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コラム/レポート

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『China Report』Vol. 34
諸外国の対中認識の動向と国際秩序の趨勢⑪:
ドイツ・中東欧諸国と一帯一路の現状


佐藤 俊輔(日本国際問題研究所)


 欧州の対中認識を論じるとき、EUという国家を超える組織や、あるいは諸大国がどのような認識を持つかはひとつの注視すべき論点である。特に中国の一帯一路と欧州の関係を考える際、イギリスやフランスのような西欧の大国がどのようにこれに応じるかは大きな影響を有するであろう。しかし、一帯一路のプロジェクトと欧州との関係でもうひとつその動向が注目されてきたのは中東欧諸国における中国の影響力の増大である。中国によるギリシャ・ピレウス港の管理権の獲得や、2012年の「16+1」の枠組み創設、セルビアからハンガリーへの鉄道近代化事業など、陸のシルクロードの欧州側の玄関口として中東欧諸国が中国をどのように見ており、対応しているのかはEU内部での東西の分断も懸念されるなか、大きな関心事となっている。そのため、本論稿では欧州のなかでも中東欧諸国、特にハンガリーにおける一帯一路の動向を紹介し、次いでドイツにおける近年の対中認識の変化について概観する。

1. 中東欧諸国と「16+1」
 中東欧諸国と中国の関係を形作る重要な枠組みとして、2012年に創設された「16+1」がある。これは中国と中東欧の16ヵ国の対話・協調を促進するための枠組みであり、年に1度の首脳会合を通じて様々な合意を生み出すものとされているが、この「16+1」には早い時期から懸念も提示されてきた。
 その最たるものが「分割統治」への懸念である1。2013年以降、中国は100億ドルの信用貸し付けを行う旨を繰り返し声明してきたが、「16+1」は多国間の枠組みというよりも中国と16ヵ国のバイラテラルな枠組みの束であり、中国の関与をめぐって16ヵ国が競争する関係に置かれることになる。また、EU内部での一体性を損なうことになるとの懸念もある。「16+1」には11のEU加盟国と、5の非EU加盟・バルカン諸国が参加している2。すなわち、「16+1」はEU諸国と非EU諸国を横断する枠組みであるため、そこで合意される投資がEUの規制や政策を掘り崩しかねないとの懸念をEU諸国やEU諸機関へ抱かせてきた。これに加えて、政治的観点からも中東欧への中国の浸透はEUの東西の連帯に亀裂を入れるものではとの懸念がある。例えば2016年に南シナ海での紛争をめぐり下された仲裁裁判所判決についてEUが声明を提出しようとした際、EU内で数ヵ国が反対したことにより中国への直接的な名指しがなされないこととなった3。この内、少なくともハンガリーの反対については、中国からの投資を受け入れてきた同国が中国を表立って非難することを避けようとしたためだと考えられる。実際、最近の欧州議会の報告書においても、「16+1」のフォーマットへの協調度の高さはEUに対する消極的な態度や中国・ロシアとの結びつきを強化しようとする努力と相関関係があるとの指摘がなされている4
 
