Towards Vision 2020:
ASEAN - Japan Consultation Conference on the Hanoi Plan of Action
ビジョン2020:日・ASEAN協議会(賢人会議)



最終報告書・提言 October 2000

1.要約(仮訳)
背景
1998年12月にヴィエトナム・ハノイで開催された日・ASEAN首脳会議において、小渕恵三総理(当時)は、日本とASEAN諸国の代表者によって構成される賢人会議の設置を提唱した。 これを受けて発足した「ビジョン2020:日・ASEAN協議会(賢人会議)」の目的は、ASEANが1997年に採択した「ビジョン2020」及び1998年に採択した「ハノイ行動計画」に示された理念と政策目標に対し、日本がいかに支援できるかを検討すると同時に、将来の日本とASEANの協力関係のあるべき姿を2000年11月にシンガポールで行なわれる日・ASEAN首脳会議の際に提言するものである。
日・ASEANニュー・パートナーシップ(New Partnership)の原則
日本とASEAN諸国は、1970年代以降、協力的かつ建設的な関係を着実に築き上げてきた。 日本とASEANは地政学的な結びつきと、互いの経済発展に伴い高まった経済的相互補完性により、政治・経済的な協力関係を深めていった。 とりわけ貿易、投資、開発援助を通じた交流を通じ、1980年代には日本とASEANの相互依存関係は急速に進展した。

しかし、近年の日本とASEAN諸国は、グローバリゼーションによってこの地域にもたらされた諸現象−とりわけアジア金融危機の影響とIT革命の胎動−に直面し、伝統的なガヴァナンスの態様と制度の変容という課題に取り組む必要性が生じている。 グローバリゼーションが進展する中で、日本とASEANは切り離せない相互依存関係と、共通の脆弱性を抱えていることが再認識された。 この認識の下に、日本とASEAN諸国は共通の脆弱性を克服し、グローバリゼーションの恩恵を享受するための「共通経済圏」(common economic space)を創造する機会を与えられているのである。

ASEANが加盟国を拡大し、現在の10カ国体制へと移行したことにより、ASEANの二層化(two-tier ASEAN)という新たな現象が生まれている。 ASEAN拡大の政治過程が、不運にもアジア金融危機の時期と重なった結果、新規加盟国が求めていた経済目標に対し、原加盟国が貢献することが十分にできず、この二層化の問題は深まりつつある。 ASEAN諸国はこのようなディバイド(格差)の是正に努めているが、この課題を克服するためには、域外パートナーの協力を得ることが必要である。 その意味で、日本はASEANに協力する意志と能力を共に有した信頼できるパートナーなのである。

グローバリゼーションとASEANの二層化という二つの課題に取り組むためには、「日本とASEANの双方が共有するオーナーシップを認識できる、新しいパートナーシップ(ニュー・パートナーシップ)」を構築することが必要である。 日本とASEANのニュー・パートナーシップは、とりわけ以下の原則に基づくべきである。
  1. 対等のパートナーシップ、共有されたオーナーシップ、及び相互尊重
  2. 「ビジョン2020」と「ハノイ行動計画」の目標に沿いつつ、ASEAN諸国のガヴァナンスを向上させるための国内改革の重要性
  3. 日・ASEANニュー・パートナーシップを促進する「日本の第三の開国」の重要性
  4. 「ASEAN内のディバイド(格差)」の是正を共通の目標とすること
  5. 全ての国が参加可能な「意志あるもの同士の連帯(coalition of the willing)」
提言
ビジョン2020日・ASEAN協議会(賢人会議)は、45項目の具体的提言を採択した。 これら提言が実際に活かされることになれば、「ビジョン2020」と「ハノイ行動計画」に示された目標を、日本の協力を得つつ実現する道を開くと同時に、よりダイナミックで深化した日本とASEANの協力関係へと結びつくであろう。 この協力関係はグローバリゼーションの課題に対処し、ASEANの将来を安定させるための共通の利益となるであろう。 45項目の提言は等しく重要であるが、賢人会議は要約版の報告では、そのなかでもとりわけ早急に検討し、早期に実施すべき15項目を提言する。
賢人会議は以下を提言する:
  1. 日本とASEAN諸国は、チェンマイ・イニシアティブに基づいた通貨安定策を考案すべきである。
チェンマイ・イニシアティブはASEAN諸国、日本、中国及び韓国(ASEAN+3)の間での地域協力を促進する重要なステップとなった。 このイニシアティブに基づきつつ、十分かつ適切なタイミングで経済支援を行い、東アジアにおける金融の安定を支えることのできる新たなメカニズムの構築を検討すべきである。 その検討過程で、一部のASEAN諸国にはキャパシティ・ビルディングに向けた支援を必要に応じて提供すべきである。

