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核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)


軍縮・不拡散促進センター 岡田美保(研究員)



はじめに

「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」は、2008年9月、日豪両国首相の合意により、2010年の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議を視野に入れ、核不拡散・核軍縮の必要性に関する問題意識を政治的に高いレベルで喚起することを目的として発足した非政府の会合である(事務局は日豪両国外務省)。ICNNDでは、川口順子元外相及びギャレス・エヴァンス元豪州外相が共同議長となり、世界各国の元国家元首、閣僚及び多数の核軍縮問題の実務経験者や専門家が委員・諮問委員を構成していることから(1) 、「賢人会議」とも称されている。また、ICNNDの活動は、世界屈指のシンクタンクとの協力による研究によっても支えられている。

ICNNDは、2008年10月以降これまで、本会合(シドニー、ワシントン、モスクワ、広島)及び地域会合(サンチャゴ、北京、カイロ、ニューデリー)で議論を重ね、また開催地の政府要人への働きかけも行なってきた。そして2009年10月18日から20日の間、広島で行なわれた第4回の本会合(最終会合)では、年内にも発表される最終報告書案について詰めの議論が行なわれた。

ICNND報告書(案)の内容

2007年初頭の元米政府高官らによる「核兵器のない世界」の提言(2) 以降、各国政府、シンクタンク、NGOなど多くの組織が核軍縮や核廃絶に向けた提言を行なってきている(3) 。こうしたなかでICNNDは、核軍縮という理想を掲げるだけではなく、核兵器国の安全保障政策や核戦略も勘案して、現役の政策決定者にとって「現実的」で「実行可能」な政策提言を目標に議論を重ねてきたことを強調している。

ICNND報告書案の骨子は、核廃絶に至る3段階の行動計画にある。初期目標達成のための短期計画(2012年まで)では、現在交渉されている米露戦略攻撃兵器削減条約(START)の後継条約後の核兵器の大幅削減交渉への着手、核兵器国による核兵器の役割を核による攻撃に対する報復に限定する旨の宣言及び核軍備を増強しない旨の合意、戦略核兵器の警戒態勢の解除(de-alerting)、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉の妥結、北朝鮮、イラン問題の解決、核兵器不拡散条約(NPT)非加盟国に対する不拡散規範の適用、核燃料サイクルの多国間化等が目標に掲げられている。

また、中期計画(2025年まで)では、ゼロを実現する前提として、核兵器を可能な限り削減する最小化地点(minimization point)に向かうための措置が挙げられている。具体的には、世界全体の核弾頭総数2,000発(うち米露が各500発)への大幅削減、全ての核兵器保有国による「核の先行不使用(No First Use: NFU)」への共通のコミットメント、核軍縮と関連する安全保障問題(核ミサイルをめぐる攻撃と防御の問題、宇宙兵器システムの位置づけ、通常戦力の不均衡に伴う安全保障上の不安)の漸進的解決、原子力の平和利用の拡大に伴う拡散リスクの低減措置などが挙げられる。

2025年以降の長期計画については、戦争・侵略の可能性が小さくなり核抑止が不要となるための政治的条件の創出、核抑止力の維持を正当化する軍事問題(通常戦力の不均衡、ミサイル防衛)の解決、核兵器禁止に係る違反を探知しうる強固な検証能力構築及び違反の処罰化、信頼性ある核燃料サイクルの確立、核兵器関連知識の管理の強化が目標として掲げられている。

報告書の立案過程で特に論点となったのは、核兵器の役割をいかに低減させるのか、特にNFUを宣言するのか否か、するとしてどのタイミングでどのような形で宣言するのか、という問題である。NFUとは、他国が先に核兵器を使用しない限り、自国は核兵器を先行して使用することはないとする政策のことである。少なくとも論理のうえでは、すべての核兵器保有国がNFUを採用すれば、核兵器の役割が核兵器による攻撃の抑止に限定され、一律に核兵器を削減しても安全を減じないことになるため、大幅な核軍縮に着手する前提として、また、核兵器国と非核兵器国の不平等性を緩和することになるため、非核兵器国による核兵器の取得の誘因を減じる措置として有効であると主張されてきた。これまでの多くの核廃絶提案が、NFUの勧告を盛り込んできたのもこのためである(4)