2. 中東欧諸国と一帯一路の実態
 しかしながら、近年では中東欧諸国の内側でも中国に対する懐疑的な見方が強まっており、その様子は2018年7月の「16+1」会合でも報告されている。中国が様々な約束を行いつつも、実際に実現したものとのギャップが大きく、どの程度を中国が実行しようとしているのかが疑われているためである5
 実際にも、2017年以降、中国の欧州に対する投資は減少している。2010年以降、EUへの中国の対外投資は多少の変動はあるものの着実に増大してきていた。特に2013年以降の伸びはお大きく2016年には370億ユーロまで到達したが、その投資額は2017年には一旦減少へ転じており、2018年には約170億ユーロまで減少した。これは2015年以前の水準であり、2017年から比べても約40%の減少となっている6。そのなかで中東欧の占める位置はさらに限定的である。2010年から18年までの累計額で見た場合、ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、オーストリア、ブルガリア、ルーマニアという7ヵ国への中国の直接投資は、中国による対欧州の直接投資のなかで約1.5%程度であり、少なくとも期待に比べておおきく伸びたと言えるものではない。
 国別にみて「16+1」参加国のなかで最も中国の投資を受けているのは、2000年から2018年までの累計投資額で約24億ユーロ、日本円でおよそ3000億円程度の投資を受けたハンガリーであり、第2位は約14億ユーロのポーランド、次いでチェコ(約10億ユーロ)、ルーマニア(9億ユーロ)と続く。他方で同じ「16+1」参加国であってもエストニア、ラトビア、リトアニアやスロヴァキアは1億ユーロ程度、あるいはそれ以下であり、中国の関与の程度は大きく異なっている7
 最も投資を受けているハンガリーの対中認識と投資の状況についてみれば、Maturaは、ハンガリーからみて中国との関係はいわゆる「半分中身の注がれたコップ」のようなものと例えている8。一方でハンガリーは中東欧諸国で最も多額の直接投資を受け、2017年には両国政府は二国間関係を包括的戦略パートナーシップの関係へ引き上げた。同国には中東欧で唯一の中国語とハンガリー語のバイリンガルの小学校もあり、中東欧地域のバンク・オブ・チャイナの本店もここに置かれている。しかし他方で、この数年というものハンガリーは新たな投資の誘致に目覚ましい成功を収めているわけではない。ハンガリーは2011年に「東方への開放」を政策として掲げ、政府として中国へのアピールも行ってきたものの、それ以降大規模な投資を招き入れることにはむしろ成功していない。
 これまでの総額でみれば、Rhodium Groupは2000年以降の中国からハンガリーへの直接投資は20億ユーロと算出している。その総額の4分の3ほどが中国のWanhuaグループによる化学関連企業のBorsodchem買収によるものであり、その他大きな投資はHuawei, ZTE, Lenovo, Sevenstarなどによってなされてきた。2011年の温家宝総理のブダペスト訪問、つづく2012年の李克強副総理の訪問では、ブダペストと空港を結ぶ鉄道建設、中国開発銀行とハンガリー国家経済省間の10億ユーロの融資の合意など7つの合意が結ばれたが、そのほとんどが実現には程遠い。ひとつの象徴的な合意となったのは、中国とハンガリー、セルビア間で合意されたベオグラードとブダペスト間の鉄道近代化の合意であったが、これも2017年までに既に最初の列車が走行しているはずが、2017年までにはハンガリー側の工事すら始まっていない。その主要な理由は、この工事契約がEUの定める基準を満たしていないのではとして欧州委員会が調査を行っていることにあるとされる。ハンガリー側はそのような調査の存在自体を否定するが、契約の詳細が公表されておらず不透明性の問題が依然として存在している9
 新たなプロジェクトが成功していないなか、ハンガリーがなぜ中国へ熱意を向けるのか。その要因としてしばしば指摘されるのは政治的なものである。2010年のオルバン政権成立以降、司法やメディアとの関係をめぐりEUとの軋轢を生んできたハンガリーにとって、中国との関係は政治的な梃子となる可能性を持っている。例えば2014年にはオルバン首相は次のように語った。「…西洋的でなく、自由主義的でなく、自由民主主義でもなく、おそらく民主主義的ですらない体制がどのようにあるネイションをそれでも成功に導くのかを理解しようとすると、このように説明が付けられる。今日、国際的な分析者たちのスターはシンガポールであり、中国、インド、ロシア、トルコである」10。このようにオルバン首相は中国をEUに対する政治経済的な代替的選択肢として提示することで、EUに対して影響力を確保しようと試み続けている。この点は2018年1月の「もしEUが払わないのであれば、我々は中国の方を振り返る」という言動にも通底している11
しかしながら、2016年の段階で「ほとんど一帯一路を知らない」12と評価されていたハンガリーの世論も徐々に中国への厳しい認識を強めている。2017年12月のユーロバロメーターでは、ハンガリー国民のうち中国へ積極的な見方をしているものが40%であるのに対し、消極的であるのが50%である13。ブダペストにおいて中国社会科学院によって創設された中国・中東欧研究所の調査によれば、ハンガリー人のなかで中国と近い、あるいは非常に近い関係にあるべきとしたものが35%であるのに対し、3分の2程度の国民はEUとNATOを重視し、国内政治の分極化と汚職問題の深刻さ、ロシアの統治スタイルに懸念を抱いている14。ここからは社会的な世論と政治・経済関係の乖離を見出すことができると言え、相対的に一帯一路から利益を得ているハンガリーにおいても、対中関係には比較的厳しい目が向けられるようになっていることが読み取れる15
 
