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コラム/レポート

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『Europe Report』Vol. 2
2019年欧州議会選リポート②:
ドイツにおける2019年欧州議会選挙


1.背景
(1) ドイツ国内政治の概況
 アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相率いる中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)と、その姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)は、近年、右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の台頭で党勢が低迷し、党内右派の反発を浴びたメルケルは2018年秋に党首続投を断念した。しかし、中道左派のドイツ社会民主党(SPD)との大連立の下では右傾化にも限界があり、2018年12月のCDU党首選では、メルケルの下で幹事長を務めていたアンネグレート・クランプ‐カレンバウアー(Annegret Kramp-Karrenbauer)が勝利した。
 2017年の連邦議会選挙で敗北し、迷走の末に大連立政権を継続したSPDは、挽回を期して左派のアンドレア・ナーレス(Andrea Nahles)を新党首に選んだが、大連立の下で独自性を示せず、支持率は2割を切って、中道左派野党の緑の党(Bündnis 90/Die Grünen)の後塵を拝している。他の野党の支持率も堅調で、AfDが1割強、中道右派の自由民主党(FDP)と急進左派の左翼党(Die Linke)が1割弱で推移している(図1参照)。

図1:ドイツ主要政党支持率の推移1


(2) 欧州議会選挙での主な政策的対立点
 (a) 欧州 CDU/CSU・FDPとSPD・緑の党が欧州統合を基本的に是としているのに対して、左翼党は「連帯的欧州」への 抜本的再編を求め、AfDは「諸祖国からなる欧州」に回帰できないのであればドイツのEU離脱のための国民投票を求めるとしている。
 ユーロ圏共通予算については、SPD・緑の党が賛成する一方、CDU/CSU・FDP・AfDが各加盟国での均衡財政を主張して反対し、左翼党は共通予算よりも福祉政策の統合の方が重要であるとしている。
 欧州軍の設立については、CDU/CSU・FDPとSPDが賛成し、緑の党が軍事協力の推進には賛成するという立場であるのに対して、左翼党は平和主義の立場から反対し、AfDは米ロとの協力を重視する観点から反対している。

 (b) 移民 AfD以外の主要政党がEUレベルでの対応を求めているのに対して、AfDは主権問題であるとして各加盟国による対応を主張している。
 (c) 環境 SPD・緑の党と左翼党がEUとしての削減目標強化を掲げているのに対して、CDU/CSU・FDPはアジア・アフリカ諸国を含めた世界的な排出権取引の促進を主張しており、SPDも排出権取引の活用を否定してはいない。それに対してAfDは、価格上昇と競争力低下を招くだけだとして温室効果ガス規制そのものに反対している。

2.選挙結果とその分析
(1) 有権者の関心:投票率の高さ
 欧州議会選挙は、国政選挙ほどの重要性を持たない二流の選挙と見做されがちであり、ドイツでの投票率も過去4回は4割台となっていた。しかし、今回は英国のEU離脱などで注目を集めていたこともあり、投票率が13ポイントあまり上昇して61.3%となった。
 有権者が投票先を決めるに当たって重視した政策としては、環境が48%(前回比28ポイント増)、社会保障が43%(-5)、安全保障が35%(-7)、移民が25%(+12)であった2

(2) 二大政党の敗北
 5月26日に投開票が行われた選挙の結果(表1を参照)、メルケル大連立政権与党のCDUとSPDは票を大きく減らした。二流視されがちな欧州議会選挙では、それぞれの国の政権担当政党への批判票が増える中間選挙効果が働きやすいと言われており、選挙前の支持率低迷と相俟って、今回もその効果が現れたと言える。そうした中、同じく大連立政権の与党であるCSUが逆に1ポイント増の結果となったのは、副党首であるマンフレート・ヴェーバー(Manfred Weber)が欧州人民党(EPP)の筆頭候補となり、この選挙でEPPが最大会派となれば欧州委員会委員長に選ばれる可能性が高かったためと見られている(メディアには“ヴェーバー効果”との表現も見られた)。

