CSCAP北太平洋作業グループ第4回会合 (菊池  努) 

 CSCAP(アジア太平洋安全保障協力会議)北太平洋作業グループの会合が、1998年11月8-10日に北京で開催された。東京、バンクーバー、幕張に続く第4回目の会合である。会合には、山本吉宣(東京大学教授)、ブライアン・ジョブ(カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学教授)両共同議長のほか、いわゆる2+4の日本、米国、中国、ロシア、韓国、北朝鮮に加え、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、モンゴル、ベトナム、フィリピン、EU、台湾などから専門家が参加した。 また、中国の研究機関、政府、在北京の各国大使館関係者もオブザーヴァー出席した。わが国からは、山本教授のほか、高木誠一郎・政策研究大学院大学教授、神山武・当研究所研究調整部長ほかが出席した。なお本会合は、第2回会合以降、北太平洋に大きな利害を有する関係諸国すべてから関係者が参加する「フル・ハウス」会合として、世界で唯一のものである。

 会議は、アジアの通貨・経済危機と北東アジアの安全保障、近年の大国間関係の変容と北東アジア国際関係の影響、朝鮮半島における南北関係の推移、北東アジアにおける拡散の問題と国際的な不拡散体制の今後、を主要テーマに構成された。

 通貨危機の影響に関しては、危機がインドネシアやロシアの改革を遅延させる効果を有することがあること、各国が「内向き」の政策運営を行う結果、地域の問題への取り組みが手薄になる可能性があること、ASEANの外交力の低下が地域組織(ASEAN,ARF,APECなど)の活動を低下させる可能性があること、経済はもとより「人間の安全保障」といった広義の概念がこの地域の安全保障に取り組む際に重要になっていること、南北朝鮮間の経済交流が停滞する可能性が大きいこと、等が指摘された。 通貨危機がアジアの国際関係全般に及ぼす影響については、日本の経済的苦境、ロシア経済の混乱、中国の人民元維持の努力、アメリカの経済的繁栄とIMFなどを通じての指導力の発揮などを踏まえて、アジアでの大国間関係の変化(「米中の台頭」)を予測する意見がある一方で、米中両国の国際、国内両面での問題の深刻さを指摘し、「米中の台頭」という見方に異論も表明された。 また、日韓自由貿易協定締結の議論等も踏まえて、通貨危機が北東アジアにおけるサブリージョナルな協力を促しているとの意見も表明された。

 朝鮮半島問題に関しては、KEDOプロジェクトを他の分野での協力の「モデル」とすべきであるとの意見が出される一方で、北朝鮮がKEDOを他の協力の「モデル」とすることに警戒的であるとの指摘もあった。 米朝関係については、北朝鮮にとって米朝関係の改善が重要な課題になっているが、在韓米軍の存在、米朝平和条約締結のタイミング等をめぐって異なる意見が表明された。 米朝「枠組み合意」についての米朝双方の認識の違いが改めて浮き彫りになったといえよう。南北朝鮮関係については、金大中政権の「太陽政策」への全般的な支持があった。また、通貨危機の発生によって韓国内での南北統一の機運は著しく低下したが、「吸収」や政治体制崩壊への北の懸念は根強いとの指摘があった。 北東アジアの他国間対話の枠組みに関しては、日本やロシアの主張する6カ国方式案などが議論されたが、意見の一致はみられず、当面四者協議の前進を図ることが重要であるとの意見が有力であった。

 不拡散問題については、国際的な不拡散体制とインド・パキスタンの核実験問題、98年8月の北朝鮮のミサイル実験、日米TMD開発問題、ミサイル売却およびミサイル技術移転問題などが議論された。 北朝鮮のミサイル実験に関しては、結果的に日米TMD開発を促す効果を持ち、日中、米中関係に紛糾要因を加えたとの指摘があった。なお、TMD開発への中国の警戒心はきわめて強く、会議でも強い反対論が表明された。

 「フル・ハウス」会合として3回目を迎え、深刻な対立点は残るものの、今回の会議では参加者の間でより自由な議論ができるようになった。小さな一歩だが、こうした努力を積み重ねることがこの地域の信頼醸成には不可欠であるとの認識で参加者は一致、今後も対話を続けることになった。次回会合は本年の9月ないし10月に日本で開催の予定である。

 最後に、「フル・ハウス」会合を実現するために尽力された両共同議長ならびに会議の開催にあたってお世話になったCSCAP中国委員会に謝意を表したい。

(アジア太平洋研究センター客員研究員)


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