
CSCAP(アジア太平洋安全保障協力会議)北太平洋作業部会第5回会合 (菊池 努)
CSCAP北太平洋作業グループの第5回会合が9月26〜28日、当研究所で開催された。
昨年11月の北京会合に続くものである。
山本吉宣(東京大学教授)、ブライアン・ジョブ(カナダ・ブリティシュ・コロンビア大学教授)両共同議長の下、日本、アメリカ、カナダ、ロシア、中国、韓国、モンゴル、フィリピン、ベトナム、シンガポール、タイ、オーストラリア、ニュージーランドの各委員会からそれぞれの分野の専門家が参加した。
また、台湾からも参加者を得た。
これまで継続して会合に参加してきた北朝鮮委員会は、今回は諸般の事情で欠席したが、かわって北朝鮮の事情に詳しい専門家が参加した。
会合では四つのテーマがとりあげられた。
第一に大国間関係。
近年、「首脳外交」に象徴される大国間関係の再定義の動きが顕著であるが、それは「大国協調」や「協調的な二国間関係」と呼ばれる地域レジームに発展するのだろうか。
大国間関係は対立と協調を同時に重ねもつ複雑な展開を示している。
米中関係はその典型であろう。中国からの参加者から、大国間にはさまざまな紛争や対立があるが、「協力と対話」を重視するという基本に変化はないとの指摘があった。
また、大国間関係を安定化させる際に問題なのが国内的なコンセンサスの欠如であり、これが政府の対応を一貫性のないものにしている。大国間関係にとって国内政治の影響がますます重要になるとの指摘もあった。
第二は朝鮮半島問題である。
ここではペリー・レポートや会合の直前にまとまった米朝ベルリン合意、四者会談、KEDO、日米韓の政策調整等、多様な問題が議論された。
米朝合意に関しては「重要だが小さな一歩」とする評価があった。「平和協定」に関しては、これを米朝間で締結すべきであるとする意見と、四者会談での合意を重視する立場など、意見の対立があった。
日米韓の政策調整に関しては、三者間の包括的・総合的な政策調整が朝鮮半島の平和と安定をはかる上できわめて重要であると評価する意見が出る一方で、これが北朝鮮に対する敵対的な結束の強化という印象を与えるならば朝鮮半島に深刻な問題を生むとの指摘もあった。また、日米韓の間で政策の優先順位をめぐって対立が生まれる可能性を指摘する意見もあった。
第三は、北東アジアにおける拡散の問題である。
ミサイルの開発と移転、これに対抗する戦域ミサイル防衛システム(TMD)開発問題などが議論された。
TMD問題は多様な側面を有す。ひとつは北朝鮮のミサイル開発への抑止手段としてのTMD開発という側面である。
北朝鮮のミサイル開発に関しては、命中精度の低さゆえに大量破壊能力をもった弾頭が装備される可能性があり、この点で核や生物化学兵器の開発が同時に問題となるとの指摘があった。TMD問題はまた、中国と日米同盟との「安全保障ディレンマ」を象徴するものでもある。
「防衛」兵器の開発が軍拡の引き金になるかもしれないとの懸念はこのディレンマを反映している。会合では日米同盟強化への懸念や日本の防衛上の役割強化への懸念が表明される一方で、TMD開発の背景にあるミサイル開発問題での新たな地域的な合意の必要性を説く意見も出された。
TMD問題は米ソ間の核軍備管理の問題とも深く関わっている。ロシアが懸念するのはTMD開発の技術が米国のNDS(国家戦略防衛システム)に転用されることである。
アメリカのNDS開発はABM条約違反であると主張するロシアは、これに抗すべく多弾頭型のミサイル開発に力を注ぐことになろうとの指摘もあった(ロシアの多弾頭化もABM条約違反である)。
すなわち、TMD開発は米ソ核軍備管理レジームの動揺という問題が生む可能性があるとの指摘である。
第四は北東アジア(東アジア)の経済協力に関する諸制度がこの地域のガヴァナンスにどのように貢献しているかという問題である。
地域レジームが未発達といわれた北東アジアも近年、グローバルの拡大、アジア太平洋レジームの形成、サブ・リージョンでのレジーム形成などのさまざまなレベルで経済を中心としたレジームが形成され、一定のルールと規範がこの地域にも適用されるようになった。日韓自由貿易協定締結の動きや南北朝鮮間の経済協力など新しい動きもある。
大国間関係の再定義の動きもある。これらはひとつひとつは国家の行動を厳しく制約するものではないが、それらが相互に連関してこの地域に重層的なガヴァナンスの構造を作り上げる可能性があることが指摘された。
本作業グループの次回会合は来年の初夏にウランバートルで開催する予定で準備が進められている。今回欠席した北朝鮮委員会を含め、関係委員会のすべてが揃った「フル・ハウス会合」を通じて忌憚のない意見交換を行い、この地域の信頼醸成の一助となることを念じている。
(アジア太平洋研究センター客員研究員)

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