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ボビー・ジンダル(Piyush "Bobby" Jindal)


西川 賢(研究員)


ボビー・ジンダル(Piyush "Bobby" Jindal)は2008年版のナショナル・ジャーナル発行の議員名鑑で「才能ある野心家」と評されており、全米でも早くからその動向に注目が集まっていた共和党の若手有力政治家の一人である(1)。2012年の共和党の大統領候補の有力者としてボビー・ジンダルの名が取沙汰されることも多くなり、ジンダルは一部の人々の間では「共和党のオバマ」とまで言われている(2)。オバマ大統領の議会での所信表明演説に対して共和党からの対抗演説を行った新星として日本でも話題にされることが多くなった。 さて、このボビー・ジンダルとは一体いかなる人物なのか。




ジンダルの経歴



ボビー・ジンダルは1971年6月10日、ルイジアナ州立大学で物理学を専攻するインド人留学生だった母とパンジャーブ地方の技術者だった父の息子としてルイジアナ州バトンルージュで生まれた(3)。両親はヒンズー教徒であったが、ボビー本人は地元のバトンルージュ高校に在学中にヒンズーからカトリックに宗旨替えしている。ボビーは同高校・東部の名門ブラウン大学をともに優秀な成績で卒業後、イェールやハーヴァードに進学するという道を蹴り、ローズ奨学金に合格して渡英しオックスフォードで文学修士号を取得した(4)。その後、ジンダルはマッキンゼーでビジネスマンとして働くキャリアを選ぶ。



しかし、1996年には25歳の若さでルイジアナ州の厚生長官に指名されたため、ジンダルは政治の道を歩んでいくことになった。ジンダルは長官として同省が抱えていた多額の負債を2年間で4億ドルも減らすことに成功し、飛躍的にその名を高めた。それを皮切りに、1998年には「メディケアの未来を考える超党派委員会」(Executive
director of the National Bipartisan Commission on the Future of Medicare)の委員長に27歳で就任し、その後も史上最年少でルイジアナ大学機構理事長(president,
University of Louisiana system)を務めるなど、まさに順風満帆のキャリアを築いていく。2001年にはG.W.ブッシュ大統領より米国連邦政府社会保健福祉省次官補に指名され、2003年2月まで同職を務めている(5)



ジンダルは2003年にルイジアナ州知事選に打って出るも惜敗した。翌2004年には国政進出を狙い、引退するジョン・ブローの後釜を狙った上院選には破れたものの、下院選を勝ち抜きルイジアナ下院選挙区第一区から連邦下院議員に選出された。インド系が国会議員に選ばれるのは1956年カリフォルニアで連邦下院議員に選出されたダリップ・シン・サウンド(Dalip
Singh Saund)以来実に史上二人目という快挙である。ジンダルは翌2005年1月からの第109議会では陣笠議員団の団長の重職を任されたが、これは議会共和党指導部のジンダルに対する期待の高さをうかがわせるエピソードといえよう(6)。ジンダルは2006年の下院議員に再選され、2007年には二度目の挑戦でルイジアナ州の州知事に選出されている。



ジンダルの政治的立場と2008年2月の対抗演説



ジンダルは「私に一体感とはどういうことかを教えてくれるのは我がキリスト教信仰のみ」、「私は自分の信仰の中で100%を神に捧げる」と述べるなど、どちらかというとキリスト教保守とも通じる保守的な価値観の持ち主であり(7)、人工妊娠中絶や同性婚に反対していることで知られている(8)。またナショナル・ジャーナルによる投票行動に関するレイティングによれば、ジンダルの投票実績に関するレイティングは以下のようになっている。ジンダルが経済面と対外面では陣笠だったときと比べて若干穏健性を増しつつも、逆に社会面では保守性を強めていることは興味深い事実ではないだろうか。








































ジンダルのレイティング
  2005 リベラル 2005 保守 2006 リベラル 2006 保守
経  済 3% 94% 39% 61%
社  会 19% 80% 6% 92%
外  交 21% 78% 33% 63%
出典:)Michael Barone and Richard E. Cohen (eds.), The Almanac of American
Politics 2008 (Washington, D.C.: National Journal, 2007), p.715.





ジンダルは2008年の大統領選挙では副大統領候補の一人として、そして2009年2月24日には共和党の未来を背負って立つ期待の星として満を持して対抗演説(Opposition
Speech)を行った。しかし、この演説に関してはいまのところ「期待外れ」とする意見が多く、評価は芳しくない(9)。それは上に述べたようなジンダルの政治的立場とも関連するように思われるのである(10)



同演説でジンダルは「党派を問わず大統領の個人的ストーリーがアメリカ人を感動させるのだ」と指摘し、インド出身の両親の苦労話を語り、自らを意識的にオバマと対比させている点を非難する声は余りみられない。確かにジンダルの人生にはオバマと共通する点が多い。移民の親を持ち複雑な人種アイデンティティを体現していること、名門校出身のエリートでもあること、外国との接点を有すること、そして自らの才覚を頼りに立身出世を遂げた人物であること ―― ジンダルはオバマ同様アメリカ人好みのサクセス・ストーリーを想起させる。この意味で、ジンダルもまたアメリカのコアなアイデンティティ、アメリカそのものを象徴する存在であるとはいえないだろうか。




