アジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP)特別会合:
インドネシアの将来とそのインプリケーション (中山 俊宏)

 3月8日から9日の二日間、ジャカルタの戦略国際問題研究所(CSIS)にて、当研究所が事務局をつとめるCSCAP日本委員会とCSCAPインドネシア委員会の共催により、国際会議「CSCAP特別会合:インドネシアの将来とそのインプリケーション」が開催された。CSCAPはこれまで地域情勢(北東アジア、東南アジア)や包括的安全保障、信頼醸成措置、国際犯罪など、多国間にかかわる問題を中心的に取り扱い、ある特定国の国内情勢を取り上げることは意識的に避けてきた経緯があるが、本会議はユスフ・ワナンディCSCAPインドネシア委員会委員長の発案により、アドホック・ベースで開催される運びとなったものである。インドネシアが多くの困難に直面するこの時期に、同国内でCSCAPがこのような会議を開催できたことは、大きな意味をもつといえよう。CSCAPの活動は主として専門家が集う国際作業部会と、よりトラックII外交の色彩が強い総会・国際運営委員会とに二分できるが、近年後者はそのフォーラム的性格ゆえに若干行き詰まりの感があったことは否定できない。昨年末にソウルで開催されたCSCAP総会においてもこのような問題が提起されたことは記憶に新しい。その意味で、本会議はトラックII外交の形態は維持しつつも、インドネシアの国内情勢という機微な問題に踏み込んだ点においてこれまでのCSCAPの活動からの発展的脱却であったといえよう

 主要参加者は、松永信雄CSCAP日本委員会委員長(当研究所副会長)、渡辺泰造・元インドネシア大使(現青山学院大学教授)、アリ・アラタス元インドネシア外相、ハスナン・ハビブ非同盟運動担当大使、ユスフ・ワナンディCSCAPインドネシア委員会委員長、ハン・スンジュCSCAP共同議長(元韓国外務大臣)、カロリナ・ヘルナンデス同共同議長(比)、スタンリー・ロス国務次官補(米)、ラルフ・コッサ・パシフィック・フォーラム所長(米)、バリー・ウェイン「エイジアン・ウォール・ストリート・ジャーナル」紙論説委員、マイケル・マリー・オハイオ大学教授(インドネシア政治)等である。日本からはほかに菊池努当研究所客員研究員(青山学院大学教授)、星野俊也同客員研究員(大阪大学助教授)などが出席した。

 会議冒頭、アルウィ・シハッブ・インドネシア外務大臣がキーノート・アドレスを行い、現在インドネシアにおいては経済危機という負のインパクトをきっかけに、過去の過ちを乗り越えるべく数多くの改革努力がなされており、ワヒド大統領のリーダーシップの下、改革努力を続けていくことの重要性が強調された。右に続き、「民主化プロセスの可能性と危険性」、「脱中央集権化プロセス」、「国軍の将来」、「地域へのインパクト」などに関する議論が二日間にわたって行われた。参加者は皆、ワヒド大統領の改革路線を歓迎したものの、中央と地方の間に残る根深い不信感を乗り越えることの困難さがアチェ地方出身者より強調されたことが、インドネシアが引き続き多くの問題に取り組まなければならない状況を象徴していた。インドネシア政府は、リアス・ラシッド地方自治大臣を中心に、米国をモデルとした緩やかな連邦国家をめざしているとの見解も紹介されたが、数多くの分裂的要素を抱えつつも、建国の理念を共有する米国とは異なり、そもそも共有理念を欠くインドネシアが機械的に米国流の連邦モデルを導入できるかどうかについては大きな疑問を抱かざるをえなかった。

 本会議は、インドネシア国内における関心も強く、数多くのプレスが取材に来ていた点も印象深かった。そもそもインドネシアでこのような会議を行えるようになったことが、インドネシアにおける民主化プロセスの定着を象徴しているものといえよう。また在ジャカルタの各国大使館員も数多くオブザーバーとして参加しており、トラックIIフォーラムとしてのCSCAPの柔軟性が再確認された会議といえよう。

(アメリカ研究センター研究員)


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