活動記録

第44回JIIA国際フォーラム
ビル・リチャードソン  ニューメキシコ州知事講演

Photo:ビル・リチャードソン

2004年6月15日、ビル・リチャードソン 米ニューメキシコ州知事を招き、第44回JIIA国際フォーラムを開催したところ(於ホテルオークラ)、講演要旨は以下の通り。リチャードソン州知事は、クリントン政権時代には、国連大使、エネルギー長官等の要職を歴任し、2002年からニューメキシコ州知事を務めている。(なお、以下は、当研究所が作成したサマリー。)    (文責:中山俊宏)

講演要旨

私は日本には大変親近感を感じており、1970年代以来、すでに13回日本を訪れており、その中には国連大使として2回、エネルギー長官として3回、下院議員として数回の訪問が含まれています。佐藤行雄理事長とは、1970年代以来の付き合いで、時期はわずかにずれましたが、互いに国連大使も務めました。今日は、このような場で話しをさせていただく機会を与えて頂き、光栄に感じています。
今日は主に二つのテーマ、大統領選挙を中心とする米国の内政動向と米国の北朝鮮政策について話したいと思います。この二つのテーマは、直接関連し合うものではありませんが、自分は両者に深く関わってきたので、これについて話しをさせていただきます。

まずは、現在の日米関係について言及したいと思います。最初に申し上げておきたいのは、古い認識を捨てて下さいということです。この古い認識とは、共和党の方が民主党よりも親日的だという思い込みです。どちらの党が政権についていても、日本は米国にとって最も重要な国であるという位置づけに変わりはありません。民主党の大統領候補であるジョン・ケリー上院議員は、上院外交委員会で20年もの間、委員を務めてきた国際派であり、しばしば日本を訪れており、さらに自由かつ開かれた貿易を支持し、同盟関係の重要性を認識しています。
日米関係は、いままでになく強固なものだと言えます。1854年、両国は日米和親条約を結びました。当時、この二国関係が、世界で最も重要な二国関係になると誰が予測できたでしょうか。たしかに難しい時期もありました。しかし、日米関係以上に、かつて敵対していた二つの国が、強固且つ安定した関係を取り結べるという見本を示した例はありません。明治時代の日本は岩倉使節団を米国とヨーロッパに派遣し、西側から多くを学ぼうとしました。いまでは米国民の多くは、イチローや松井の大ファンでもあります。さらに、寿司、天ぷら、日本映画、アニメーション、そして日本の先進的な技術に感銘を受けております。私は今日、ニューメキシコ州の知事として、日本の最先端の技術、日本からの投資、そして成長を続ける日本経済に参加したいという思いでここに来ています。日米関係の発展は、日米両国民のみならず、世界にも多く寄与するところがあります。両国は、大量破壊兵器の拡散防止、紛争地域の安定化、文明を脅かすテロリズムの害悪を防ぐべく緊密に協力し、また新たな技術開発、環境の保全、化石燃料への過度の依存からの脱却を目指しています。特に、化石燃料問題は重要であり、日米は再生産可能な代替エネルギーの開発により積極的に取り組むべきであります。両国は、世界の富の40%を生み出し、また、最先端技術を開発しています。いま私がこうして話している間も、日米両国はイラク国民を手助けするために、同国において緊密に協力しています。
以上の状況を踏まえれば、大統領選挙において誰が勝とうとも、ホワイトハウスには日本の心強い友人がいるということに変わりはないでしょう。民主、共和両党ともに、変わらぬ信頼と友情関係をベースにした強固な日米関係に深くコミットしています。最近の世論調査によれば、68%の米国民が日本を信頼すると答えています。また80%の米国民が日米は共通の価値観を有すると答えています。日本は、今日のアメリカにおいて、イギリスよりも親近感を持たれています。日米関係は、もはや単なる技術的、経済的関係とは見なされていません。それは、友情関係であり、同盟関係であると見なされています。我々は世界中で協力していますが、日米同盟は地域の安定には不可欠であり、アジアの経済発展には不可欠の存在となっています。朝鮮半島情勢をめぐる六者協議の場での協力は、日米が極めて重要な役割を果たしている一例であります。
日本は、地域問題を超えて、よりひろい国際情勢にも米国と協力しつつ積極的な役割を果たすようになっています。ひとつ友人としてアドバイスをさせてください。日本は大国としての地位に見合った役割を国際社会で担うという大きな挑戦に直面しています。第一に、エネルギー長官時代、私は常々日本とヨーロッパがなぜ原油価格の高騰を抑えようとOPEC諸国に働きかける米国と緊密に協力しないのだろうかと疑問に思ったものでした。この問題には日本も大きな影響を受けるはずです。我々のような原油消費国が、より積極的な役割を果たすことが、ペルシア湾の状況がますます不安定化している中で、重要になっていると考えます。ゆえに、我々は、ペルシア湾からの原油に過度に依存しないよう、代替エネルギーの開発により積極的に取り組む必要があります。
第二に、私は国連大使時代、安全保障常任理事国以外にも二つの大国があると一貫して主張してきました。ひとつは日本であり、もうひとつはドイツであり、両国の常任理事国入りを強く主張しました。イラク情勢の影響もあり、この問題は現在あまり真剣に議論されていませんが、日米は協力して、これを実現させるべきです。それは日本が有力な援助国、経済大国であるばかりでなく、アフリカ、アジア、南米、ボスニアにおいて平和維持大国でもあるからです。佐藤行雄理事長は、国連大使として、これを積極的に押し進めましたが、米国も国連を最活性化させるべく、大きな役割を果たさなければなりません。日本が、どのような分野で積極的な役割を担えるのかもしっかりと理解しなければなりません。日本は最大の経済援助国の一つです。しかし、1945年以来、アメリカ、ヨーロッパ、日本は、第二次大戦後に設立された国際機関(IMF、世銀、ADB)をこれまで真剣に見直そうとはせず、世界が大きく変動する中、第三世界諸国が真に経済的に自立できるようにするための制度づくりに取り組んできませんでした。日本は最大の貸し付け国でありますが、世銀総裁はアメリカ人であり、IMFの理事長はヨーロッパ人であり、これらの機関における主要なプレーヤーは日本を単なるドナーと見なしているに過ぎず、必ずしも指導力を発揮すべき国ではないと見なしています。日米両国は、これらの国際機関を、より効果的なものにし、国際社会の現状に見合ったものに変革していく努力をすべきです。私は、これらの領域において、日本がより重要な役割を果たすべきだと信じています。

