮮の対米傾斜を、自らが関与する多国間協議によって制御しようと考えた。1996年からの4者会談(米国・中国・韓国・北朝鮮)は、平和体制樹立のため米韓両国が提案した構想に、中国が同調して実現したものである。
 さらに、北朝鮮の核開発問題については、この問題を国連安保理ではなく北朝鮮を交えた地域レヴェルで解決しようとする米中間の利害が一致して開催された米中朝3者会談を母胎として、それに日本、韓国、ロシアが同調する形で6者会談が実現した。朝鮮半島をめぐる多国間協議はそれ自体、米中両国が協調できる問題群が存在することを示している。少なくとも現在まで、朝鮮半島においては、米中間に「安全保障のジレンマ」が強く働いているわけではない。オバマ=習近平間の米中首脳会談でも、両国が協調できる問題群の筆頭に朝鮮半島が挙げられている1。その間、米中固有の問題で対立したことはあっても、これらの多国間協議には波及しなかった。これらをアド・ホックな米中「大国間の協調」と呼ぶ理由もここにある。
 ところが、南北当事者のアド・ホックな「大国間の協調」に対する認識は対照的ですらある。北朝鮮には、米中「大国間協調」は米中両国による「大国間管理」と認識される。韓国は、米中両国が「結託」することは論外であるが、平和体制樹立問題、北朝鮮の核開発問題を問わず、米中協調に便乗することでその発言力を得ようとしている。

Ⅱ.対米「核抑止力」と「戦略的柔軟性」――「リバランス」の両義性 
 北朝鮮の対米「核抑止力」の増強は米中「主軸」の「大国間管理」の試みを米朝「主軸」に転換させる上で有効であった。北朝鮮の第1回核実験以降、協議の主体が米朝両国に移行するとともに、6者会談はそれを追認する場と化していった。しかも、米国は核実験を繰り返す北朝鮮に対して、その核武装を既成事実化させる恐れから、目に見える非核化措置を求め、北朝鮮との協議は2国間、多国間を問わず進展していない。これに付随して、北朝鮮が協議枠組みを米朝「主軸」に転換する上で有効と考えたのが対南武力行使であった。2回目の核実験を終えた翌年の2010年、北朝鮮が敢行した韓国海軍哨戒艦「天安」沈没と延坪島砲撃には、対米協議を求める意図が込められていた。
 他方、米中「協調」に便乗してきた韓国も、アド・ホックな「大国間の協調」を撹乱する要因を抱えつつあった。ブッシュ政権から着手されていた在韓米軍再編計画により、韓国が対中ヘッジを担う可能性をもったためである。米韓同盟はその任務を北朝鮮脅威の抑止にほぼ限定する「局地同盟」であり、地上軍を主体とする。ところが、在韓米軍の主要部隊がソウルから黄海に面する平澤に移転した上で、空海軍との連携を強めれば、米韓同盟は中国をも念頭に置く「地域同盟」へと脱却する。これは一般に在韓米軍の「戦略的柔軟性」と呼ばれるが、これが韓国で概ね否定的に語られたように、在韓米軍が対中ヘッジを担えば、韓国は米中対立に「巻き込まれ」ることになる。これは同時に、中国にも「巻き込まれ」の懸念を植えつけた。中国は、北朝鮮の対南武力攻勢に対抗して米国が黄海で米韓合同軍事演習を展開しようとしたときに強く抵抗しただけではなく、北朝鮮が2013年春に南北不可侵合意を破棄するとして対南攻勢を行ったときも、王毅外交部長は中国の玄関先で事が生じることを絶対許さないと述べた2。これは米朝両国に向けた警告であったが、朝鮮半島での緊張が米中対立に波及しかねないことへの懸念を表明したものでもあった。
 在韓米軍再編計画はまた、韓国軍に対する「戦時」作戦統制権の返還問題と表裏一体の関係にあった。本来、「戦時」作戦統制権は2012年4月に韓国に返還される予定であったが、李明博とオバマの間でそれを2015年に延期することが合意されたのを受け作成された『戦略同盟2015』は、「戦時」作戦統制権返還と在韓米軍平澤移転計画を「同期化」し、ともに2015年に完了させることを趣旨としていた。確かに、2014年10月の米韓安保協議会では『戦略同盟2015』が再検討され、「戦時」作戦統制権返還は再度延期されると同時に、在韓米軍の平澤移転も部分的にせよ凍結された。しかし、これで在韓米軍の再編計画それ自体が否定されたわけではなく、「戦略的柔軟性」が否定されたわけでもない。
 もとより、韓国は中国を敵対視する行動をとることに消極的であり続けるであろう。本来、オバマ政権が唱える「リバランス」が念頭に置くのは中国人民解放軍海軍であり、それが対象とする地域も南シナ海に集中している。朝鮮人民軍海軍が地域的プレゼンスをもっているわけでもなく、支援部隊しか擁しない在韓米海軍と海兵隊が南シナ海において対中ヘッジの役割を担うとも考えにくい。韓国は「リバランス」という語を用いつつ、北朝鮮の対南武力行使に対する米韓同盟の強化を謳っているが、米国にとって地上軍を主体とする対南脅威は「リバランス」の一部を構成するものであっても、大部分を構成するものではない。「リバランス」という共通の語を用いながらも、それが対象とするものについては米韓間に相当の乖離があるとみなければならない。

