CSCAP-JAPAN公開シンポジウム (星野 俊也) 

 1997年12月19日、ホテルオークラ「平安の間」においてアジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP)日本委員会の主催(外務省後援)による公開シンポジウムが開催された。中心テーマは「アジア太平洋における信頼醸成をめざして−北東アジアの視点から」というもの。本シンポジウムは、東京においてCSCAPの第8回国際運営委員会が開かれ、いわゆる、「トラックⅡ」の、民間レベルでの全地域的な安全保障対話の推進のために第一線で活躍するCSCAPメンバーが集まる機会を利用し、右メンバーを中心に公開の場で議論を行う初めての試みとして企画されたものであった。この結果、本シンポジウムは北東アジア情勢を議論する多国間の公開パネルとしては、日、米、中、ロという四大国の代表に南北両朝鮮の代表が加わり、ASEANの有識者も東南アジアの経験を語るという、わが国でほとんど最初の機会ともなった。
 シンポジウムは松永信雄、ノルディン・ソピーCSCAP国際運営委員会両共同議長が共同司会者となり、以下のパネリスト(国名abc順)がそれぞれの立場から報告を行った。

石 春来 中国国際問題研究センター総幹事(中国)
朴 現材 軍縮平和研究所対外関係室長(北朝鮮)
ユスフ・ワナンディ 戦略国際問題研究所会長(インドネシア)
山本吉宣 東京大学教授(日本)
金 達中 延世大学教授(韓国)
ユーリー・ミハイロヴィッチ・バトゥーリン ロシア連邦大統領補佐官(ロシア)
ジェームズ・ケリー パシフィック・フォーラム戦略国際問題研究所所長(米国)

 冒頭、松永日本委員長からは、アジア太平洋地域においては最近、活発な首脳間外交を始め朝鮮半島の恒久的な平和のための四者協議や韓国大統領選挙など重要な動きがある反面、東アジア全体を覆う金融問題が新たに地域協力に及ぼす影響も出てくるなど、新たな状況の変化のなか、CSCAPとしては熱心な討議を行っているところ、特に今回、北東アジアの関係諸国からの代表が一堂に集まり、本公開シンポジウムを通じて時宜を得た討論ができることをうれしく思うとの挨拶があった。 続いて本シンポジウムを後援する外務省を代表し、孫崎享国際情報局長からは「従来の固定観念に縛られることなく、自由な発想においてこの地域の将来について活発な議論を行うことが重要であり、政府として、これまでCSCAPが果たしてきた役割を高く評価し、今後も積極的に支援していきたいと考えており、さらに今後の課題として、セカンドトラックの取り組みと政府レベルとの取り組みと有機的な関係を形成していくこと、CSCAPの各種の有益な取り組みをARFに反映させていくことが必要であることから、本日の討議が、外務省として、今後の政府レベルでの議論の参考となる成果を作り出すことを祈念したい」との祝辞が述べられた。
 パネルディスカッションでは、まず中国の石大使より、北東アジアは日、米、中、ロという大国の勢力が交わる結節点であるが、今日、これらの大国間に新しい「戦略的なパートナーシップ」が生まれつつあり、ハイレベルでの信頼醸成努力が地域の安定と繁栄の確保に寄与していること、また、アジアでは経済危機が発生しているが、グローバリゼーションは経済発展には不可避であり、開放政策は継続すべきであるといった前向きな報告があった。 朴氏は、21世紀には南北双方が同意できる方法での統一をもって迎えることが朝鮮民族の希望であると語り、北朝鮮の提案する南北の「連合国家」構想が「一国二制度」的なかたちで実現可能なのではないか、との指摘があった。
 東南アジアの視点から、ワナンディ氏は地域協力に大きな期待を寄せており、信頼醸成から予防外交を展望するASEAN地域フォーラムは北東アジアにおいてもきわめて重要であり、CSCAP作業部会での諸活動も地域に「コミュニティ意識」を醸成する上で有益であると強調した。 この点、CSCAP北太平洋作業部会の共同議長でもある山本教授より、同作業部会が、北東アジアの問題に関係するすべての国からの代表が参加する唯一の「フルハウス」の討議の場であり、経済危機と安全保障、国境における信頼醸成、あるいは経済協力の枠組みについて実際に活発な議論が交わされていることが報告され、また日本としても、今日では信頼醸成措置の推進が日米安保体制とともに重要な政策手段になっていることなどが指摘された。
 金達中教授からは前日に実施された大統領選挙による金大中候補の当選が自由な選挙を通して行われた韓国最初の政権交代であり、今後が期待される一方、朝鮮半島情勢の将来については、一定の前進は見られるが、大国のイニシアチブ、多国間の枠組み、そして特に南北関係の改善という三つのレベルでの信頼醸成努力をさらにバランスよく進展させていくことが韓国新政権の外交の最重要課題であるとの考えが表明された。 ロシアのバトゥーリン補佐官も北東アジア情勢が現在、相対的に安定し、首脳の個人間の信頼関係も進んでいることには同意するが、世界でも有数の戦略的要衝に位置するこの地域に再び「戦略的不安定性」がもたらされる余地も残っていると楽観的な見方に注意を促した。 また、朝鮮半島問題については、ロシアと日本がより積極的な役割を果たすことはすべての関係諸国の利益にかなうはずとの意見であった。
 米国のケリー所長は、アジア太平洋地域における多国間のプロセスはきわめて有益であることは論を俟たないが、それが日米同盟関係のような長期的な二国間の関係に置き換わるものでないと考えを述べた上で、米国のこの地域への深いコミットメントは政府レベルやCSCAPのような民間での信頼醸成努力を通じて支えられていることなどを強調した。
 その後、会場からの質疑応答も加わり、活発なやり取りが行われた本シンポジウムを総括して松永委員長は、北東アジアの視点からみたアジア太平洋の安全保障を確保するための信頼醸成について、ARFやCSCAPを中心とする地域的な協力が今後さらに促進、強化されるべきであること、首脳外交などハイレベルでの政府交流による相互信頼関係や友好協力関係の促進が将来の地域安全保障にとってますます重要になるであろうこと、さらに経済発展と政治の安定は不可欠な相互関係にあることなどを論じた上で、米軍の存在がこの地域において果たしている役割と責任についても十分見きわめる必要があること、また、朝鮮半島情勢については、先行きの展望に不透明なところはあっても、新しい方向への変化に向けた積極的な動きも始まっており、悲観的にならず、むしろ問題の平和的解決のために国際社会が協力するという立場から考える必要があること、などを指摘した。

(アメリカ研究センター主任研究員)

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