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大統領選挙特集①トランプとクルーズの攻防:CPAC現地レポート


松本明日香(日本国際問題研究所研究員)





「保守主義活動家集会に、神のご加護よ、あれ!(God Bless CPAC!!!)」

 3月4日、スーパーテューズデイから数えて3日後、ワシントンDCからタクシーで数十分先にあるポトマック川の畔、メリーランド州ナショナルハーバー。共和党大統領候補者であるテッド・クルーズが舞台に登場すると、地響きのような拍手とコールが巻き起こった。手をあげて声援に応えるクルーズ、それを受けてさらに沸き立ちなかなか着席しない観客。それまでに登壇した共和党穏健派の大統領候補者たちの時とは打って変わった熱狂的な盛り上がりだった。

 保守主義活動家集会(Conservative Political Action Conference: CPAC)は、共和党の主な大統領候補が一同に会する一大イベントであり、各種保守主義活動団体も勢揃いする。共和党の大統領候補者指名レースにおいても重要なイベントである。日本ではそれほどよく知られているとは言いがたいCPACだが、その概要から、日本の政党パーティーと同様のイメージで考えてしまうと、大きく実態を外すことになる。そこでは、候補者たちと支持者たちが一同に会し、戦略に裏付けられた演説と、それに対するコアな支持者たちの呼応による熱狂が繰り広げられており、まさに投票行動に収斂されていく現場となっている。今回は、報道等を通して知ることが難しいCPACの実態を伝えるとともに、そこで展開された候補者による演説に見られる戦略を分析したい。

 なお、今回のCPACには候補指名レースのトップを走るドナルド・トランプは直前になって急遽不参加となった。昨年は参加しており、今回も参加の予定ではあったものの、別の州の予備選挙に専念するという理由が説明されたが、前日の共和党候補者間の討論会で、他の候補者からかなりの批判を受けていたため、二日続けての集中砲火および保守活動家からのブーイングの嵐を避ける狙いがあったと推察される。

■CPACとは何か

 政党の集会というと、日本では年齢層の高い裕福な有力者たちがスーツ姿で集うような会合をイメージするが、CPACはそれとは様相を異にする。会場内を見渡して目につくのは、大学生くらいと思しき若年層をはじめとした幅広い年齢層の支持者たちである。なお、若年層が多いのには理由がある。CPACには通常チケットのほかにプレミアムチケットが設定され、前方席の予約やセキュリティチェックのファストパスが可能になっているが、学生に寄附することもでき、学生チケットがその分非常に割安となっているのだ。保守主義団体が若者の取り込みを重視していることがうかがえる。

 年齢層は幅広いが、保守層の集会ということで、人種的にはやはり偏りがみられた。筆者以外に見かけたアジア系は数えるほどであり、黒人は一定の割合でみられたものの、全米比率から考えるといわゆる白人の比率が多い。なお、思想的なテーマとしては宗教保守が多いと思われるが、伝統的なユダヤ教の帽子キッパをかぶった子連れの男性の姿もみられた。また、プログラムには中南米出身者による演説もあり、カトリックの一部も含まれるものと考えられる。一方で、ティパーティ運動のトレードマークである植民者の衣装と黄色い蛇柄の旗を身にまとった際どい人物も闊歩している。

 アメリカ保守連合(ACU)が毎年開催するCPACの最も重要な要素としては、各種保守主義に関するスピーチや座談会を通して、特に選挙年においては共和党大統領候補者や保守主義団体がその客層にアプローチする点にある。人気がある候補者やテーマに関しては観客が多く集まり、立ち上がり、声援と拍手を送り、ときには異なる支持者層が双方応援合戦を繰り広げる。また、セキュリティチェックから入ってすぐ、模擬投票のストロー・ポール(STARW POLL)も実施されており、コアな支持層が予行演習できると共に、当日の候補者の人気度がわかる。大統領候補者自身もこの場を用いて、コアな支持基盤を固めるのはもちろん、レース撤退を宣言したり、逆に撤退する候補者の支持者を自分の支持者に変えようとアピールしたり、選挙戦自体に影響を与えるイベントの一つともなっている。