Ⅲ.ミサイル問題における「戦略的柔軟性」――THAAD韓国配備問題
 米中関係に対する南北当事者認識をよく示すものとして終末高高度防衛ミサイル防衛(THAAD)システムの韓国導入の問題を挙げることができる。THAAD自体は、突入してくる終末段階のミサイルに対する迎撃ミサイルであるため、中国が韓国をミサイル攻撃しない限り作動しない。にもかかわらず、中国がTHAADの韓国配備に抵抗するのは、それに付随するレーダー・システムにある。確かに、上述のとおり、在韓米軍に「戦略的柔軟性」をもたせようとするブッシュ政権の企図は、2014年の米韓安保協議会で相当部分が凍結された。しかし、THAADの韓国配備が中国も対象としうるなら、「戦略的柔軟性」はミサイル防衛の領域に残されていることになる。
 THAADの韓国配備が米韓間で具体的に議論されたことはないという。韓国軍は配備に積極的ではあるが、青瓦台は不決定の立場を貫いている。韓国がTHAAD配備に逡巡する理由も中国が配備に強く反対する理由も、在韓米軍の「戦略的柔軟性」がTHAAD配備に表れているからに他ならない。
 他方、北朝鮮に目を転じてみると、THAADは、北朝鮮の対南弾道ミサイル攻撃を無力化する拒否的抑止力を構成しうる以上批判の対象とするのは当然として、米中離間の恰好の材料にもなっている。THAADの韓国配備の可能性が浮上した2014年秋、『労働新聞』はそれを「地域の戦略的均衡を破壊し、周辺大国(複数)を制圧しようとする米国の軍事戦略の産物」とし、「米国は地域で奴らに挑戦する潜在的敵手(複数)、なかでも中国を軍事的に包囲牽制し、圧迫する戦略にすがっている」と批判した。この論評はまた、THAADとともに配備されるXバンド・レーダーの探査範囲が「1000キロであり、中国の主要地域を含む」ことを指摘し、中国の懸念を代弁していた3
 以上みてきたように、朝鮮半島で多国間協議が成立しながらそれが停滞している理由は、朝鮮半島で米中両国が協調できる問題群がありながら、適正と考える米中関係について南北間の認識格差が大きいからに他ならない。THAADの韓国配備次第では、朝鮮半島に米中対立が持ち込まれたとき、それでも米中両国が協調できる問題群で多国間協議を推進するかは確かではない。

*本稿に示された見解は筆者個人のものであり、防衛省、防衛大学校を代表するものではありません。




1 『CIIS研究報告:中美分岐管控的理論与実践――以政治、経済、安全為資格』第11期(2015年4月)、北京、中国国際問題研究院、39-40頁。


2 王毅「堅持和平発展 実現民族復興中国夢」『学習時報』2014年2月17日。


3 リ・ハンナム「地域の戦略的均衡を破壊する妄動」『労働新聞』2014年9月2日。



(2015-09-15)

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