ジンダルの演説で不人気であったのはこの個人的ライフ・ヒストリーを物語った部分ではなく、むしろその後半部分だったようである。ジンダルはハリケーン・カトリナの被災を例にとって「アメリカの強さは政府のうちには見出せない。それは我々の思いやりの心、そして市民の冒険心の中にある」と述べる。さらにジンダルはこの主張を大きな政府に対する批判に繋げていき、共和党が掲げる政策案を次々と提示していくのであるが、いかに詳述するように、どうもこの一連のくだりが不評を招いているようである。




世論調査の結果をみてみると2009年1月15日の時点で「アメリカは政治的に分断されている」と考える者は46%と過去5年間で最低値、逆に「アメリカはもはや政治的に分断されていない」と考える者は45%でここ5年では最高値を記録している(11)。このように現在のアメリカではオバマが就任演説で述べたように、狭義の党派的利害を超えた超党派的連携に対する期待度が高まっていると考えられる。さらにいえば、オバマと議会共和党指導部は超党派的協力関係を築いていないとみるもののうち、共和党側が協力を阻んでいるとみるものは61%にのぼることも注目に値する(12)



以上の世論調査の結果を手がかりに考えると、国民の目には民意に基づき就任演説以来熱心に超党派的協力を呼び掛けるオバマに対し、ジンダルの対抗演説はあまりにも保守の教条的な考えに満ちており、党派心に凝り固まった共和党が超党派的協力を拒否して大統領の足を引っ張るものと映ったのではないかと思われる。あくまで私見ではあるが、このようにジンダルの対抗演説が不評であったのは、恐らく演説を通じてジンダルが民意を的確に把握していないという印象を与えてしまったからではなかろうか。




久保文明教授が指摘したように、2008年大統領選挙で敗北し少数党となった共和党には「選挙に負けたのは保守に徹し切れなかったからだ」という意見が存在することもまた確かである(13)。それを裏付けるように、ピュー・リサーチ・センターの調査では共和党員のうち、「今後同党はより保守に徹するべき」であると考えているものは共和党員全体の60%に及ぶ(14)。ジンダルの意見はどちらかというと、このような少数党に転落した共和党、とりわけ党内保守派の意見を過剰に反映したものと受け止められたのではないだろうか。そして、それは国民の多数派の見解とは異なるものと見なされているのではないだろうか。




古矢旬教授が指摘するように2008年選挙が共和党内に路線選択をめぐる内紛の危機をもたらしたことは重要である。選挙戦での全面的敗北は共和党内部に今後の共和党が歩むべき路線をめぐる論争(Soul
Searching)の引き金ともなった。いまや共和党はオバマ政権との連携を辞さない穏健で都会的な中道派と原理主義的な右派の間で路線選択の岐路に立たされている(15)。ジンダルの立場は明らかに「より右」に舵を切ろうとしている共和党右派の考えを代表するものといえよう。民主党が明確に国民からの「委託」(Mandate)を受け、政党間対立の構図が民主党優位に大きく振れ、民主党が新しい多数派連合を形成されことに成功しつつあるようにも見受けられる現在において(16)、果たして共和党が「より右」に旋回することはどの程度まで合理的かつ有効な党略といえるのか。かといって、共和党が穏健性を強めれば、それは必然的に党内右派の不満や離反につながっていく ―― ここに現在の共和党が抱える《ジレンマ》があるといえるだろう。



共和党の希望の星ボビー・ジンダルは、まさに現在の共和党が抱える《ジレンマ》をも象徴する存在といえるのではないだろうか。













































































1. Michael Barone and Richard E. Cohen (eds.), The Almanac of American Politics 2008 (Washington, D.C.: National Journal, 2007), p.716.

2. http://blogs.tnr.com/tnr/blogs/the_plank/archive/2008/10/28/is-bobby-jindal-really-quot-the-republican-obama-quot.aspx

3. Adam Nossiter, “In a Southern U.S. state, immigrants' son takes over.” International Herald Tribune, October 22, 2007.

http://www.iht.com/articles/2007/10/22/america/22louisiana.php?page=1

4. Jill Konieczko, “10 Things You Didn’t Know about Bobby Jindal.” US News and World Report, May 22, 2008.

http://www.usnews.com/articles/news/campaign-2008/2008/05/22/10-things-you-didnt-know-about-bobby-jindal.html


5. Barone and Cohen (eds.), The Almanac of American Politics 2008, p.717;

http://bioguide.congress.gov/scripts/biodisplay.pl?index=J000287

6. Barone and Cohen (eds.), The Almanac of American Politics 2008, pp.716-717;

http://bioguide.congress.gov/scripts/biodisplay.pl?index=S000075

7. Adam Nossiter, “In a Southern U.S. state, immigrants' son takes over.”
International Herald Tribune, October 22, 2007.

http://www.iht.com/articles/2007/10/22/america/22louisiana.php?page=1

8. http://www.ontheissues.org/House/Bobby_Jindal_Abortion.htm

9. http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200902260027.html

10. 対抗演説の全文は以下より入手可能であり、これを参照した。

http://www.cnn.com/2009/POLITICS/02/24/sotn.jindal.transcript/

11. http://people-press.org/report/483/confidence-in-obama-country-less-politically-divided

12. http://people-press.org/report/490/obama-stimulus

13. 『外交フォーラム』第248号(2009年3月)、23頁。

14. http://people-press.org/report/471/high-bar-for-obama

15. 古矢旬「オバマは何を変えたのか」『外交フォーラム』第247号(2009年2月)、66頁。

16. 古矢旬「オバマは何を変えたのか」『外交フォーラム』、68頁。




(2009-03-11)

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