コラム

アメリカの大統領は後世においてどのように評価されるのか


西川 賢(研究員)



はじめに



G.W.ブッシュが退任した。同政権が過去のものとなった今、多くの人はどのように同政権を評価しているのであろうか。

下記の表1で確認しても明らかなように、ブッシュ政権に対する支持率は9.11以降上昇し続け、その後は暫時低下していった。イラク戦争が開戦すると再びブッシュ大統領の支持率は上昇したが、以降は下降線をたどり、退任時には史上最低レヴェルの20%前半にまで下がった。これを見る限り、現下でのG.W.ブッシュに対する評価はほぼ最低といってよい水準にある。














    表1:G.W.ブッシュ大統領の支持率の推移
  出典)http://people-press.org/report/478/bush-legacy-public-opinion



G.W.ブッシュ大統領は歴史的に見直される可能性はあるのだろうか。現在のところ、アメリカの国民はその点に関しても否定的な見解を有しているようである。














    表2:G.W.ブッシュの歴史的評価は?
  出典)http://people-press.org/report/478/bush-legacy-public-opinion



その点に関して、表2に示されている、昨年12月初旬にピュー・リサーチ・センターが約1500人のアメリカ人に行った世論調査の結果に注目したい。そこでは「G.W.ブッシュは将来においてどのように評価されていくであろうか」という質問に対して、28%がG.W.ブッシュはせいぜい平均的な大統領と評されるのが関の山であり、37%が平均以下もしくは酷い実績しか残さなかった大統領としか記憶されないであろうとみている。これに対し、「平均以上」が8%、「優れた大統領として評価されるだろう」と答えたものは僅か3%にすぎない。これは表に示されている過去三代の大統領と単純比較しても極めて低い評価といわざるを得ない。

では実際のところ、過去の大統領はどうだったのだろうか。退任時に酷評されながら歴史的に評価が見直された大統領というのはいるのであろうか。あるいは逆に、退任時には高い評価を残しながら、時間の経過と共にその評価を低めていった大統領というのはいるのであろうか。あるいは一貫して低評価のままの大統領というのも存在したのだろうか。次節において若干その問題について考えてみたい。




歴代大統領の「通信簿」:歴史は大統領をどのように評価してきたか



現在では比較的高い評価を得ている大統領であっても、辞任直後は不人気に悩まされるということは過去においてもままあった。


最も有名な例はハリー・トルーマンであろう。1950年に勃発した朝鮮戦争はマッカーシズムを勢いづけ、またマッカーシーは「中国喪失」をトルーマンとアチソンの責任であるとして公然と非難し続けた(ラフィーバー、204-209頁)。




またトルーマン政権末期には国内でも大規模な鉄鋼ストが発生するなど、反共ヒステリーとも相まって社会的混乱が巻き起こった。辞任直後のトルーマンの不人気も以上のような情勢を考慮すれば無理からぬものといえなくもない。G.W.ブッシュはしばしばトルーマンを引き合いに出し、歴史の評価は「ある程度の時間が経った後」に下ると語り、退任当時は不人気だったトルーマンのように、いつか自分の正しさが証明される日が来ると繰り返しているという報道もなされている(註1)。




同じくアイゼンハワーに関する評価も彼の辞任直後は芳しいものではなかった。当初アイゼンハワーは「見栄えはいいが、ゴルフばかりやっていた受動的で無為無策の政治素人」というイメージで語られがちであった。しかし、その後アイゼンハワーに対する再評価の動き(「アイゼンハワー修正主義」)が進み、現在ではアイゼンハワーに関しては、けれん味こそなかったものの優れた政治的感覚とバランスを持ち、「背後からの影響力」(”hidden-hand presidency”)を駆使した有能な政治家であったという評価がなされている(李; Greenstein; Ambrose)。




