出版

『外交フォーラム』  2006年2月号 95p

『米国民主党−2008年政権奪回への課題』


最近、アメリカ民主党はもがいている。1994年11月の中間選挙で40年ぶりに下院での少数党に転落してから、2004年の大統領選挙 でブッシュ現大統領の再選を許すまでの10年間、ほとんど共和党に負け続けである。編者でもある久保の論文によると、民主党が 政治路線の本格的な再検討をはじめたのは、1984年大統領選挙での敗北後であるという。それは、85年に民主党指導者評議会 (DLC)を産み、そこに90年代にクリントン政権を支える穏健派・保守派の政治勢力が結集された。しかし、クリントン政権下ではじ まった民主党の凋落が、さらに新たな危機感を呼び起こすこととなったのである。

吉原論文によれば、その意味で1994年以来民主党を襲っているのは、「新しい政治潮流」であるという。そして、その最大の特徴 は、近年共和党が得意としてきた「グラスルーツ・ポリティックス」に、民主党が着目するようになったことである。その共和党 の強さから学ぶことを訴えた人物こそ、ヒラリー・クリントンであった。彼女が民主党の次期大統領候補として取りざたされる背 景には、「グラスルーツ」活動を核とする穏健派・保守派の逆襲があるわけである。

2004年の大統領選挙で、民主党候補レースで一時期旋風を巻き起こしたハワード・ディーンの登場も、そうした流れに乗った現象 であったと振り返ることができるだろう。ディーンは、2005年2月に民主全国委員会(DNC)の委員長に選出された。砂田論文は、デ ィーンを新たな求心力とする民主党政治において、リベラル派が「草の根ヴォランタリズム」によって活力を取り戻しつつあると 論ずる。

アメリカ政治は依然として民主党と共和党の拮抗状態にある。いくつかの潮流が混在する中で、もがく民主党の現状を描く本書は、 アメリカ政治の今後を考えるための必読書である。


添谷芳秀 慶應義塾大学教授