  • 日本と一部の能力あるASEAN諸国は、民間セクターと国際金融公社(IFC)に代表される国際金融機関(IFIs)との共同投資によって、他のASEAN諸国の信頼回復を促進する触媒としての機能を果たすべきである。
  • 日本と一部のASEAN諸国は、持続的発展の要となる産業により多くの民間投資が行われるように、国際金融公社をはじめとする国際金融機関に働きかけることによって、他のASEAN諸国を支援することができる。 国際金融公社は、製造業と長期インフラ整備事業及び公益プロジェクトに民間セクターが共同投資するように働きかけるアクターとなる。 このような働きかけが、ASEANの成長地域への投資を促進する手段となるだろう。

  • 日本とASEANは、グローバル経済と地域経済の現実をよりよく反映させるため国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD)及びアジア開発銀行(ADB)のような国際金融機関において、東アジアの代表権を強化する努力をするべきである。
  • 国際金融機関の政策決定システム、とりわけ経済規模に応じた投票権の割当てには、東アジア経済の急速な発展が十分に反映されていない。 国際金融アーキテクチャーの改革のためには、特に東アジアの新興エコノミーが積極的に参加できるような国際金融機関の役割についての再検討が必要である。

  • 日本とASEANは、「ビジョン2020」の目標を実現するために、世界貿易機関(WTO)次期ラウンドの幅広い交渉アジェンダを積極的に支持すべきである。
  • 日本とASEANは、貿易自由化のさらなる拡大に多大な利害を共有している。 両者は他の貿易パートナーに対して、WTO次期ラウンドの早期立ち上げを強く呼びかけることができる。 幅広い交渉アジェンダは、日本とASEANに多くの課題をもたらすが、同時に共通の利益となる。 日本とASEANは、WTOの主要な諸問題について可能な限り互いに協議すべきである。

  • 日本とASEAN諸国は、WTOと整合性のとれた地域(リージョナル)レベル準地域(サブ・リージョナル)レベル及び二国間レベルにおける自由貿易を促進する各種イニシアティブを真剣に検討すべきである。 また、WTO交渉が最優先されるべきことと、ASEAN統合への影響も認識されるべきである。
  • ASEAN諸国は、ASEAN自由貿易地域(AFTA)の成立を目指しており、日本とシンガポールは、新時代のための経済連携協定の交渉を始めることに合意した。 他のイニシアティブの検討も可能であるが、それらはすべてWTOと整合性を持ったものでなければならない。

  • 日本とASEANは、アジア太平洋経済協力(APEC)を次の段階、すなわち「アジア太平洋版OECD」の創設へと移行させるための弾みを与えるべきである。
  • 経済協力開発機構(OECD)は、加盟国政府のための強力な事務局を備えた、社会経済関連情報・データの収集及び処理を行うシンクタンクであり、かつ、社会経済関連政策の調整を行うフォーラムでもある。 今日この機能は、アジア太平洋地域においては、セカンドトラックではあるが、太平洋経済協力会議(PECC)によって部分的に担われている。 アジア太平洋諸国政府は、このプロセスを進めることを通じて、自国の社会経済政策を調整することが可能となり、また、日本とASEAN諸国は、経済社会関連情報の収集・交換を通じて、このプロセスを加速化させることができる。
    日本とASEANは、カンボディア、ラオス及びミャンマーのAPECへの参加を実現すべく協力すべきである。

  • ASEAN諸国は、外国からの投資を促進し、経済活動を再活性化するために投資とビジネスの環境を整備するべきである。 特にASEAN自由貿易地域(AFTA)、ASEAN投資地域(AIA)及びASEAN産業協力スキーム(AICO)をより積極的に促進するべきである。
  • ASEANの経済統合が進むことによって、ASEAN内部の水平分業と垂直分業が促進され、その結果として市場が拡大し、日本やその他の国々からの直接投資が増大する。 日本とASEAN諸国は、経済成長を促進する上で海外直接投資(FDI)の重要性を認識し、二国間の投資協定の締結を検討することもできよう。

  • ASEANは、「e−ASEAN」を実現するために、共通のサイバー関連法、伝達情報の安全性を確保するためのインフラ及び決済ゲートウェイを確立するために一層努力するべきである。 その際、ASEANは日本が提唱している「デジタル・ディバイド」解消のためのプログラムを適切に活用するべきである。
  • 森喜朗総理は、国際的な「デジタル・ディバイド」の解消を目標とする包括的協力策(今後5年間に150億ドル程度)を表明した。

  • 日本とASEAN諸国は、カンボディア、ラオス、ミャンマー及びヴィエトナム(CLMV)の発展における大メコン圏の開発の重要性を認識しつつ、その開発に協力し、指導的な役割を果たすべきである。
  • CLMV各国において、持続的経済成長を成し遂げるためには、運輸、エネルギー及び通信という基礎的インフラの整備が緊要に求められている。 そのためには、各種インフラ、人材育成及び東西経済回廊地帯における国境を越えた協力の枠組みのためのパイロット・プロジェクトに力点をおくべきである。 これらの協力事業には、民間セクターやADB、IFC及び国際協力銀行(JBIC)などの関連諸機関の参加を促す努力が含まれるべきである。

