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MTCR(ミサイル技術管理レジーム)


宮本悟(研究員)


 大量破壊兵器を搭載可能な弾道ミサイルが数多くの国家に拡散しつつあることは、国際社会の大きな問題となっている。2006年7月5日に7発の弾道ミサイルを連射した北朝鮮も中東諸国にミサイルを輸出して、ミサイルを拡散させている国家の一つと考えられている。現在、ミサイル不拡散のためにミサイル開発や保有を法的拘束力によって規制する軍備管理・不拡散条約は存在しない。ただし、ミサイルやその関連汎用品と技術の国外流出を規制することによって大量破壊兵器の運搬手段であるミサイルの拡散を防ごうとする措置はある。それが、先進国を中心に運営されているMTCR (Missile Technology Control Regime)という輸出規制措置である。

 MTCRは、1987年4月に先進7ヶ国(日、米、英、加、仏、独、伊)の間で成立した。2006年7月現在、参加国は34ヶ国である。MTCRの参加国は、1年交代の議長国において総会(年1回)やリスト・レビュー会合(年2回程度)を開催している。MTCRの日本での名称は「大量破壊兵器の運搬手段であるミサイル及び関連汎用品・技術の輸出管理体制」であるが、一般的には「ミサイル技術管理レジーム」と呼ばれている。

 MTCRには、ミサイルやその関連汎用品と技術の輸出について自主的に規制するためのガイドラインや規制品目が定められている。当初、MTCRは、核兵器の運搬手段となるミサイルやその関連汎用品と技術を規制対象にしていたが、1992年1月には核兵器だけではなく、生物・化学兵器を含む大量破壊兵器を運搬可能なミサイルやその関連汎用品と技術も規制対象となった。MTCRの参加国は、MTCRで合意された輸出規制品目を国内法令に基づき自主的に輸出規制している。日本では、外国為替及び外国貿易法、輸出貿易管理令、外国為替管理令などがMTCRに関連する国内法令となる。

 MTCRの文書には、ガイドラインと「設備やソフトウェア、技術の付属書」が含まれている。ガイドラインは、MTCRの目的と全体的な構造や規則について記したものである。「設備やソフトウェア、技術の付属書」では、参加諸国が合意した規制品目が定められている。MTCRの規制品目は、カテゴリーⅠとⅡに分類される。

 カテゴリーⅠは、大量破壊兵器の運搬と直接かかわりのあるミサイルなどの装備や技術であり、原則として輸出が禁止されている。Ⅰの品目は、搭載能力500kg以上、射程300km以上の大量破壊兵器運搬システム(ミサイル、ロケット、無人航空機)及びロケットの各段、再突入機、ロケット推進装置、誘導装置等の大量破壊兵器運搬システムを構成するサブシステムとなっている。

 カテゴリーⅡは、主に汎用の製品や技術であるが、大量破壊兵器の運搬に関係するか否か慎重に審査され、輸出の可否が判断される。Ⅱの品目は、推進薬や構造材料、ジェットエンジン、加速度計、ジャイロスコープ、発射支援装置、誘導関連機器などである。さらに、搭載能力500kg未満、射程が300km以上の大量破壊兵器運搬システム(ミサイル、ロケット、無人航空機)及びそのシステムを構成するロケットの各段、ロケット推進装置、飛行可能距離に関係なく一定量の噴霧器を搭載可能な無人航空機(自動制御及び目視外コントロール可能)も含まれている。

 しかし、MTCRによってミサイル拡散を防ぐことは困難な点が多い。ミサイルの技術はすでに多くの国に拡散している上に、MTCRには法的拘束力がなく、違反国に対して特定の制裁を加えるようにはなっていない。また、MTCRでは、ミサイルの自己開発や生産、実験、保有などは規制の対象とならない。さらに、MTCRに参加していないミサイル保有国から装備や技術が輸出される可能性が残されている。

 北東アジアで、ミサイル不拡散の見地から最も危険視されるのは、MTCRに参加していない北朝鮮である。北東アジアで弾道ミサイルを保有していないのは日本と台湾だけであって、北朝鮮や韓国、中国、ロシアは自ら開発した弾道ミサイルを保有している。その中で現在、MTCRに参加しているのは、日本(1987年参加)とロシア(1995年参加)、韓国(2001年参加)である。弾道ミサイルを保有していながらMTCRに参加していないのは中国と北朝鮮であるが、中国は1992年2月に文書でMTCR遵守の意向を米国に表明している。2003年5月にはMTCR参加の意志を表明した文書をMTCR議長宛に送り、2004年2月には、MTCRと中国の交渉が始まった。

 北朝鮮は、MTCRに参加する意志も見せていない。北朝鮮は、ミサイルを発射した翌日である2006年7月6日に報道された外務省スポークスマンの発言で、「我々はMTCRに加入したメンバー国でもなく、従ってこの制度によるどのような拘束も受けることはない」と述べた。これは、北朝鮮がこれからもMTCRの制限に関係なく、ミサイルを輸出していく意志があることを意味する。

 そこで、7月16日に採決された北朝鮮のミサイル発射を非難する国連安全保障理事会決議では、国連加盟国にミサイル関連の物品や素材、製品、技術について北朝鮮との輸出入を防ぐべく警戒するよう求めることが定められた。さらに、ミサイル開発プログラムに関連する全活動を中断することが北朝鮮に求められた。北朝鮮によるミサイル拡散は、MTCRではなく、法的拘束力のある国連安保理決議によって規制されることになったのである。

(2006-08-01)

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