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ジュネーブ条約


研究員  佐渡 紀子


イラクのアルグレイブ収容所におけるイラク人収容者に対する取り扱いが、ジュネーブ条約に違反なのではないかとして、国際社会はもとより米国内でも問題にされている。ジュネーブ条約とは、戦時における民間人および戦闘行為から離脱した戦闘員ならびに捕虜に対する、人道的な取り扱いを確保するために、1949年に結ばれた国際条約である。ジュネーブ条約は、陸戦傷病者保護を定めた第1条約、海戦傷病者保護を定めた第2条約、捕虜の待遇を定めた第3条約、そして文民保護を定めた第4条約から成る。そのため、ジュネーブ4条約またはジュネーブ諸条約と呼ばれることもある。

今般問題になっているのは、特に、捕虜の取り扱いを定めた第3条約である。第3条約では、捕虜の人道的待遇を締約国に義務付けており、捕虜を死に至らしめることや、健康に重大な危険を及ぼす行為を禁じている。さらに捕虜は、暴行や脅迫、侮辱からも保護されると定められている。捕虜はすべての場合においてその身体および名誉を尊重される権利を有しており、性別や人種、国籍などによる待遇面でも差別されてはならない。捕虜に尋問する場合は、肉体的・精神的拷問やその他の強制を加えることが禁止され、回答を拒む捕虜に対する脅迫、侮辱、不利益な待遇を与えることをも禁じられている。

テロとの戦いを名目に2001年に始まったアフガニスタン攻撃によりアメリカのグアンタナモ収容所に収監されたアルカイダ兵について、米国は、条約が想定してきた従来の戦闘員とテロリストは異なるとして、収容者をジュネーブ条約の適用対象外とすることを主張していた。その結果、収容者が捕虜としての保護を与えられていないとして米国は国際社会から非難を浴びてきた。他方イラクにおける収容者についは、おそらく、イラク戦争の終結後に拘束・収監されたことを理由に、米国はこれまで収容者の法的位置付けを曖昧なままにしてきた。しかし5月12日にラムズフェルド・米国防長官がイラクの収容者全員にジュネーブ条約が適用されるべき旨発言し、翌13日にはウォルフォウィッツ米国防副長官が、米軍内で許可された収容者に対する尋問方法の一部が、条約に違反していると米国上院軍事委員会の公聴会で認めている。

戦争当事国がジュネーブ条約に違反した取り扱いをした場合、条約から導き得る救済策は関係者の処罰(個人の責任追求)と国家賠償(国家の責任追求)の二つである。

ジュネーブ条約では捕虜への人道的な取り扱いを確保するために、締約国に対し、違反行為をおこなった者や命じた者に対する処罰のための国内法を整備し、処罰する義務を負わせている。したがってジュネーブ条約とは、条約に違反した個人を国内裁判所で訴追すること原則としており、国際裁判所での処罰が想定された制度ではない。

米国では、虐待を行ったとされる米兵や関係者を、順次軍事法廷にかけることになろう。米国はイラク人収容者の権利侵害に対し、これをもって個人の責任を明確化し処罰することになろう。また同時に国家は条約違反行為に対し、金銭的賠償を捕虜の国籍国から請求される可能性がある。今回の事例では、被害者の国籍国であるイラクが主権回復前であることから、イラクが米国に対して賠償を求めるか否かを含め、主権回復後に両国によって議論されることになろう。

(2004-05-01)

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