3. ドイツからみた中国と一帯一路―変化する対中認識
 以上のような状況の中、ドイツはどのようにこれに対応しようとしているのだろうか。一帯一路の初期において、ドイツはこれに概ね好意的な視線を寄せていたと言える。2012年1月から2016年6月までのメディア記事の分析では、一方に中国の地政学的なプロジェクトだとの懸念は存在しながらも、アジアとの鉄道の連結性向上、ユーラシアの経済回廊、アメリカの影響力へのカウンターなどポジティブな描写も多く存在していた16。2015年10月に訪中したメルケル首相も一帯一路の長期的な戦略的見通しをたたえ、「EUもその試みの一部となりたい」と述べている17。しかし、中国との間で深い経済的相互関係を有するドイツにおいても、近年の対中認識には相当程度の変化が見られる。
 その変化の最初の契機となったのが、2016年夏の中国企業Mideaによるドイツのロボティクス企業Kukaの買収であった。「ドイツの宝石」と称えられた企業の買収劇はドイツ首相府と経済省の警戒感を呼び起こし、同年秋には中国のFujian Grand Chip Investmentによるドイツの半導体メーカーAixtronの買収を無効としている。さらに2017年2月には、ドイツはフランス、イタリアとともに懸念を伝え、7月にはノン・ペーパーによって非市場国である中国の特定産業への戦略的投資について欧州での行動を促した。同年9月には、これを受ける形で後述のEUでの投資スクリーニング・メカニズムが欧州委員会から提案されるに至っている18。国内では2017年7月に「外国経済関係に関する命令」を改正し、公共秩序と安全に対する脅威となる投資への分野横断的なスクリーニングと、防衛に直接関係する分野特定的な投資へのスクリーニング・メカニズムを改めている19
 このような中国への警戒感の高まりは、2018年以降に入って一層明らかとなりつつある。ドイツの元外相ジグマール・ガブリエルは、2018年のミュンヘン安全保障会議の場で「中国は西洋モデルに代わり、自由・民主主義・個人の人権に基づかない包括的でシステミックな代替モデルを展開しつつある」と述べたし20、2019年1月にはドイツ産業連盟(BDI)も中国をパートナーでありながら「システム的な競争者」と位置付けるポジション・ペーパーを提出している21。ドイツ外相のマースも西バルカンで中国の影響力と競争する必要を説くなど22、ドイツ国内の認識は大きく変わりつつある。
 EUの投資スクリーニング・メカニズムも2017年9月に欧州委員会から提示された後、2019年3月5日に法案採択へ至り、4月から発効することとなった。アングロ・サクソン諸国で導入されている規制に比べれば遥かに強制力が弱く、EU全体で集権的規制を導入するというよりは、各国とEUの欧州委員会の間での協調と調整のフレームワークをつくるものであるが、それでもインパクトは大きい。この枠組みのもとでは、ある投資が複数の国にかかわるか、EU全体の利益にかかわるプロジェクトに関係する場合、欧州委員会が意見を述べることが許され、加盟国がこれに従わない場合には決定を正当化する説明を行わなければならない23
 しかも当該フレームワークは公共秩序・安全にかかわる買収案件のみをカバーするため一見その範囲は狭いものの、公共秩序・安全に関連する要素はクリティカル・インフラストラクチャー、テクノロジーとデュアル・ユース、インプット、センシティブ情報へのアクセス、メディアなどと広く、例示される分野もエネルギー、輸送、水、保健、コミュニケーション、メディア、データのプロセッシングと保管、ロボティクス、半導体、サイバーセキュリティ、宇宙、防衛、核技術、選挙インフラ、金融インフラ、不動産など極めて広範である。加えてこの規則はEU域内を経由してなされるような投資についてもスクリーニングを促している。これは中国の所有するロジクールやボルボ、ピレッリなどの企業によるEU域内投資のスクリーニングを促すこととなる。また、このフレームワークは国営企業による投資、および国家主導の対外プロジェクト・プログラムへのスクリーニング強化を求めてもおり、中国の対外投資は、名指しこそされないが、その多くが対象となる。
 さらに欧州全体での産業戦略についても、意識の変化が進行している。その一端を示すのが、最近欧州委員会によって差し止められたシーメンスとアルストムの合併である。欧州委員会はこれを鉄道分野で欧州内でのヨーロッパ・チャンピオンの形成を目指すものだとして拒否したが24、これに応じるように、ドイツ産業連盟はグローバルな競争に勝ち抜くため、EU規模での産業戦略が必要だとの認識を示した25。政治のレベルでもドイツのアルトマイヤー経済相はフランスのルメール経済財政相と合同で、グローバルな競争のなかで中国とアメリカに対抗するため、ヨーロッパ・チャンピオンを形成できるようEUの競争規制を変更すべきとの主張を行っている26。これらの変化は、中国を「システム的競争者」として認識しはじめた欧州の対中認識の変容を表すものであろう。
 とはいえ、2019年3月半ばに入り、昨年成立したイタリアの「五つ星運動」、「同盟」からなるいわゆるポピュリスト政権から、G7で初めて中国の一帯一路に参加するとの表明がなされた27。これにより中国は地中海に新たなシルクロードの玄関口を見つけることとなる。中東欧諸国の非リベラル政権とイタリアが呼応すれば、新たに一帯一路への対応をめぐりEU内で東西の亀裂が深まる可能性もある。引きつづき注視してゆく必要があろう。




