CSCAP第8回海洋協力作業部会

(星野 俊也)

トラックⅡの立場からアジア太平洋地域の多国間安全保障協力のあり方を検討するアジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP) の下部組織の一つ、海洋協力作業部会がさる7月25−26日、フィリピンのマニラで開催された。
今回で8回を数えた会合では、R.M.スナーディ(インドネシア委員会)、サム・ベイトマン(オーストラリア委員会)の両氏を引き続き共同議長とし、多数のCSCAP加盟委員会からの参加者と、規定により個人の資格で参加した台湾の専門家による活発な意見交換が行われた。
日本委員会からは筆者が出席した。マニラ開催ということで、フィリピン海事センター(PHILMAR)が全面的に会議をサポートした。

世界地図で確かめるまでもなく、そして、その呼び名からも明らかなように、「アジア太平洋」地域での国際関係を広大な海洋の存在と切り離して考えることはできない。情報通信革命が急速な進歩を遂げている今日においても、海洋によって隔てられる物理的な距離がわれわれの眼前からなくなるわけではない。むしろ、海洋は、沿岸国にとっては領域の一部を構成し、また、排他的な権利を行使できる経済水域を提供する。
こうして世界を結ぶ海上交通路(シーレーン)は、公海と、各国の主権が行使される水域とが交錯するなかを通り抜けることになるが、領域の画定や資源の配分をめぐる未解決の問題は山積しており、紛争の潜在的要因となっている。
近年、海上での、あるいは船舶に関する犯罪・違法行為−海賊、海上テロ、麻薬や人間の密輸、違法操業、環境破壊など−も急増している。
さらに、海軍同士の信頼醸成や偶発的な衝突に対する予防や対策も重要視されている。これらはいずれも共通の安全保障の課題であり、地域としての取り組みが重要でありながら、必ずしも十分な手立てが講じられてきたとはいえない。
海洋安全保障をめぐる地域協力をCSCAPが重視していることは、まさにこうした背景によるものであり、作業部会としてはこれまでに「海洋協力に関するガイドライン」をCSCAPの政策提言である「メモランダム」としてまとめ、ASEAN地域フォーラム(ARF)に提出している。

今回は、アジア太平洋地域における①海洋安全保障状況の現状評価、②域内での具体的な海洋協力活動の経過報告、③「海上における法と秩序」に関する新メモランダム草案の検討、を中心に議論した。
第1の、域内での安全保障状況については北東アジア、東南アジア、南太平洋という三つのサブ地域についての分析があった。 北東アジア情勢について報告した中国が、いつも通りに二国間軍事同盟やTMD(戦域ミサイル防衛)構想を批判しながらも、北東アジアの概況としては緊張緩和と安定に向かっていることへの肯定的な評価をし、「対立や立場の相違が生じた場合、関係当事者は、武力の行使や威嚇をせず、あくまでも自制をし、協議と対話で解決をめざすべきである」との立場を強調していたことが印象的だった。 これは、中国として、主権と内政不干渉原則を盾にもっぱら自国への批判に抵抗するのではなく、実利主義にもとづいた柔軟な外交に取り組み、積極的に地域の海洋安全保障協力の推進(海軍間の交流や相互協力も言及されていた)にも努力する用意の表れとして注目された。このほか、東南アジアの文脈では当然に南シナ海の領有権問題が話題となったが、ここでも「地域行動規範」の早期作成がコンセンサスであった。
第2の域内における海洋安全保障協力活動の経過についてだが、南シナ海ワークショップ、北東アジアの海軍協力、南太平洋における漁業管理、環境協力に向けた各国の取り組みが紹介された。わが国としても、本年3−4月に政府主催で海賊対策国際会議が開かれており、その成果を報告したところ、多くの高い評価が寄せられた。
第3のメモランダム草案については、前回、CSCAP国際犯罪作業部会との合同で開催された会合以来、草案作りが進められていたが、テクニカルな用語や表現の問題もあって、次回に継続して審議することとなった。
次回会合は、中国委員会が主催を快諾し、11月19−21日に北京で開催される。再び中国の積極姿勢がみられた場面だったが、CSCAPのメンバーでありながらこれまで本作業部会に参加したことのなかった北朝鮮からの専門家も招く方向で調整することも確認された。

(アメリカ研究センター客員研究員)

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