コラム

『Europe Report』Vol. 1
2019年欧州議会選リポート①:
2019年欧州議会選挙
―結果の概観と意味の考察―


遠藤 乾(北海道大学教授/日本国際問題研究所客員研究員)



はじめに―文脈と視点

 欧州議会選挙が、2019年5月23-26日に行われた。それは、直接選挙となった1979年以来、第9回目となる。
 今回の選挙は、2010年代の欧州複合危機の末に行われ、事前からの傾向や予想とも相まって、さまざまな文脈で従来以上に注目された。それは第一に、主要二大政党の相対的没落とEU懐疑主義勢力の伸長、第二に、EU主要機関人事の混迷、そして第三に、Brexit延期による英国参加継続とBrexit党の躍進など、今後の欧州を占う可能性とリンクしていたのである。
 以下、結果を概観し、特徴を摘出し、含意を考察する。その際留意すべきは、視点の取り方とバランスである。欧州全体なのか各国から見るのか、現時点の勢力を起点にするのか経年変化を重視するのか、後者の場合どのくらいのタイムスパンで変化を見るのか、諸党派の(盛衰の)どこに注目するのかなど、見方によって同じ結果の解釈が分かれうる。ここでは、続く論考が加盟国ごとに分析し、ナショナルな視点を重視するのに対して、欧州全体の視点から、とりわけ2010年代の危機との関連で、2019年議会選の意味を考察することとしたい1


Ⅰ.結果
 
 5月23-25日、離脱を模索しているイギリスを含め、オランダ、チェコ、ラトヴィア、マルタ、スロヴァキアの7か国が投票を済ませ、26日に残りの21か国で投票がなされた。その投票終了を待って、同日夜、暫定結果が公表された。
 投票率は、全体で50.95%(数値は5月末の段階の最終確定前のもの、以下同様)。下がり続けていた傾向が四半世紀ぶりに反転し、前回に比して、8.34%アップした(表1参照)。各国別に見ても、スペインからデンマークまで、独仏からポーランド、ルーマニアまで、東西南北、大国小国にまたがって投票率が上がった(表2)。

表1:投票率の推移(全体)


Source: TNS/Scytl in cooperation with the European Parliament, ‘Voter turnout for European Parliament elections.’ https://www.theatlas.com/charts/rZDQQkaM4 (accessed 1 June 2019).

表2:各国別投票率の推移


Source: ‘Chart du jour: turnout tables,’ Financial Times, 28 May 2019, https://www.ft.com/content/710ebc90-80ef-11e9-9935-ad75bb96c849 (accessed 1 June 2019).

 主要政党ごとの結果は、表3の通りである。議席数の多い順から挙げると:
① 欧州人民党(EPP)179議席、23.83%(2014年選挙:221議席、 23.8%、以下同様)、
② 社会民主進歩同盟(S&D)153議席、20.37%(191議席、 24.4%)
③ 欧州自由・民主同盟+ルネサンス(ALDE&R)105議席、10.98%(67議席、 7.0%)
④ 緑・欧州自由同盟(Green/EFA)69議席、9.19%(50議席、 7.3%)
⑤ 欧州保守改革(ECR)63議席、8.39%(70議席、 5.2%)
⑥ 国家と自由の欧州(ENF)58議席、7.72%
⑦ 自由と直接民主主義の欧州(EFDD)54議席、7.19%
⑧ 欧州統一左派・北欧緑左派連盟(GUE/NGL)38議席、5.06%。

表3:投票結果(党派別)


Source: European Parliament, ‘2019 European election results,’ https://graphics.france24.com/results-european-elections-2019/ (accessed 1 June 2019).

 いわゆる欧州懐疑主義勢力は、改選前の20%から25%と増加した。他方、親EU勢力は、4つのグループに分散したとはいえ、全体で67%以上の議席を占めた(前回までの議会構成は表4参照)。

表4:諸勢力の議席占有率(1979-2014)


Source: ‘Euroskeptics are a bigger presence in the European Parliament than in past,’ Facttank, Pew Research Center, https://www.pewresearch.org/fact-tank/2019/05/22/euroskeptics-are-a-bigger-presence-in-the-european-parliament-than-in-past/ (accessed 1 June 2019).