1 Stanzel, A. et al. (2016) China’s investment in influence : the future of 16+1 cooperation. , European Council on Foreign Affairs, 14. Dec. 2016.
2 EU加盟国として、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、スロヴェニア、クロアチア、ルーマニア、ブルガリアの11ヵ国。非EU加盟国としてボスニア、セルビア、モンテネグロ、アルバニア、北マセドニアの5ヵ国が参加。
3 Robin Emmott, ‘EU’s statement on South China Sea reflects divisions’, Reuters, 15 July 2016.
4 European Parliament Research Service (2018) Briefing: China, the 16+1 format and the EU, PE625.173, European Parliament. September 2018. p.3.
5 “16+1 summit: China ready to fund centre in Sofia for EU partnership”, Euractive, 9. July. 2018.
6 Hanemann et al. (2019) Chinese FDI in Europe: 2018 Trends and Impact of New Screening Policies (A Report by Rhodium Group (RHG) and the Mercator Institute for China Studies (MERICS)), March 2019.
7 Hanemann et al. (2019) op.cit. p.12.
8 Matura, T. (2017) “Chinese Investment in Hungary: Few Results but Great Expectations”, in Seaman, J. et al. (eds.) Chinese Investment in Europe: A Country-Level Approach (A Report by the European Think-tank Network on China (ETNC)), December 2017.
9 Ibid.
10 Cabinet Office of the Prime Minister, The Speech of Viktor Orbán on July 26, 2014.
11 “Orbán: if EU doesn’t pay, Hungary will turn to China”, Budapest Business Journal. 11 January 2018.
12 Matura, T. (2016) “Hungary: Along the New Silk Road across Central Europe” in van der Putten, F. et al. (eds.) Europe and China’s New Silk Roads (A Report by the European Think-tank Network on China (ETNC)), December 2016.
13 European Commission, Special Eurobarometer, 467, December 2017, p.81.
14 Centre for Insights in Survey Research, Public Opinion in Hungary, 30 November 2017. (http://www.iri.org/sites/default/files/wysiwyg/hungary_poll_presentation.pdf)
15 International Monetary Fund (2018) “Montenegro”, IMF Country Report No.18/121, May 2018.
16 Gaspers, J. and Lang, B. (2016) “Germany and the ‘Belt and Road’ Initiative: Tackling Geopolitical Implications through Multilateral Frameworks”, in van der Putten, F. et al. (eds.) op.cit.
17 Bundesregierung (2015) “Rede von Bundeskanzlerin Merkel beim Bergedorfer Gespächskreis am 29. Oktober 2015”.
18 Huotari, M. (2017) “Germany’s Changing Take on Chinese Direct Investment: Balancing Openness with Greater Scrutiny“ in Seaman, J. et al. (eds.) op.cit.
19 Ibid.
20 Auswärtiges Amt, Speech bz Foreign Minister Sigmar Gabriel at the Munich Security Conference, 17 February 2018. (https://www.auswaertiges-amt.de/en/newsroom/news/rede-muenchener-sicherheitskonferenz/1602662)
21 BDI (2019) “Strengthen the European Union to better compete with China”, 10. Jan. 2019. (https://english.bdi.eu/article/news/strengthen-the-european-union-to-better-compete-with-china/)
22 “Germany urges EU to rival China in Western Balkans”,EU Observer, 13 September 2018.
23 European Commission (2019) “Foreign Investment Screening: new European framework to enter into force in April 2019”, Pless Release, 5 March 2019.
24 “Six takeaways from Siemens-Alstom rejection”, Euractive, 9 February 2019.
25 BDI (2019) „Europa braucht dringend eine gemeinsame Industriestrategie“, 27.02.19.( https://bdi.eu/#/artikel/news/europa-braucht-dringend-eine-gemeinsame-industriestrategie/)
26 “France, Germany call for a change of European regulatory rules”, Euractive, 20 February 2019. (https://www.euractiv.com/section/competition/news/france-germany-call-for-a-change-of-european-regulatory-rules/)
27 “Italy joins China's New Silk Road project”, BBC, 23 March 2019. (https://www.bbc.com/news/world-europe-47679760)

(2019-03-31)

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