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ハマースの停戦観


横田 貴之(研究員)


昨年12月27日に始まったイスラエルとハマースのガザでの武力衝突は、本年1月18日に双方の一方的な停戦宣言が行われ、終結を見ている。現在、エジプトを仲介に停戦の継続化にむけた協議が行われている一方、双方による攻撃が散発的に続いている。筆者は以前、ハマースにとってイスラエルとの停戦は同国の承認に至るものではないこと、しかしその一方で停戦を長期的に継続することでイスラエルとの実質的な「共存」もハマースの選択肢として存在することを解説した(*1) 。本稿では、ハマースの停戦観を改めて整理したい。



一般的に、停戦とは戦闘状態の停止を実現するためのものであり、当事者間の戦闘状態を終結させ新たな関係へ移行するためには、講和条約などの別の手続きが必要となる。1993年にイスラエルとPLO(パレスチナ解放機構)が相互承認を行いその後の和平プロセスが始まったことは、両者間の戦闘状態が終結し、暫定自治という新たな関係が始まった事例といえよう。



では、ハマースはイスラエルとの停戦についてどのように考えているのであろうか。イスラエルとの停戦という考えは、1990年代初めからハマース内部で見られるようになった。敵方との停戦はイスラーム法においても正当化されており、その前例として、7世紀に預言者ムハンマドがマッカのクライシュ族と結んだ停戦協定「フダイビーヤの和約」や、12世紀にサラディンがリチャード獅子心王らの第3次十字軍と結んだ停戦協定がしばしば取り上げられる。イスラームの教えに基づくパレスチナ解放を唱えるハマースにとって、イスラーム法的に合法であることは重要であろう。



ハマースはこれまでにも停戦について幾度となく言及しているが、その際、彼らが「短期的な停戦」と「長期的な停戦」を使い分けていると筆者には考えている。まず、短期的な停戦とは、イスラエルとの戦闘状態を停止させ、これにより、当面の組織再建や勢力拡大を図るものといえよう。ハマースはこれまで、1995年後半(*2) 、2003年6月以降の6週間、2005年3月以降の15ヶ月間、2008年6月以降の6ヶ月間、の計4回イスラエルとの停戦を行ってきた。今回の武力衝突は2008年6月以降の停戦協定が同年12月19日に終了した後に発生したものである。停戦終了直前の12月14日、ハマースの在ダマスカス政治局長ハーリド・ミシュアルは「6ヶ月続いた停戦の間、敵[イスラエル]は協定内容を遵守しなかった。停戦は間もなく終了し、更新はされないであろう」と述べている。また、在地指導部のイスマーイール・ハニーヤも同日、「ガザ包囲が解かれ、人々の自由な移動が認められない限り、停戦は延長されない」と発言している。ここで述べられている停戦とは、戦闘状態の停止を目的に、状況・局面に応じて締結・更新・終了される短期的な停戦である。



一方、長期的な停戦とは、イスラエルとの実質的な共存を考慮とするためのものと考えられる。ハマースはイスラエル不承認を基本原則としているが、戦闘状態の停止を恒久化することでイスラエルとの実質的な共存が可能になるとする。イスラーム法に定める敵方との停戦協定は両者の合意で更新可能であり、理論的には恒久的に継続することもできるためである。ハマース創設者アフマド・ヤースィーンの発言(1993年11月)は、ハマースの長期的な停戦に関する基本的な姿勢を示している。



問:「イスラエルとの停戦協定の締結を頼まれた場合あなたはどうしますか?」

ヤースィーン:「我々ハマースは10年あるいは20年の停戦協定を結ぶことは可能である。ただし、その条件として、イスラエルが西岸・ガザ・東エルサレムから無条件に撤退し、1967年の[第3次中東戦争勃発前の]境界線まで戻り、全てのパレスチナ人が自らの将来を決定する自由を認めなければならない。」



ハマースは、長期的な停戦によりイスラエルとの実質的な共存を可能にする一方、それはあくまでも停戦に過ぎないとすることでパレスチナ全土解放という組織目標を保持し続けることが可能となる。しかし、無論、この長期的停戦はその後のイスラエル承認や和平を保証するものではない。そのため、イスラエル承認をハマースとの対話条件のひとつとする中東和平カルテット(米・露・EU・国連)、そして当事者であるイスラエルにとっては受け入れ難いものとなっている。なお、ハマース幹部が長期的停戦後について語ることはほとんどないとする指摘もある。



このように、ハマース内部では、戦略的な長期停戦と戦術的な短期停戦という2つの停戦観が存在していると考えられる。ハマースはこれまでイスラエルとの短期的な停戦は行ってきたが、彼らが長期的な停戦を可能とする条件(1967年境界線までのイスラエル撤退)が整ったことはない。ハマースがこれら2つの停戦を今後どのように用い、そして具現化してゆくのかは、彼らの活動や将来的ビジョンを探る上で非常に興味深いことであろう。



(*1) 拙稿「ハマースのイスラエル承認問題」 http://www.jiia.or.jp/column/200607/10-yokotatakayuki.html

(*2) この停戦は不文律のものであり、明確な期間は定められていなかった。



(2009-02-13)

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