■クルーズのCPAC演説に見る、選挙戦略

 今回のCPACの中でも、ハイライトと言えるのが、トランプに続く共和党有力候補のひとりであるクルーズの演説であった。クルーズは現在、トランプを追いかける二番手候補者となっている。3月23日時点総計で代議員数2472人のうち、トランプは754人、クルーズは464人、ケーシックは144人を獲得している。また、共和党内での支持率に関して、3月20-22日に実施されたフォックスニュースの世論調査によるとトランプ41%、クルーズ38%、ケーシック17%の支持率、3月19~22日に実施されたブルームバーグ社世論調査によると共和党予備選挙・党大会参加者における支持率はトランプ40%、クルーズ31%、ケーシック25%とクルーズはトランプとの距離を縮めてきている。
 プリンストン大学卒業のちハーバード・ロースクール卒のエリートであり、小さな政府、経済成長、憲法保守を掲げ、大票田テキサス州の上院議員をつとめ、かつ煽情的なスピーチを繰り出しながら予備選挙戦で躍進してきたカリスマ的な候補者であるが、共和党保守本流にはクルーズの方がトランプより「危険」と述べるものすらいる。というのは、財政保守を掲げるティパーティをコアの支持層としており、2011年の連邦政府閉鎖の大惨事を引き起こした張本人でもあるのだ。最近は中東における「絨毯爆撃」を主張しており、トランプに負けず劣らずの過激な外交政策を掲げている。

 そんなクルーズの、今回の演説のポイントは以下の3点にまとめられる。ひとつに、小さな政府と増税回避、および宗教的保守主義と訴えることで、保守票のまとめあげを図ったという点、ふたつに、主に大統領としての不適格性、非保守主義的かつ非宗教保守的、そしてヒラリーに勝てないという理由で候補指名レースのトップを走るトランプを批判した点、そして最後に自分のほうが適任者であるとして、ある候補者が撤退するときにその支持者に別の支持者を支持するよう求めるエンドースメントをするよう勧めたという点である。7月の党大会時に誰も代議員の過半数を獲得していない場合に実施されうる再検討システムであるブローカード・コンベンションを視野に入れているのである。

1. 保守票のまとめあげ
 クルーズは保守的なキリスト教福音派の大統領候補者として知られる。しかし、福音派も一枚岩ではない。トランプの過激発言で鬱憤を晴らす白人ブルーカラー層には、もともと福音派も多く含まれる。また、福音派のテレビ伝道師ジェリー・ファルウェルが設立したリバティー大創設者の息子、ジェリー・ファルウェル・ジュニアはトランプへの支持を表明している。そこで、今回クルーズはトランプと立場が異なるイスラエル・中東政策や宗教的自由を訴えた。これによって保守票のまとめあげを図ったのである。

 また、クルーズはそのキャンペーンにおいて、保守主義の理想の大統領として、宗教右派を率いたレーガン大統領を掲げている。これは、CPACのコンセンサスと合致している、もしくはそれを意識したものであると言える。一般に、宗教右派支持の大統領の代表格としては、レーガンのほかにブッシュの名が挙がるが、CPACではブッシュの名前を避ける傾向にあり、専らレーガンが称えられている。元大統領のブッシュ親子の名を挙げるのは言うまでもなく今回共和党候補者として名乗りを挙げていた前大統領弟のジェブ・ブッシュに利することになり、かつ、社会にはイラク戦争後遺症を刺激するのも理由として考えられる。そのため、保守陣営の中ではレーガン信奉を軸とするコンセンサスが強化されている。つまり、自らの理想としてレーガンを挙げることでCPACの主張に迎合し、保守票をまとめあげることに繋がるのである。

