
CSCAP信頼醸成措置についての作業部会 (桂 誠)
去る5月21日から23日までワシントンにてCSCAP(アジア太平洋安全保障協力会議)の信頼醸成措置についての作業部会が開催され、わが国から栗原弘善核物質管理センター専務理事、筆者等が出席した。
議長は、主として米国CSIS太平洋フォーラムのラルフ・コッサ氏が務め、米国、加、中国、韓国、ASEAN等のほか、北朝鮮、台湾からも参加者を得た(なお、昨年末の中国のCSCAP正式加盟に伴い、台湾については、作業部会に専門家が個人の資格で−−「CSCAP台湾」としてではなく−−参加することのみが認められている)。
ロシアについては本国からの出席者がなかったことが目立った。
さて、御存知のとおりCSCAPは、94年6月にARFとほぼ同時に発足した、ARFのいわばトラック2であり、アジア太平洋地域の国際問題・安全保障問題研究者のほか、各国政府の関係者も個人の資格で議論に参加する、対話のフォーラムである。
信頼醸成措置についての作業部会は、これまで多くの問題につき討議を行ってきたところ、今回は、特に核不拡散問題が討議の中心であった。
予防外交についても議論が行われたが、以下に、核不拡散問題についての議論をご紹介する。
1. 米国の「核不拡散強硬派」の主張とわが国の考え方
米国の安全保障問題研究者の中には、原子力発電所の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを抽出し、これを原子力発電に再利用することにつき、核拡散防止の立場から強い懸念を表明する者がいる。
彼らは、アジア太平洋地域において、かかる核拡散防止上の問題を解決するためには、共通の再処理施設等を設立し、各国が各国別の再処理によりプルトニウムを保有・蓄積することを防止することが必要であると主張する。
また、このため、欧州のユーラトムに倣って「アジアトム」ないし「パシフィカトム」を設立することを提案する者もいる。
これに対し、わが国の大方の関係者の意見が一致していると思われる点は、(イ)アジア太平洋地域の協力を原子力分野でも進めることには賛成であり、特に、安全性の分野での協力を進めていくことが適当と考えられる、かかる意味で「パシフィカトム」の設立には賛成できよう、(ロ)ただし「パシフィカトム」が欧州のユーラトムのように独自の査察活動を行うことについては、IAEAの査察活動と無用の重複があってはならないであろう、(ハ)わが国が使用済燃料の再処理を行いプルトニウムを抽出したり、あるいはかかる再処理を英仏に委託してプルトニウムの返還を得ることは、ことわが国に関しては、核拡散防止上何ら問題はないはずである、いずれにせよ原子力平和利用の面で、わが国が核兵器国との間で差別されることは受け入れられない、といったところであろう。
他方、わが国以外のアジア太平洋地域の国・地域、特に核拡散防止上問題があり、かつエネルギー上の必要がないと思われる国・地域が、将来において同様のプルトニウム利用政策をとろうとした時に、わが国としていかなる対応をするのか、核拡散防止上の問題を解決するために共通の再処理施設等を設立することに賛成すべきなのか等については、わが国国内にコンセンサスはないと考えられる。
今回の作業部会においては、米国の「核不拡散強硬派」の主張が繰り返されたのに対して、わが国からの出席者は、私自身も含めて、上記のようなわが国国内の現状を踏まえて種々議論を行った。
この結果として、議論の大勢は、「パシフィカトム」がIAEAの査察活動と無用に重複するような査察活動を行うことは不適当である。
いずれにせよ、安全性の面での協力からこの地域の原子力地域協力を積み重ねていくことが適当であろうとの方向に傾いたものと考えられる。
2. 日米以外の参加者の発言
中国については、本件についての国内の検討が終わっていないようであった。
台湾については、原子力分野での国際協力は基本的には二国間で行っていく方針であるとしつつ、安全性の面での協力に関心を示していた。
北朝鮮については、核不拡散上問題なのは、米国の核兵器がこの地域に展開されていることである等として、本件問題には直接ふれなかった。
3. 以上を踏まえて、本件作業部会としては、本年秋に、原子力の専門家からなる研究グループを設けて、この地域での原子力協力の可能性をさらに探求することとなった。
(所長代行)
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