
CSCAP CSBM作業部会の開催について (黒田 裕幸)
1997年10月30日(木)、31日(金)両日、CSCAPのCSBM(信頼・安全保障醸成措置)作業部会が福島で開催された。同部会では、原子力の平和利用と核不拡散を推進するため、アジア太平洋地域に多国間の原子力地域協力の枠組み作りの可能性を模索し、過去3回活発な議論を交わしてきた。この中で、原子力の安全性や放射性廃棄物処理問題といった各国が認識を共有できる問題から協力を始めることで大方の認識が一致する一方、日本のプルトニウム利用への懸念が多く表明された。そこで東京電力の協力の下、福島第1原子力発電所の見学を盛り込んで作業部会を開催することとなった。
福島第1原子力発電所では、原子炉を運転・制御する中央制御操作室や燃料貯蔵プールを見学した。特に今回の見学の成果の一つは、参加者全員がIAEAの監視体制を実際自分の目で確認できたことである。つまり、参加者がIAEAにより封印された原子炉の状況を見たり、IAEAが設置した監視カメラを見て、日本の原子力発電所においてIAEAの査察体制がどのように行われているかを実際に確認することができた。
また、新設されたばかりの燃料貯蔵プールや乾式ドライキャスクの現状を見ることにより、参加者は、使用済み燃料問題が緊急の課題であることを認識し、今後の地域協力の進め方についてヒントを得ることとなった。見学後、同所会議室で開かれた作業部会では、動燃より事故の説明がなされたり、アジア太平洋地域における原子力協力機構では、核不拡散防止条約(NPT)とは異なり、核保有国、非核保有国ともに平等の義務を負いながら、各種の活動ができるようにすべきだとの意見が聞かれた。
2日目は福島県広野町のJビレッジに会場を移し、作業部会を続けた。この中で、原子力利用の透明性向上のために、原子力技術者の相互派遣や各種データなどの情報交換、またアジア・太平洋地域の原子力状況を把握するための「原子力白書」の共同発行などのアイデアが紹介された。このことを踏まえ、明年春にワシントンで開催される作業部会では、原子力の地域協力についてさらに論議を深めていくこととなった。
諸外国より、日本の原子力政策、とりわけプルトニウム利用に関して厳しい批判を受けている中、今回のCSCAP CSBM作業部会は、日本の原子力政策の現状を的確に伝える絶好のチャンスとなった。会議後、コッサ作業部会長は、「原子力発電所の見学は、日本の原子力政策に対する透明性の向上に大いに役立ったと思う」と述べた。12月7日付朝日新聞にこの会議の内容が報道されたが、このことはトラックII会議において原子力の平和利用問題を論議していくことが、地域の信頼醸成の点からも非常に重要であることを示している。官民含めたトラックIIにおける今後の原子力論議に大いに期待したい。
(太平洋経済協力会議(PECC)日本委員会事務局事務局長代理)
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