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リスボン条約(その2):EUはどう変わるのか


小窪千早(研究員)



リスボン条約でEUはどう変わるのであろうか。ここではリスボン条約の内容のうち、EUの制度改革に焦点を絞って述べるが、制度改革について言えば、欧州憲法条約に盛り込まれていた内容の大部分はリスボン条約にも踏襲されている。具体的には以下のような点が挙げられる。



① 統合の深化と意思決定過程の効率化

● EUへの単一法人格の付与と「3本柱構造」の解体・統合

これまでEU自体には単一の法人格はなく、法的にはEUとは、法人格を持つ欧州共同体(欧州委員会)や、その他の諸機関の集合体の域を超えるものではなかった。リスボン条約により、EUはEUとしての法人格を持つことになる。それに伴い、これまで欧州共同体(EC)、共通外交安全保障政策(CFSP)、警察・刑事司法協力(PJCC)の3つの柱によって構成されていたEUの政策領域は、EUの単一の枠組みの下に統合されることになる。



● 理事会(閣僚理事会)における特定多数決:二重多数決制の導入

理事会(閣僚理事会)での特定多数決の票決方式が、従来の持ち票制(各加盟国に人口に応じて割り振られた持ち票に基づいて票決する方式)による票決方法から、加盟国数の55%、人口比で65%以上の賛成を以って成立とするという二重多数決の方式に改められる。なお、この二重多数決方式の導入には移行期間が設けられており、実際に用いられるのは2014年以降(2017年までは加盟国の申し立てにより従来の票決方式も使える)となる。また、全会一致ではなくこの二重多数決に基づいた特定多数決を用いて決定する政策領域も大幅に増え、EUの政治統合は大いに進むことになる。



● 欧州委員会の定数制限

欧州委員会の規模が2014年11月1日以降簡素化され、現在各加盟国から1名の欧州委員を送り出していた委員会の構成員の数を削減し、欧州委員会委員長とEU外交安全保障政策上級代表を含めて加盟国数の3分の2を以って委員会の構成員の数とすることになる。



② 対外関係における統合機能の強化


● 「欧州理事会議長」の新設

これまで半年ごとの輪番で議長国の首脳が議長を務めてきた欧州理事会(首脳会議)に、常設の議長職が置かれることになる。欧州理事会は通常の実務に直接携わるわけではなく、いわゆる「EU大統領」と通称されるほどの権限を持つわけではないが、欧州理事会はEUの基本方針を決める最高意思決定機関であり、その常任議長はEUを対外的に代表するEUの顔としての象徴的な意味合いを持つ。任期は2年半で、欧州理事会において特定多数決で選任される。



● 「EU外交安全保障政策上級代表」の新設

憲法条約ではEU外相(Union Minister for Foreign Affairs)の新設が盛り込まれていたが、名称に対しての反対もあり、リスボン条約ではほぼ同じ権限で「EU外交安全保障政策上級代表」(High Representative of the Union for Foreign Affairs and Security Policy)というポストが新設されることになった。欧州委員会委員長の同意を得つつ欧州理事会において特定多数決で選任される。現在ハビエル・ソラナ氏が務める従来の「共通外交安全保障政策(CFSP)上級代表」の役割に加え、外務理事会(外相理事会)の議長を務めるとともに、欧州委員会副委員長も兼ねるという、非常に重要な権限を持つポストである。また、併せて「欧州外交局(European External Action Service)」という機関が新たに設けられ、EU外交安全保障政策上級代表の仕事を支えることになる。



③ 意思決定過程の民主化


● 欧州議会と各国議会の権限の強化

リスボン条約では、欧州議会の権限の強化と加盟国各国の議会の役割がより明確に盛り込まれている。リスボン条約においてはすべての政策領域においてEUの立法過程が定式化され、欧州委員会の提案に基づき理事会(閣僚理事会)と欧州議会が共同で立法に当たるとされている。理事会と欧州議会との具体的な関係については依然曖昧さは残るものの、欧州議会は従来の諮問機関としての位置付けに留まらず立法過程に重要な役割を担う機関へと権限が強化される。また、各国の議会の権限が強化され、EUの立法過程において各加盟国の議会は、欧州委員会の提案が補完性原理に抵触すると判断する場合には欧州委員会に再検討を求めることができる。




以上がリスボン条約によるEUの制度改革の概略であるが、この条約の主眼は、27カ国に拡大し今後さらに拡大が見込まれるEUが、より効率的にかつ民主的に運営できるよう意思決定の仕組みを整備するとともに、国際社会の中のEUを意識し、EUの対外的な政治統合を強化することにある。この条約が順調に批准され2009年に発効すれば、欧州統合はさらなる新たな段階に進むといえるであろう。今後の批准の過程が注視される。


(2007-12-26)

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