表1:2019年欧州議会選挙・ドイツでの結果3
得票率前回比獲得議席数前回比
キリスト教民主同盟(CDU)22.6%-7.423-6
キリスト教社会同盟(CSU)6.3%+1.06+1
ドイツ社会民主党(SPD)15.8%-11.516-11
自由民主党(FDP)5.4%+2.05+2
緑の党(Bündnis 90/Die Grünen)20.5%+9.821+10
左翼党(Die Linke)5.5%-1.95-2
ドイツのための選択肢(AfD)11.0%+3.911+4
諸派4合計9.4%+2.49+2


(3) 緑の党の躍進
 今回の選挙で最大の勝者となったのは、支持をほぼ倍増させた緑の党である。特に最若年層(18~24歳)での得票率は34%で他党を圧倒している5。支持増加の背景としては、中間選挙効果での追い風に加えて、今回の欧州議会選挙で環境(気候変動)問題が争点として注目されたことが挙げられる。また、2017年連邦議会選挙での棄権者層でも比較的支持が多い(24.5%)6ことからすると、投票率の上昇も緑の党の躍進に貢献したと言える。

(4) AfDの停滞
 反EU・反イスラム移民を掲げて台頭してきたAfDは、今回の欧州議会選で英仏伊などでのEU懐疑派の伸びが伝えられたのとは裏腹に、得票率11%にとどまった。前回比3.9ポイント増ではあるが、2017年の連邦議会選挙よりは1.6ポイント減である。その背景としては、気候変動問題への関心が高かった今回の選挙でAfDが温室効果ガス規制そのものに反対していた点が指摘できる。なお、選挙直前の5月17日にオーストリア自由党党首が同党への支援と引き換えにロシア新興財閥関係者に便宜供与を約束したとの報道が為されことも影響した可能性はあるが、各種世論調査での予測得票率が発覚前から10~12%程度であったことからすると、大きな影響を与えたとは言い難いように思われる。

3.今後の見通し
(1) ドイツ国内政治への影響:二大政党の混乱
 今回の欧州議会選挙で最大の敗者となったSPDでは、伝統的牙城であったブレーメン州で同日に行われた州議会選挙でも大敗したことから、ナーレス党首に対する批判が高まった。それに対し、ナーレスは当初戦う姿勢を示したものの、党内での支持が集められず、6月2日に辞任を表明した。党内左派に基盤を持ちながらSPDの大連立参加を支え続けてきたナーレスが退場したことにより、党の針路と大連立継続の是非をめぐって、SPD党内は大きく揺らいでいる。
 同じく欧州議会選で大きく後退したCDUでは、クランプ‐カレンバウアー党首が環境問題での対応の遅れを敗因と位置付けて反省を示しつつも、有力ユーチューバーによる反CDU動画が世論操作にあたると非難したことが批判を呼んだ。同党首の強みは実務能力に裏打ちされた安定感にあったが、この混乱で次期首相候補の座が遠のいたとの観測も出ている。その場合、メルケル路線継続を守るべく、メルケルが2021年の連邦議会任期満了まで首相在任を目指す可能性が高まり、一部で囁かれている早期退陣と欧州理事会常任議長への転身の可能性は下がるだろう。ただし、ナーレス党首辞任後のSPDが大連立からの離脱へと走った場合には、事態が流動化する恐れも強い。