2. トランプ批判
 トランプは今回の共和党候補レースの中で台風の目であり、現実的にトップを走っている以上、クルーズの戦略としても、当然トランプを批判し、その支持層を取り込むことが重要になる。今回の演説においては、その批判はトランプが十分に保守的ではない、そしてヒラリーに勝てないだろうという点が中心となっていた。先のブルームバーグの世論調査では、クルーズやケーシックを支持するものの34%が、その理由をドナルド・トランプが大統領となることを阻止するためとしている。
 クルーズ自身が保守票のまとめあげを図っているという前述のポイントにもつながるが、実際、トランプが全面的に保守主義的かというと、かなりあやしい。中絶や同性愛などの文化・社会的な観点も違うし、イラン核合意には反対してもイスラエル・パレスチナの共存には賛成している。ティパーティがこぞって批判するオバマケアに反対しても、トランプケアは作るという。CPACにおいてこういった点を指摘するのは有効な戦術である。

 演説の中で、クルーズがトランプ以外の共和党候補が必要である旨述べると、筆者左前の若い女性が歓声を上げる一方で、右後ろの男性はトランプのキャッチフレーズとなっている「偉大なアメリカを再び!(Make America Great Again!!)」と叫んでこたえるような場面があった。また、クルーズがトランプ批判をすると遠くの席から低い声のブーイングも聞こえてきた。CPACに集まるのは保守派の中でも裕福な層、および活動家、支援される若者となるため、トランプのコアな支持基盤とは一致しない面もあり、本人不在でも後援者が含まれていたのは印象深い。

3. エンドースメントの要求
 不利になった候補者が次々撤退していく指名レースにおいては、エンドースメントを獲得することも、戦略として非常に重要である。今回のクルーズの演説においても、当然この要素も含まれていた。党での指名獲得を争う予備選挙・党員大会が続くなかで、多数の州で実施されるスーパーテューズデイの一山を越えていたところであるが、まだ残る新規代議員獲得も狙える。また、撤退した候補者が獲得していた代議員の多くは党大会での投票において自由投票になる。

 実際に、クルーズの次のスピーカーである黒人大統領候補者のカーソンを念頭に、「自分はレイシズムではない」とはっきりと言い切ってラブコールを送っていたのも典型的なエンドースメントを狙った戦略であり、言うまでもなくカーソン支持者の取り込みを見据えた発言である。
 同様に、演説中でクルーズは思想的には対極である民主党候補者バーニー・サンダースに触れ、その支持者への理解を示していた。「社会主義者」を標榜するサンダースの支持層には福音派の白人若者が多く含まれることから、民主党候補がヒラリー・クリントンに一本化されたあとの民主党票の切り崩しを狙っていることがうかがえる。

 クルーズは前述のとおり、一位通過者が過半数をとれなかった場合に党大会での再調整や再投票を行うという規約に則ったブローカード・コンベンションを狙っている。ただし、先のブルームバーグの世論調査では共和党予備選挙や党員大会参加者の63%のものが反対しており、トランプが過半数を取れなくとも一位通過の場合は共和党大統領候補にするべきであると考えており、ブローカード・コンベンションを支持するものは33%となっているため、党内での反発が予想される。また、トランプは仮に党大会で選出されなかった場合、共和党外から出馬する可能性があるとも目されており、そうすると別の共和党候補者と票を食い合うことが予想されるため、党本部としても悩ましいところである。

■CPACの意義と今後の選挙戦の理解へ

 トランプ不在のCPACではあったが、それでも大変な盛り上がりを見せ、実際にここでの演説が共和党候補指名レースにそれなりの影響を与えたことは間違いない。このようなイベントが全国で繰り返され、演説の中で公約が発表され、論戦で優劣がつき、また失言や名言が飛び出すなどして展開されていくのが候補指名レースそのものであるとも言える。
全世界の注目を集める今後の大統領選挙の趨勢を分析し、その行方を占うにあたって、その選挙戦の実態のひとつがこうしたイベントの積み重ねであることを認識しておくことが、少なくともミクロ的な理解の側面において非常に重要であると言える。

参考:
・CPACホームページ: http://cpac.conservative.org/
・テッドクルーズ(Ted Cruz)ホームページ: https://www.cruz.senate.gov/
・Bloomberg世論調査 http://assets.bwbx.io/documents/users/iqjWHBFdfxIU/rXX28ED96saU/v0
・FOX世論調査 http://www.foxnews.com/politics/interactive/2016/03/23/fox-news-poll-national-general-election-32316/



(2016-03-29)

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