しかし、NFUの採用に関しては、核兵器国やその拡大抑止を受けている諸国の内外から、次のような安全保障上の問題が提起されてきた。第1に、NFUを採用すると、採用した核兵器国自身が、生物・化学兵器及び大規模な通常兵器による攻撃に対して、核兵器による抑止や報復攻撃を行い得ないことになる。第2に、NFUを採用すると核兵器国は、同盟諸国に対する生物・化学兵器及び大規模な通常兵器による攻撃に対して、核兵器による抑止や報復攻撃を行い得ないことになる。第3に、宣言上のNFUに対する確実な信頼を得ることが不可能である以上、NFUは、非核兵器国の安全保障上の懸念を低減しないばかりか、場合によっては核兵器の取得を図る国家や非国家主体による脅しを助長させることになりかねない(5)

結果的にICNND報告書は、短期計画に「核兵器国による核兵器の役割を核による攻撃に対する報復に限定する旨の宣言」、中期計画に「全ての核兵器保有国によるNFUへの共通コミットメント」を盛り込む一方で、「核兵器を保有しない(核兵器国の)同盟国に対しては強固な安全保障を供与する」とも述べて、手当てをする形をとることとなった。

今後の課題

ICNND報告書を評価するためには、年内にも発表される最終的な報告書や、それへの各国政府の反応や実行を待たなければならないが、2010年5月のNPT運用検討会議に向けた20項目の行動指針を提示したうえで、核軍縮を可能にするための政策課題を詳細に提示した点で、所期の目標には十分応えるものだといえよう。その一方で、2025年以降の核廃絶の期限を特定していないことや、2025年の核兵器の「最小化地点」における核軍縮目標が核弾頭総数で2,000発とされたことにより、米露以外の核兵器(保有)国に1,000発という数字が残されることに関して、「控え目過ぎる」との声も挙がるかもしれない。他方、現実主義的な論者からは、2012年を目途とした北朝鮮・イラン問題の解決や、戦争・侵略の可能性が小さくなり核抑止が不要となるための政治的条件の創出、NPT非加盟国に対する不拡散規範の適用など、「現実的」とは言いかねる目標が多く含まれているとの批判もなされよう。

とはいえ、世界の専門家、実務経験者による集中的な議論を行なったICNNDの活動の成果が、報告書の提示で終わってしまうことなく、今後関係諸国における核軍縮政策の叩き台となり、有意な政治的効果を発揮することが期待される。この点ICNNDは、報告書の公表後、関係各国の政府関係者に内容を説明するため、様々なアウトリーチ活動を始める予定である、としている。





(1) ICNNDの委員の顔ぶれについては、 日本外務省のホームページでも紹介されている。  http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/icnnd/pdfs/iin_houmonsha.pdf
また、関係する専門家らによる研究論文については、ICNNDホームページからアクセスすることができる。 http://www.icnnd.org/

(2) George P. Schultz, William J. Perry, Henry A. Kissinger and Sam Nunn, “ A World Free of Nuclear Weapons,” Wall Street Journal, 4 January 2007, p. 15.

(3) 代表的なものとして、核廃絶運動グループ「グローバル・ゼロ」の公表した「行動計画」や、英国政府による“Lifting the Nuclear Shadow: Creating the Conditions for Abolishing Nuclear Weapons” などがある。
  http://www.globalzero.org/en/global-zero-press-release-june-29
  http://www.fco.gov.uk/resources/en/pdf/pdf1/nuclear-paper

(4) 代表的なものとして、次がある。

・1995年のスティムソン・センター報告(The Henry L. Stimson Center, An Evolving US Nuclear Posture, Second Report of the Steering Committee, Project on Eliminating Weapons of Mass Destruction, December 1995)

・1996年のキャンベラ委員会報告(Canberra Commission of the Elimination of Nuclear Weapons, Report of the Canberra Commission of the Elimination of Nuclear Weapons, Department of Foreign Affairs and Trade August 1996)

・1997年の全米科学アカデミー報告(Committee on International Security and Arms Control, National Academy of Science, The Future of U.S. Nuclear Weapons Policy, National Academy Press, Washington D.C., 1997)

(5) なお、NFUに関する最近の議論については、Scott D. Sagan, “The Case for No First Use,” Survival, nol.51,no.3(June-July 2009), pp.163-182.;Morton H. Halperin et.al., “The Case for No First Use: An Exchange,” Survival, nol.51,no.5(October-November 2009), pp.17-46.などを参照。



(2009-11-18)

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