ニクソンに関しても、1982年の世論調査ではウォーターゲート事件の印象が根強く残っていたためか、ニクソンは「史上二番目にひどかった大統領」と目されていた(Stanley and Niemi, p.256)。このように辞任後まもなくのニクソンに対する評価は文字通り最低といってよかったが、近年では徐々にその功績が見直され始め、ニクソンに対する評価は回復しつつある。賛否両論あるものの中国との国交の扉を開いたニクソン(およびキッシンジャー)の外交的豪腕を水際立ったものとみる論者は少なくない(Goh; Dallek)。さらに内政面でも、ニクソン政権期の環境庁(EPA)の設置を環境保護政策の嚆矢として再評価する意見も多くみられるようになった(Hoff)。
以上からも窺われるように、辞任直後は不人気でも時間の経過と共に見直されていく大統領というのが多いように思われる。




だが、必ずしもそのようなパターンにあてはまらない大統領というのも存在する。すなわち、退任時には高い評価を残しながら、時と共にその評価を低めていく大統領というのも存在するのである。フランクリン・ローズヴェルトはそのような大統領の一人である。ニューディールに対する評価はローズヴェルトの存命中から極めて高いものであり、歴史家の評価も際立っていたが(Schlesinger; Leuchtenburg)、1960年代後半になるとニューディールは未組織の集団(とりわけアフリカ系)に対して冷淡であったという解釈も見られるようになり、どちらかというと否定的な再評価が行われるようになった(Bernstein)。すなわち、一見バラ色にみえたローズヴェルトのニューディールにも欠陥があった、というわけである。


加えていうと、ハーディングのようにその政権下で起きた疑獄事件(「ティーポット・ドーム事件」)のゆえに、今に至るまで評価の低いままという大統領も存在する(齋藤、179頁)。



無論、理論上は退任時の評価が「よい・悪い・平均的」、後世の評価が「よい・悪い・平均的」の組み合わせによって、より多くの大統領の歴史的評価のパターンを想定することが可能である。ここでは全ての類型に踏み込んで考察することはせず、以上に示した幾つかのパターンを例としてあげるにとどめておきたい。




おわりに



冒頭に見たように、アメリカ国民のG.W.ブッシュに対する評価は現在までのところ最低水準であるといってよい。同大統領に対する評価がこれ以上下がるとは思えないが、このまま功績の見直しがなされなければ、ハーディングのように最低の大統領の一人として記憶され続ける可能性もあるであろう。




もっともハーディングに関しても戦時体制から平時への復帰を成功させたこと、あるいは退役軍人省や予算局の創設したことなど、その業績に再評価がなされている側面もある(Dean)。同様に、G.W.ブッシュに関しても、今現在の評価が最低水準であることを考慮すれば、いずれ現在の我々では想定できないような側面から今後何らかの再評価がなされる可能性は高いといえよう。




註1:ロイターの記事より引用。http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-35861120090114




【参考文献】

:John W. Dean, “RANKING PRESIDENTS - Utter Nonsense Or Useful Analysis?”
http://writ.news.findlaw.com/dean/20010511.html,accessed February 2009.


:Robert Dallek, Nixon and Kissinger: Partners in Power (New York: Harper Collins, 2007)

:Evelyn Goh, Constructing the U.S. Rapprochement with China, 1961-1974: From 'Red Menace'
to 'Tacit Ally
' (Massachusetts: Cambridge University Press, 2004)

:Joan Hoff, Nixon Reconsidered (New York: Basic Books, 1994)

:Fred I. Greenstein, The Hidden-Hand Presidency: Eisenhower as a Leader (New York: Harper Collins, 1982)

:Stephen E. Ambrose, Eisenhower: Soldier and President (New York: Simon & Schuster, 1991)

:Berton Bernstein, "The New Deal: The Conservative Achievements of Liberal Reform," in Berton Bernstein (ed.) Toward A New Past: Dissenting Essays in American History (New York: Pantheon Books, 1967)

:William E. Leuchtenburg, Franklin D. Roosevelt and the New Deal: 1932-1940 (New York: Harper Collins, 1963)

:Arthur M. Schlesinger, Jr., The Coming of the New Deal, 1933-1935: The Age of Roosevelt, Vol. 2. (Boston: Houghton Mifflin 1957)

:齋藤眞『アメリカ政治外交史』(東京大学出版会、1975年)

:ウォルター・ラフィーバー『アメリカの時代:戦後史の中のアメリカ政治と外交』(芦書房、1992年)

:李鐘元『東アジア冷戦と韓日米関係』(東京大学出版会、1996年)


(2009-02-06)

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