表5:欧州議会におけるジェンダー・バランスの変化


Source: European Parliament, ‘2019 European election results,’ https://graphics.france24.com/results-european-elections-2019/ (accessed 1 June 2019).

 なお、表5に見るように、前回選挙まで女性議員の比率は一貫して増加してきた。今回の選挙の全体的な数字は、5月末現在まだ出そろっていないが、フランスでは、79議席のうち女性が39議席を占め、ほぼ男性(40議席)と釣り合った。なお、同国選出議員の顔ぶれとしては、平均49才、75%が新人候補、28%が政治経験のまったくない者となっている2


Ⅱ.分析

 今回の選挙の特徴をまとめると以下の5点があげられよう。

(1) 投票率の向上―珍しく少し熱の入った選挙
 この選挙は投票率の低落傾向を反転させた選挙として記憶されるだろう。もともと、欧州議会選は「二流の国政選挙」3と揶揄されて久しく、政策変化も指導者交代も期待できない、大型の国政選挙の合間に政権批判するガス抜きの場として捉えられがちだった。
 しかし今回は、近年にしては珍しいことに、いくばくか熱のこもった選挙となった。それは、根強いEU批判層とともに、EU支持層が新たに投票所に足を運んだことによると見られている。今後、詳細な分析がなされると思われるが、EUの将来に危機感を覚えた支持層、とりわけ若者、都市住民、エコロジストが投票し、その分、緑の党やリベラル政党が伸長したと考えられる。

(2) 二大政党の相対的没落
 戦後欧州デモクラシーの屋台骨を担ってきたキリスト教民主主義政党と社会民主主義政党の二大勢力が、1979年の直接選挙開始以降初めて、欧州議会における両党合計の議席占有率で5割を割った。これにより、二大政党だけで議会の議事や人事を動かすことができなくなった。これは、(1)とは違う意味で、今回の選挙を記憶に残るものとするだろう。
(3) 極右ポピュリズム勢力の伸長と相対的な穏健化
 他方、いわゆる極右ポピュリズム勢力は、全体の議席占有率で5%伸長はしたものの、結果は各国でまちまちで、二大勢力に引き続く第三極を形成するには至らなかった。概して、小国でパフォーマンスが悪く、特にオランダのウィルダース自由党やデンマークの極右民衆党は惨敗した。対して、イタリア、イギリスでは、それぞれサルヴィーニ率いる同盟、ファラージュ率いるBrexit党が躍進し、フランスでもルペンの国民連合が第一党になったことから、大国に割り当てられた議席数の多さとともに、欧州議会での議席数アップに貢献した。
 ただし関連して指摘すべきは、この勢力のアジェンダ変容である。Brexitをめぐるイギリスの迷走が最大の要因だと思われるが、北欧諸国やオランダをはじめ、EUからの離脱を口にしなくなった。伊サルヴィーニも、EU・ユーロ圏を内から変えると宣言している。一貫してEUを攻撃してきた仏ルぺンもまた、同様の態度変化を示している。おそらくここには、フランス国民による持続的なユーロ支持があり、それに反して選挙戦を戦い、大差で決戦に敗れた2017年大統領選挙の苦い思い出もあろう。なお、この傾向は、英ファラージュには当てはまらない。
 この勢力は、いずれにしても議席数では4分の1を占めたわけで、オルバンの政党の行方やサルヴィーニの指導力とも相まって、今度のEUのかじ取りに一定の影響をもたらすことになる。ただし、この勢力が、欧州議会内でたとえ一定程度共闘できたとしても、それぞれが「自国第一」主義の色彩が濃厚な分、中長期的に結束力のある勢力として影響力を保てるのかどうかは不明である。

