CSCAP信頼醸成措置作業部会/
予防外交ワークショップ (神保 謙)

 4月3日から5日までの3日間、シンガポールにてCSCAP信頼醸成措置作業部会/予防外交ワークショップが開催された。本会合は近年のASEAN地域フォーラム(ARF)にて信頼醸成措置と予防外交の重複部分が検討されていることに鑑み、トラックIIの立場からARFの予防外交のあり方について検討/提言を行うことを目的としている。

 本会合は5日から6日にかけて開催されたトラックⅠの信頼醸成措置に関するARF・インターセッショナル・グループ会合(ISG)と日程を合わせた結果、第1日目には多くの政府関係者(21カ国1機関のARF参加メンバーのうち18カ国)の参加を得た。そして政府サイドを代表して、タイ外務省のシハサック東アジア局審議官から「ARFと予防外交」と題する報告が行われた。このようにARFの実質的な討議に関わる外務省事務レベルの参加を得たことは、CSCAPとARFの実質的な連携関係を強める効果を持ち、またCSCAPにおける議論がトラックIで注目されていることを示している。

 主要参加者はラルフ・コッサ・パシフィックフォーラム所長(米国・共同議長)、カ・グアン・防衛戦略問題研究所(シンガポール・共同議長)、藩振強・国防大学戦略問題研究所教授(中国)、サイモン・テイ・国際問題研究所会長(シンガポール)、リザル・スクマCSIS研究部長(インドネシア)、マリア・カシミーロ外交研究所主任(フィリピン)等である。日本からは明石康・日本予防外交センター会長と筆者の2名が参加した。また、第1日目には米国よりリチャード・ソロモン・米国平和研究所(USIP)所長、ダグラス・パール・アジア太平洋政策センター所長、パトリック・クローニンUSIP研究部長等の参加を得た。

 冒頭コッサ共同議長がこれまでCSCAPで検討された予防外交の議論の現状を報告し、とりわけ昨年3月のバンコク会合で示された「予防外交の定義と原則」に関する暫定ペーパーの重要性を述べつつ、今会合ではより具体的な措置を検討するよう促した。右に続き、「今後のARFにおける予防外交の課題」と題するプレゼンテーションとともに、「予防外交ケーススタディ」として、統計学的分析や朝鮮半島を例にとった危機回避の例などが分析された。

 今回の作業部会の特徴は、第2日に予防外交シミュレーションゲームを行ったことである。これは一定のシナリオに基づき、各参加者が決められたアクターの役割をロールプレイするというものであった。今回は東南アジアの架空の島(ラムサ/ミンドロ共和国)における少数民族独立運動を発端とする紛争が想定された。ゲームは若手研究者を中心として行われ、実際に皆が紛争当事者と少数民族のリーダー、調停に乗り出すASEANトロイカなどの役割に真剣に取り組んだ。暫定的な成果として、紛争当事者間の交渉のタイミングや合意形成の難しさ、調停者としてのASEANトロイカの限定的な機能などを浮き彫りにすることができた。

 本会合全体を通した成果としては以下の二点に集約されよう。第一はARFですでに検討項目としてあがっている諸提案の具体的検討課題を提示したことである。1)「ARF議長の役割」については、その原則と手続き(役割の明確な定義と分類を含む)についてさらなる議論が必要とした上で、単なるリエゾンから、当事者間の協議仲介さらには調停という具体的機能にどこまで踏みこめるか検討すべきであることが確認された。またARF議長がこうした行動に乗り出す上で、トロイカ体制(前年度/当年度/次年度)や共同議長体制(ASEAN/non-ASEAN)の可能性について議論された。2)「専門家登録」については、ARF議長およびARF加盟諸国に対する助言、ARF議長に代わる事実調査/仲介・調停要員、トラックIIにおける提案のSounding Board、早期警戒などの役割を果たすべきことが提起された。また3)「年刊安保概観/自主的な背景説明」については、Security Outlook outlineを設定すべきことが議論された。

 本会合の第二の成果として、予防外交に関するいくつかの新規提案が示されたことがあげられる。まず1)「トラックIとトラックIIの統合化」である。今回のようなISGとCSCAPの参加者の融合のみならず、両共同議長の緊密な情報交換をすべきという意見や、より踏みこんでARFにおいてCSCAPを公式トラックII化し、ARF議長のCSCAP運営委員会への参加やCSCAP共同議長のARFオブザーバー参加を促すべきことが提案された。また2)「ARF情報/研究センターの設置」が提案され、早期警戒のための情報収集/分析のための機関となることと同時に、ARF事務局としての役割が期待された。また3)ARFにおいて予防外交メカニズムが機能しない場合、ASEANや他のサブグループが"Coalition of the Willing"を結成し、予防外交の諸措置を先行実施するアイディアも示された。

 本会合では以上のように、さまざまなアイディアを建設的に討議することができた反面、予防外交の実質的な措置が進展することを強く警戒する一部の国からは、1)内政不干渉原則に抵触する、2)信頼関係が成熟していない地域での予防外交は時期尚早である、3)既存の二国間/多国間メカニズムが機能しているのに、新規に包括的メカニズムを導入する理由がない等の否定的な見解が表明された。こうした主張国と他の参加者との議論との間で非協調的ムードが漂う一幕も見られた。

 ARFの予防外交をめぐる以上のような議論の対立も、裏返して考えれば現在のCSCAPの議論が相当程度進展してきた証左であろう。今後以上のような諸提案がCSCAPの枠組みでどのように掘り下げられ、またトラックIにどれほど反映されるのか注目されるところである。

(アジア太平洋研究センター研究員補)

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