去る3月11−12日に日本国際問題研究所と外務省の共催で「アフリカにおける『平和の定着』を求めて」と題した国際シンポジウムが開催された。同シンポジウムは、現代アフリカの紛争の特質と要因を踏まえた上で、一旦終息した紛争を如何に再燃させることなく如何に開発に繋げるかとの観点から、紛争の再発防止及び予防につながる紛争後の「平和の定着」というコンセプトに着目し、アフリカにおける効果的な紛争予防、平和創造及び平和構築のあり方、紛争問題に対する日本の貢献のあり方等を議論していくことを目的としていた。

 今次シンポジウムにおいては、紛争問題に関するアフリカの専門家及び政策実務者、フィールドでの経験を有するNGO及び国際機関等の専門家等を一堂に会し、ケーススタディーも含めた議論を実施し、TICAD�Vに向けて一つの政策提言を行うことをも目的とした。
 興味深き発言を中心に纏めた。

 佐藤理事長は「イラク、北朝鮮に世間の関心が移っている今こそ、アフリカの平和問題について議論していかなければならない。「平和の定着」及び紛争予防は、NEPAD成功のための鍵である。」旨述べた。プルニエ教授は「コンゴ(民)紛争」に関して、「コンゴ(民)紛争には多くの原因がある。ベルギーの植民地政策の拙さ。コンゴとルワンダ間の不明確な境界線。モブツ独裁政権。ルワンダにおけるジェノサイド。これが現在の紛争の引き金となった。モブツ政権崩壊後の仮初の平和の後、直ぐに紛争は再開。アンゴラ、ジンバブエ、ウガンダらが介入。カビラの暗殺後、ジョゼフ・カビラが大統領につき新局面が展開する。ジョゼフは、紛争を終結させるには、アフリカ以外の勢力の介入が不可欠であると直ぐに理解する。大半の外国勢力は2002年10月迄にコンゴより撤退する。しかし、今度は外国の勢力に操られたコンゴ内の勢力の間で争いが勃発する。ルワンダ、ウガンダ、キンシャサ政府、リビアがこれらの主要なアクター。コンゴ紛争の解決は困難。経済的な利権の争い。権力機構が空洞。国際社会の制裁も無力。外国勢力が間接的な介入を止めない限り紛争は続く。」との考えを示した。アブダラ国連SRSGは「象牙海岸」情勢について、「象牙海岸紛争は、内戦の典型的な例。外国人対象牙海岸人の対立は紛争の原因の一部でしかない。ウフエット・ボワニの後継者争い。マルクシスの会議の精神は、パワー・シェアリングと開かれた政府の実現。現在は、その実施(implementation)段階。一部の政治勢力だけでなく、様々な勢力の利権が反映される政権がつくられなければならない。これは、象牙海岸に限らない問題である。」旨述べた。

 次に、ガンバリ国連事務次官補は「アンゴラ」に関して、「アンゴラ内戦は長期化し、多くの人々を苦しめた。アンゴラは、最も資源の豊富な国であるにもかかわらず、人々は貧困に喘いでいる。91年の選挙は時期尚早であった。94年のルサカ合意も結局は実施されなかった。国連安保理はUNITAに対する制裁を強化した。アンゴラ内戦の教訓は、紛争の原因は常に複数であることと、国際社会のコミットメントが不可欠であるということである。サビンビの死後、紛争は収斂。地雷の問題は深刻。国際社会のサポートが必要。「平和の定着」のチャンス。DDRS(武装解除、動員解除、難民の帰還と再統合、再定着)が重要である。」旨述べた。

 アデデジ教授は「リベリア、シエラ・レオーネ」問題に関して、「ナイジェリアのリベリア介入の理由は、リーダーシップ、覇権的な野望とECOWASの強化。シエラ・レオーネには、カバ大統領によるECOWAS及びアバチャ元首に対する直々の要請があった。正式な手続きには則っていなかったが、早期介入は正解であった。」旨述べた。シセ国連SRSGは「中央アフリカ」に関して、「「平和の定着」の困難。社会のあらゆるレベルの病根を絶たなければ「平和の定着」の実現は困難。アフリカの平和と安全保障は脆弱。国際社会のコミットは必要不可欠。中央アフリカの例が如実に物語っている。」と述べた。シンポジウム後の3月下旬に起こった中央アフリカでの軍事クーデターが、シセが説明した中央アフリカにおける「平和の定着」の困難さを示す結果となってしまった。ムシミは「ケニア」に関して「ケニアでも部族問題は常に政治的に分類されてきた。部族の問題と政治的且つ経済的な排除は相関関係を有する。モイが退陣し、多数政党性が国に利益をもたらすということを市民は学んだ。うら若き「市民社会」が芽生えつつある。新政府、新憲法にケニアの人々は期待している。」と説明した。

 議論において、プルニエは「欧州やアジアにおいては、「国家」が形成されるまで1000年及び2000年の歳月を要した。アフリカが200年でこれを成し遂げることを願う。現在のアフリカ国家は現在の形では生き残れないであろう。紛争解決に対しては、国際社会のコミットにも限界がある。アフリカ人自身がそれを理解し、自らの運命を決していかなければならない。」旨述べた。アブダラは「象牙海岸の問題は、単なる紛争問題ではない。正当性を欠いた政府が権力の座にいることが問題。公共治安機構(Public Security Institution)の強化が必要。これはアフリカの全てのケースに当てはまる。」との考えを示した。

 更に、「紛争の解決には、国際社会のコミットが必要だが、国際社会が全てを補完することは不可能である。アフリカにおいては、国家と国民の概念が希薄である。他方で現行の国境線を動かすことは危険であり、「パンドラの函」を開けることは出来ない。」等々パネリスト間で議論された。紛争の原因としては、「民族」「部族」が挙げられるが、それは紛争の直截の原因ではない。「民族」「部族」は常に政治的に操作且つ分類され、「民族」(ethnicity)は常に、政治によって操作されている。民族、部族の政治による分類化、類型化、操作は如何にして避けられるのか。アフリカ紛争の根本的な要因としては、国家の脆弱性、国家権力の正当性の欠如、権力闘争、リーダーシップの欠如、外国勢力の影響、グッド・ガバナンスの欠如、経済的なgreed、利益の不公平な配分等が挙げられた。

 二日目の最後に、下記の諸点が本シンポジウムの提言として堀内伸介議長より示された。

「平和の定着」の為の提言
 ・権力の正当性を高めるアプローチが必要。
 ・民主主義的諸制度の強化。
 ・政治権力の透明性の徹底。
 ・国民に対して責任を有し、責任を果せる政治的リーダーシップの確立。
 ・政治過程におけるアカウンタビリティー及び政治的アカウンタビリティーの徹底
    (政治的行為に国家及び政府が責任を持つこと)。
 ・権力機構のチェック・アンド・バランス。
 ・行政府のコントロール。
 ・正当な権力による諸価値(利益)の再分配。
 ・DDRへの国際社会の財政的且つ人的支援。
 ・リージョナル及びサブ・リージョナルレベルでの地域協力(経済及び安全保障)の
    推進。
 ・NEPADにおける「ピア・レヴュー」の更なる推進。
 ・善隣協定の強化。
 ・AU諸機構(特にAU安保理)の構築と強化。
 ・アフリカ「市民社会」の育成・促進。

(了)

(担当研究員:片岡貞治)