(4) 緑の党とリベラル政党の躍進――親欧政党の健在
 もう一つ見落とすべきでないのが、緑の党とリベラルの躍進である。後者のリベラル政党の健闘は、フランスという(議席)大国において、マクロンの共和国前進党が20%以上の票を得て僅差で第二党に躍り出たことが大きいが、同様にイギリスにおける自由民主党の伸長も大きく寄与しており、いくつかの東欧諸国でもリベラル派は伸びている。
 また、気候変動などの環境関連争点はもとより欧州において政治的に極めて重要ではあったが、デンマークやフィンランド、あるいはドイツなど、これがとくに若者のあいだで近年強く意識され、緑の党の躍進に寄与したとされる。国によっては(たとえば独仏)、既存の社民政党への幻滅が、それに一役買った面もあろう。
 いずれにしても、これらの政党は概して統合に積極的な勢力であり、それぞれの選好する方向(たとえばさらなる自由化、あるいは環境規制)に今後のEUの役割を見出していく可能性が高い。

(5) 欧州政党政治システムの多元化・断片化と合意の困難
 全体として、欧州各国で広く見られる現象が欧州議会でも起きていると言えよう。すなわち、政党政治システムの多元化・断片化である。主要二党が相対的に陥没し、その両脇に、リベラルや緑、極右・急進右派が台頭し、5党体制のような様相を呈している。それは、欧州の民衆の選好が多元化しているのを反映している一方、方向性の異なる諸政党が増え、二大政党だけでは話がつかなくなったことを意味する。それは、人事であれ政策であれ、今後のEUの舵取りに一定の困難をもたらすだろう。

Ⅲ.見通し

 以下の3点につき、当面の見通しを示す4

(1) EU実存的危機ははっきりと後退した―統合/逆統合の綱引きの新常態
 様々に残存する困難にもかかわらず、確認すべきは、2010年代の複合危機のさなかにあってまことしやかにささやかれたEU崩壊の言説がいかに的外れであったかを、今回の欧州議会選挙は示したと言える。2010年代のあいだじゅう危機にあったEUは、「そこにあって留まる(The EU is here to stay)」5。選挙のたびに、EU懐疑勢力の伸長だけを取り出し、EUの崩壊とだけ結び付けて懸念(したふりを)する言説は、単なる知的怠惰でしかない。
 より現状に近いのは、欧州政党システムの変容とともに、EUを支える勢力が断片化し、選好とその表出の回路が多元化したということ、また「より多くの欧州」を求める勢力と「より少ない欧州」を求める勢力とがぶつかり合う、言い換えれば統合と逆統合の綱引きが常態となるような構図だろう6

(2) 欧州首脳人事は混迷するのではないか
 最重要なのは、欧州委員長である。その次に大事なのは中央銀行総裁であり、かなり飛んで欧州理事会常任議長、欧州議会議長が続く。
 欧州委員長を議会制民主政のように決める筆頭候補制はすこぶる評判が悪い。それは、条約違反とすら言われる。欧州全体の利益を優先しなければならない欧州委員長が、党派性という特殊利益に縛られることになるからだ。
 他方、議会を全く無視するのも現実的ではない。それは、最終的に欧州委員会を承認する必要があるからだ。落ちたとは言え、最大会派のままである欧州民衆党や、第二位にとどまった社民勢力はもちろん、それらが過半に達しなかったことを反映し、ここぞとばかり、リベラルや緑の党も自己主張するだろう。
 いま考えられる議会内多数(376議席以上)の組み合わせは、以下である:A) 超大連立 (EPP, S&D, リベラル, 緑): 506、B)大連立(EPP, S&D, リベラル): 436、C)虹色連合(S&D, リベラル, 緑, 左派): 364、D) マクロン抜き連合(EPP, S&D, 緑): 399。なお、欧州理事会内の多数派工作も、並行して行われる。
 相互に候補をつぶし合うなかで、大小国、男女、党派、加盟時期、歴史的経緯、他機関のトップ人事のバランスなど、多くの変数を処理しなければならない。
 それに加え、委員の選出(およびポートフォリオ決定)は難題である。加盟国のいくつかが極右・急進右派の候補を提示するとき、それを欧州委員長が飲み、欧州議会が認めなければならない。先回の欧州委員会では、オルバン・ハンガリー首相が出した候補は、かろうじて選出されたものの、欧州議会の圧力の下、ポートフォリオの変更を余儀なくされた。今回は、ハンガリーだけでなく、イタリアなども、相対的にEU懐疑主義的な候補を提示するかもしれない。それを、欧州委員長候補者が受諾するかどうか、欧州議会が承認するかどうか、疑問なしとしない。
 これは潜在的にEU政治を麻痺させうる。いわば、ベルギー型の政府不在の長期化はシナリオとして意識しておくべきである。その場合、EUは必要な改革を打てず、危機が新たに慢性化する。もちろん、急転直下、マクロンの推す委員長候補を、メルケルが中銀総裁のポストと引き換えに認める一方で、ポピュリスト政権が相対的におとなしい委員候補を出してくるなどして、委員会構成をはじめ欧州首脳人事がつつがなく完成する可能性もないわけではない。

