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外国研究としてのアメリカ政党研究


西川 賢(研究員)



外国人のみたアメリカ政党

ジャクソニアン・デモクラシーの只中にアメリカを訪問したフランス人、アレクシス・ド・トクヴィルは、「アメリカの政党は特定の世界観などよりも物質的利益に依って立つ傾向が強い」という記述を残した(1)。これは外国人がアメリカ政党組織を観察して残した言葉の中では、最古のものであろう。

トクヴィルが訪問したジャクソニアン・デモクラシー期のアメリカにおいては大衆政党が高度の組織的発達を遂げ、政党組織は文字通りアメリカン・デモクラシーを体現する存在としての地位を不動のものとしつつあった。ジャクソニアン・デモクラシー期以降、アメリカの政党組織はトクヴィルが指摘したように猟官による「官職バラマキ政治」を中心とする利益供与を通じて、有権者からの支持を確保するという特徴を非常に鮮明とした。

トクヴィルのアメリカ訪問から約70年後の1907年から1913年まで駐米英国大使を務めた英国人ジェームズ・ブライスもアメリカ政党組織に関してトクヴィルと同様の記述を残している(2)。また、中国の文学者で1910年代にコロンビア大学に留学中であった胡適もアメリカの政党組織に関して以下のような感想を日記に記した。

ニューヨーク州にはタマニー・ホールというものがあり、これは政治屋などの小人が組織した政党組織であり、勢力は大きく、これに対抗しうる組織はない。ニューヨーク州の行政官は全てこのタマニー・ホールの傀儡と化している(中略)。わが中国の古い言葉にこうある。「政なる者は正なり。子、率いるに正をもってすれば、たれかあえて正しからざらん」また他にも、「身をもってこれに先んず」ともいう。これらの金言は、いまやことごとく政治腐敗の前に死語となってしまった(中略)。ああ!私がアメリカの政治の得失をこのような観点から敢えて論じるのは、わが中国においても政治家が邪な人々と繋がっており、そのようなことをアメリカとの対比で理解しようと思うからである!(3)

また、日本にもアメリカ政党に関する同様の観察を残した人物がいる。それは1910年代初頭にシカゴ大学に留学し、チャールズ・メリアムのもとで政治学を学んだ大山郁夫である。大山はアメリカの政党に関して、

いずれの政党も与党となるとパトロネージ〔註:猟官を意味する〕を行い、行政府を総入れ替えする。それはいまやアメリカ行政の一大特徴となってしまっている。かくしてアメリカの公的生活は政治ゲームの様相を呈するに至っている(4)

と、トクヴィルたちと同様にアメリカ政党における物質的利益の比重の高さをアメリカ政党に独自の特徴として指摘していた。大山はまた別の箇所においてもアメリカの政党組織に関して以下のように指摘している。

〔アメリカに特有の政党組織の特徴は〕少人数が多数を押しのけて党の主導権を握るものであるが、これは政党における病理ともいう状態である(中略)タマニー・ホールはおよそ全ての社会悪を利用してその地位を保持している(5)

以上のとおり、外国人の目には、アメリカにおいて政党が利権を配分する道具として利用され、官職や金銭などの物質的利益を有権者に供与する中心的役割を果していた事実がいささか奇異に映った。このように、政党が集票目的で有権者に利益を提供するべく作り出した組織を「政党マシーン」と呼ぶが、そもそも「政党マシーン」という「理念型」をはじめて生み出し、それを政党組織研究における学術的用語として用いたのは帝政ロシアの政党研究者オストロゴースキーであった。

オストロゴースキーは19世紀末に米国を旅行し、そこで見たアメリカ政党の独特の姿に興味を覚え、それを論文や著作にまとめていった。このオストロゴースキーの研究はその後のアメリカの政党組織に関する研究の方向性を決定付け、マックス・ウェーバーやロベルト・ミヘルス、そしてモーリス・デュヴェルジェといった後世の政党組織研究者にも影響を与えていくこととなった。すなわち、それはウェーバーの「叙任権政党」、デュヴェルジェの「アメリカ型幹部政党」など、アメリカ政党組織に関する独自の類型化のまさに端緒となる研究であったのである(6)

しかし、当のアメリカ人たちはアメリカ政党組織に他国と異なる独特の特徴が存在するという事実を長らく明確には自覚せず、それがアメリカ人研究者の関心をひきつけることはなかった。外国人研究者の指摘を受けてはじめて、アメリカ人研究者は自国の政党組織に独自の特徴が存在することを自覚するに至ったのである。サムエル・エルダーズヴェルド、フランク・ソロウフ、そしてレオン・エプスタインといった初期の米国人政党組織研究者が例外なくオストロゴースキーやウェーバー、デュヴェルジェといった外国人による研究成果を典拠としていることからも、そのことは明らかである。


結び

アメリカの政党組織に関する研究は、いわば外国人による「外発的な問題関心に根ざす外国研究としてのアメリカ政党研究」に端を発し、それがアメリカ人自身による「自国研究としてのアメリカ政党研究」に逆照射・逆輸入されることで発展した、アメリカ政治研究上の興味深い例であるといえるのではないか。
そしてそれは、外国人が独自の視点に依拠しつつ、アメリカ人にとってはあまりに自明すぎて問題視されにくい「あたりまえの点」をあえて疑問化し、それを明確な形で提示するという「外国人によるアメリカ研究」としての利点と可能性を指示するものとはいえないだろうか。







1) Alexis De Tocqueville, Democracy in America 2 vols. (New York: Alfred Knopf, 1945 rpt.), pp.174-180.

2) マックス・ウェーバー『職業としての政治』脇圭平訳(岩波文庫、1980年)、68頁;ブライス『近代民主主義・第一巻』松山猛訳(岩波文庫、1929年)、136‐155頁。

3) 胡適「一四、論紐育省長色爾捜被劾去位(十月廿日)」『胡適日記全集・第一冊(1906-1914)』曹伯言整理(台北:聯經出版事業、2004年)、245頁。

4) Ikuo Oyama, “Term Paper for the Course of Political Parties: The Merit System in Congress.”『早稲田大学現代政治経済研究所所蔵・大山郁夫関連資料』リール8(184)。

5) Ikuo Oyama, “Political Parties: Summer 1911.” 『早稲田大学現代政治経済研究所所蔵・大山郁夫関連資料』リール11(0204)。

6) Moisei Ostrogorski, Democracy and the Organization of Political Parties, Vol. II; The United States (New Brunswick: Transaction Books、1964); ロベルト・ミヘルス『政党政治の社会学』広瀬道彦訳(ダイヤモンド社、1975年)、110頁;モーリス・デュヴェルジェ『政党社会学‐現代政党の組織と活動』岡野加穂留訳(潮出版社、1970年)、38-39頁。


(2009-09-01)

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