(2) 欧州委員会委員長人事問題:欧州議会の存在意義
 選挙の結果、EPPは議席を減らしつつも欧州議会の最大会派となったが、5月28日に開かれた加盟国首脳による非公式夕食会では欧州委員会次期委員長人事についての合意が得られなかった。EPP筆頭候補のヴェーバーを推すメルケル首相に対し、エマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)仏大統領は、EPPと社会民主進歩同盟(S&D)の伝統的二大会派が過半数を割った以上は新たな中道のプロジェクトが必要であるとして、欧州自由民主同盟(ALDE)筆頭候補チームのマグレーテ・ヴェステアー(Margrethe Vestager)欧州委員とS&D筆頭候補のフランス・ティマーマンス(Frans Timmermans)欧州副委員長の名を挙げ、意見がまとまらなかったためである。
 ヴェーバーは、最大会派の筆頭候補という民主的正統性の点では優位に立っているが、これまで閣僚経験がなく、知名度も低かったという点が不利に働いている。それに対し、ヴェステアーは①ALDEの票が期待できることから欧州議会での多数派形成に有利である上、②競争政策担当欧州委員としてグーグル社をはじめとする大企業の市場独占行為に制裁金を課すなどしていることから、S&Dの抵抗を和らげやすい。さらに、③現在の欧州諸機関首脳人事で崩れている男女バランスの是正につながるという点でも有利である。ただ、ALDEは議席を増やしたとは言え第3党であり、第1党のヴェーバーを押しのけて委員長となることを(特にEPPの)欧州議会議員がどれだけ許容できるか、不安な面も残る。
 その点で若干有利なのは、EPPに議席数でも近い第2党の筆頭候補であるティマーマンスであろう。外交官出身のオランダ欧州担当相・外相経験者として豊富な経験を持つことから、資質面でも批判は少なく、委員長人事をめぐる独・EPPと仏・ALDEの対立がこじれるような場合には、拡大大連立(EPP・S&D・ALDE)の枠組みの中での妥協点として浮上してくる可能性もある。ただし、出身国オランダのルッテ中道右派連立政権からの支持がどの程度のものとなるかは微妙な面もあり、委員長人事の発議権を持つ欧州理事会での多数を得られない恐れもある7
 他方、ヴェーバーにとっては、今回の選挙で議席を増やした環境保護勢力が新委員長に欧州議会選挙を通じての民主的正統性を強く求めていることが好材料である。制度上、欧州議会に委員長人事の発議権はないが、総議員の過半数による同意が委員長就任への必要条件とされている(EU条約17条7項)ため、欧州議会で“マクロン抜き連合”(EPP・S&D・環境保護勢力)を組むことができれば、かなり強い交渉力を持つことができる。また、その場合には、委員長人事の実質的決定権をめぐる欧州理事会と欧州議会の機関間対決という性格も帯びるようになり、欧州市民の直接投票に支えられた機関である欧州議会の存在意義が問われることともなろう。その点からすると、欧州議会で「黒‐緑」の提携関係を築けるかどうかが一つの鍵になるだろう8




1 Forschungsgruppe Wahlen, Projektion: Wenn am nächsten Sonntag wirklich Bundestagswahl wäre..., <https://www.forschungsgruppe.de/Umfragen/Politbarometer/Langzeitentwicklung_-_Themen_im_Ueberblick/Politik_I/1_Projektion.xlsx>, 2019年5月26日アクセス。
2 ARD, Europawahl 2019 Deutschland: Das Wichtigste im Überblick, <https://wahl.tagesschau.de/wahlen/2019-05-26-EP-DE/umfrage-aktuellethemen.shtml>, 2019年5月29日アクセス。
3 Bundeswahlleiter, Europawahl 2019: Deutschland, <https://www.bundeswahlleiter.de/europawahlen/2019/ergebnisse/bund-99.html>, 2019年5月27日アクセス。
4 反既成政党党(Die PARTEI)2.4%・自由有権者連盟(Freie Wähler)2.2%・動物愛護党(Tierschutzpartei)1.4%・環境民主党(ÖDP)1.0%・家族党(Familie)0.7%・ヴォルト(Volt)0.7%・海賊党(Piraten)0.7%・国家民主党(NPD)0.3%。
5 ARD, Europawahl 2019 Deutschland: Umfragen Wähler nach Altersgruppen, <https://wahl.tagesschau.de/wahlen/2019-05-26-EP-DE/umfrage-alter.shtml>, 2019年5月29日アクセス。
6 ARD, Europawahl 2019 Deutschland: Wählerwanderungen, <https://wahl.tagesschau.de/wahlen/2019-05-26-EP-DE/analyse-wanderung.shtml>, (2019年5月29日アクセス)より筆者が相対得票率を計算。
7 この点については、2019年5月31日に日本国際問題研究所で開催された「混迷する欧州と国際秩序」研究会での討論で示唆を受けた。記して謝意を表したい。
8 欧州議会での「緑」との提携をドイツのCDU/CSU政治家が求めて実現させた場合、ドイツ国内における「黒‐緑」の連立可能性を改善するという副次的効果が生ずる可能性も否定できない。

(2019-06-04)

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