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巡礼と犠牲祭


横田貴之(研究員)



筆者がこの用語解説を書いている2008年12月8日は、ヒジュラ暦(イスラーム暦)では1429年12月10日である。すでにお気づきの方も多いかと思われるが、イスラームの二大祭のひとつ犠牲祭(イード・アル=アドハー)がイスラーム世界各地で行われる日である。ヒジュラ暦12月は巡礼月(ズー・アル=ヒッジャ)とも呼ばれ、この月の初旬には多数のムスリム(イスラーム教徒)がマッカ(メッカ)へ大巡礼(ハッジ) のために集う。なお、イスラームのもうひとつの大祭は、ラマダーン(断食)月の明けに行われるイード・アル=フィトルという祭りである。



巡礼月8日に始まる巡礼の一連の儀礼が終了する同月10日、巡礼を終えた巡礼者たちは、マッカ近郊のミナーという場所において、羊などの犠牲の動物を捧げる供犠を行う。この供犠は、イブラーヒーム(アブラハム)が神に命じられて信仰の証のために息子を犠牲に捧げるようとした際に、神がその身代わりに犠牲獣を授けたという伝承に由来する。マッカでの大巡礼に参加していないムスリムたちも同様に供犠を執り行なって、イスラーム世界各地で犠牲祭を祝う。通常、巡礼月10日からの3~4日間が休日となる。日本で言えば、正月かお盆のような休みである。



筆者も数年前にエジプトで現地調査を行っていた際、犠牲祭を体験することができた。筆者のフィールドのカイロでは、普段から馬やロバなどの動物をよく見かけるのであるが、その日は普段目にしない数の羊を町のあちこちで見掛けた。車道に目をやると、羊を満載にしたトラックも行きかっていた。せっかくの機会なのでと、筆者は街中をうろうろしているうちに、軒先で羊を屠ろうとしている人々に出くわした。彼らは「ビスミッラー」と唱えて、羊の屠殺を始めた。手際よく羊の解体を進め、しばらくすると肉が切り分けられた。彼らはその肉を家族以外の人々にも分け与えていた。屠られた犠牲獣の肉は家族のみで食されるのではなく、貧しい人々や近所の人々にも分け与えられるのである。それを眺めていた筆者も呼び寄せられ、何と羊肉を分けてもらった。当時貧しい学生であった筆者は、今日はご馳走だと喜び勇んで借りていたアパートへ向かった。その途中、町のあちこちで同じような光景を見ることができた。アパートに近づくと、今度は近所の裕福な家庭が牛を屠っているのに出会った。人間よりも大きな牛が数名がかりで屠られる様子は中々の迫力であり、周りにもかなりの人垣ができていた。残念ながらその牛肉をいただくことはできなかったが、その晩は羊の焼肉を美味しくいただいたのを覚えている。毎年、ヒジュラ暦のこの時期になると、その時のことが懐かしく思い出される。



注.ハッジとはヒジュラ暦12月8日から始まるマッカ巡礼を指し、それ以外の時期に行われるメッカ巡礼を指すウムラ(小巡礼)とは区別される。ハッジについて詳しくは、http://www2.jiia.or.jp/report/keyword/key_0302_matsumoto.htmlを参照。


(2008-12-08)

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