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国際刑事裁判所(ICC)


下谷内奈緒(研究員)


スーダン西部ダルフール地方の紛争をめぐり、国際刑事裁判所(ICC)の検察局が戦争犯罪や人道に対する罪でスーダンのバシル大統領の訴追手続きを申請した。2002年の設置以降、ICCが国家元首の訴追を行うのは初めてである。訴追の行方は、国際社会において個人の犯罪を裁くという難しい役割を担うこの国際司法機関にとって、その実効性を占う試金石となる。

ICCは1998年に採択された国際刑事裁判所ローマ規約に基づき、2002年にオランダのハーグに設立された常設の国際裁判所である。冷戦終結後の1990年代に民族紛争が相次ぐ中で、加害者の刑事責任を国際社会が追及すべきだとの国際世論が高まり、これに応える形で国連安全保障理事会が臨時の国際刑事法廷を設立した。これまでに旧ユーゴスラビアやルワンダに設置されたが、臨時法廷ではコストがかかり、また、どの紛争に対して法廷を設立するかについての判断がその時々の政治状況等に左右され恣意的になるなどの問題があったため、常設の国際刑事裁判所設立が待たれていたのである。

ICCは、国際社会全体の関心事である最も重大な罪(集団殺害、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略犯罪)について、個人を訴追の対象としている。ICCは検察局、書記局、それから裁判官で構成される裁判部と裁判所長会議で構成され、裁判官は裁判部に設けられた予審裁判部門、第一審裁判部門、上訴裁判部門の各部署に配属される。裁判官(18名)の任期は9年で、選定には地理的均衡性と男女の割合が考慮される。

訴追にあたっては「補完性の原則」が適用され、該当国が被疑者の捜査や訴追を行う能力や意思を有している場合にはICCは事件を受理できない。また、訴追は被疑者の国籍国または犯罪の実行地国が締約国であるか同意した場合、あるいは国連安保理が付託する場合にのみ可能である。2008年7月現在、106カ国がローマ規約の締約国となっているが、スーダンは締約国となっていない(日本は昨年7月に加盟)。従って、バシル大統領の逮捕は同大統領が締約国となっている近隣諸国を訪れた際などに限られるが、公判は大統領がスーダン国内に留まり続けていても裁判官の判断で進められる。

ICCはこれまでにコンゴ民主共和国、中央アフリカ、ウガンダ、スーダンの案件を扱ってきたが、国家元首の訴追は初めてである。これまでに国際法廷の訴追の対象となった国家元首(旧ユーゴスラビアのミロシェビッチ元大統領とリベリアのテイラー元大統領)はいずれも臨時法廷によるものであり、この意味でも常設・独立の裁判所としてのICCの手腕が問われている。

しかし今回のICCの決定に対しては、かえってスーダン政府が反発して暴力が加速するのではないかとの懸念が出ている。特にダルフールに展開している国連とアフリカ連合(AU)合同の平和維持部隊に対する妨害が心配されており、国連の潘基文事務総長もスーダン政府に対してICCの司法プロセスと国連の平和維持活動を関連付けないよう声明で呼びかけた。正義の追求が平和につながるのか。国際法廷たるICCにとっての最大の課題はここにある。
(2008-07-18)

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