  • 日本とASEAN諸国は、国連がグローバル・ガヴァナンスにおいて中心的な役割を果たせるように、国連安全保障理事会の改革も含めて、過去50年間に生じた新たな現実を反映するための国連の改革に向けたより緊密な協議および調整を行うべきである。
  • ASEAN諸国は、国連の包括的改革という文脈の中で、日本が国連安全保障理事会の常任理事国になることを支持すべきである。 日本とASEAN諸国は、この問題に関する諸政策の策定および調整を開始すべきである。

  • 日本とASEAN諸国は、ASEAN地域フォーラム(ARF)をこの地域における安全保障のより効果的な枠組みにするために、より緊密に協力すべきである。
  • 日本とASEANは、各国が受入れ可能な水準の透明性が確保された防衛白書の発行をはじめとした、ARFで提案された信頼醸成措置を実施するために最大限の努力を払うべきである。 そして、ARFは予防外交という次の段階への移行をより加速すべきである。
    ARFにおける信頼醸成が進展するにつれ、日本とASEANはARFのリーダーシップ自体にも、ASEAN域外諸国の役割の増大を睨んだ、より広域のコミュニティと地域の特質を適切に反映するように協力すべきである。 ARFが安全保障枠組みとして引き続き効果的で妥当性を保ち、その成功を持続させるためには、ASEAN域外諸国がARFの共同議長になるという方策も将来的に検討されるべきであろう。
    ARFが継続性を持ち、組織としての知識を蓄積することにより、ARFは政治・安全保障対話のメカニズムとしての能力を高めることができる。 そのためには、ASEAN事務局長の下に十分な能力が付与され、全ての参加国が参加可能で専門知識を集約できる常設機関が設置されることが重要である。

  • ASEANは、社会開発を促進するために、ASEAN内の様々な卓越した研究・人材育成機関(Center of Excellence)同士をリンクさせ、また日本の適切な機関との連携を強化するために、ASEAN大学システムを構築すべきである。
  • このASEAN大学システムでは、英語を使用言語とし、またインターネットや他の遠隔地教育手段を利用し、国家レベルと地域レベルの人的資源開発のニーズを満たすための授業を提供すべきである。 東アジア諸国の長所の一つは、これまでの国民への教育に対する投資である。 教育投資はグローバリゼーションの進展とともに激化する競争という文脈の中で再度強調されなければならない。

  • 日本とASEAN諸国は、裁判官、弁護士および警察官を訓練するプログラムを通じて、司法制度と社会的・人的開発の基礎である「法の支配」を整備、強化するために協力すべきである。
  • 法の支配は、ASEAN諸国に求められている改革の一側面である。 これは商業活動に限られたことではない。 法の支配は、全ての個人の権利を保護と公正な処遇を通じて、人間の安全保障を確固たるものにするのために不可欠の要因である。 日本や一部のASEAN諸国は、確固とした伝統ある法の支配の下に司法制度を発展させた豊富な経験を有している。 この経験は、協力プログラムを通じて、他の国々とも共有されるべきである。

  • 日本とASEAN諸国は、環境の悪化及び持続可能な開発に向けた努力に取り組むために、地域的および世界的な環境問題の共通関心事項について協力を強化すべきである。
  • 環境問題の多くは、越境的性格を持っている。 日本とASEAN諸国間及びASEAN諸国内の貿易と投資の増加に伴い、環境問題に関する地域協力は、持続可能な開発と人間の安全保障にとりますます重要になってきている。 気候変動のような地球規模の問題、大洪水や火事によるヘイズ(煙害)問題のような地域的な問題の双方に地域協力は重要な意味を持っている。

  • 日本とASEANは、既存のジャーナリストと編集者の相互交流プログラムを強化するとともに、双方向の教育分野の交流、青少年交流も積極的に推進していくべきである。
  • 現在、ジャーナリストと編集者の相互交流プログラムの数は減少している。 日本からASEAN諸国への派遣を増やすことに重点が置かれなければならない。
    大学レベルでは、履修単位の相互認定制度の拡充、学生・教官の相互交流の促進、及び共同研究の増進を通じて日・ASEAN大学ネットワークを強化すべきである。 さらに奨学金制度を充実させ、奨学金を真に必要とする者に提供されるようにするべきである。
    青年交流プログラムを実施する機関や組織の間で適切な調整を行うことによって、プログラムの量的および質的充実を図るべきである。 日本に英語指導助手を招くJETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)が、最近部分的にASEANにも拡大されたが、これをさらに拡充するべきである。 一方ASEANも同様のプログラムを導入して、日本語教師をASEAN諸国に招くことも検討できるであろう。 また若い学生の相互交流プログラムもさらに充実させるべきである。


    『最終報告書・提言』全文  (PDFファイル / 67.2K)
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