(3) 政策的志向―EUはリベラルであり続けるだろうか
 根本的な志向性がこの欧州議会選挙で変わるとは思えない。EUは、当面自由で民主的で法の支配や人権を重んずる存在であり続けるだろう。
 もちろん政策的なアクセントは、首脳人事などによっても少しずつ変わりうる。自由貿易に重点が置かれるのか、環境政策なのか、リベラルと緑の綱引きはあるだろう。その時々の連携を見極めるほかない。
 中長期的に、その根本的な志向性に変化が生まれるとすると、それは、EUの崩壊というより、EUの変質だろう。たとえば、極右ポピュリズム勢力がより幅を利かせ、EU全体を排外的な方向に動かすことはありうる。それは必然ではないが、そのためにも、EUは緊縮財政、中間層のやせ細り、ポピュリズムの伸長といった問題の連鎖を少しでも緩めていく必要があるのではないかと思われる。

    (了)



1 欧州を襲った2010年代の危機については、以下の拙書を参照されたい。『欧州複合危機―苦悶するEU、揺れる世界』中公新書、2016年。
2 Loris Boichot, ‘Âge, parité, renouvellement... Cinq chiffres à retenir sur les nouveaux eurodéputés français,’ Le Figaro, 31/05/2019.
http://www.lefigaro.fr/elections/europeennes/age-parite-renouvellement-cinq-chiffres-a-retenir-sur-les-nouveaux-eurodeputes-francais-20190528 (accessed 1 June 2019).
3 Karlheinz Reif and Hermann Schmitt, ‘Nine Second‐Order National Elections–A Conceptual Framework for the Analysis of European Election Results,’ European Journal of Political Research 8/1, March 1980, pp. 3-44.
4 今後も予断を許さないBrexitについてはここでは触れないが、本シリーズの池本論考のほか、拙稿「【経済教室】ポピュリズムに揺れる世界(上) EU、累積危機回避 猶予なし」日本経済新聞、2019年1月29日、https://www.nikkei.com/article/DGXKZO40560180Y9A120C1KE8000/(最終閲覧2019年6月1日)、「EUは崩壊しなくても:ブレグジット、欧州が抱えるリスク」朝日新聞、2019年4月5日を参照されたい。https://digital.asahi.com/articles/DA3S13965284.html(最終閲覧2019年6月1日)。
5 Dalibor Rohac, ‘5 lessons from the European election,’ Politico, 5/27/19. https://www.politico.eu/article/5-lessons-from-the-european-parliament-election-2019/ (accessed 1 June 2019).
6 拙稿「ユーロの宴の後に(上)―なぜ統合と逆統合が同時に進むのか」『Webronza』【北大HOPSマガジン】2012年7年3日。https://webronza.asahi.com/politics/articles/2012070200004.html?guid=on(最終閲覧2019年6月1日)。

(2019-06-04)

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