北朝鮮問題について言えば、日本は六者協議において、きわめて重要な役割を果たしています。小泉首相は、先の訪朝に関し、一部から批判されていると聞いています。しかし、これは重要な訪問であり、讃えられるべきであります。これは指導力の発揮であり、果敢な行為でありました。小泉首相は、金正日から二つの重要な発言を引き出しました。ひとつは、朝鮮半島の非核化についての発言、もう一つは六者協議は貴重な交渉の場であるという発言です。六月末に再び開催される六者協議は、米国の大統領選挙前になんらかの合意に達する最後のチャンスです。私は民主党員であり、現在外交当事者ではありませんが、日米は、暫定的な合意を模索すべきだと考えます。それは、おそらく韓国からのエネルギー支援とひきかえに、北朝鮮は核兵器の検証可能な凍結(verifiable freeze)に合意するというものです。

経済面についても日米両国は、FTAの推進に向けて協力すべきであります。現在、米国では若干保護主義的な懸念の発露であるアウトソーシングの問題が議論されていますが、このような議論は、経済の状態があまりよくない時に生起します。

次に、ニューメキシコ州について少々紹介させて下さい。ニューメキシコはきわめて活気のある州ですが、あまり日本に情報が入っていません。しかし、同州は今、米国で注目されている州です。第一に、ニューメキシコ州は減税を実現しました。私は民主党員ですが、民主党は必ずしも減税の党としては知られていません。我々は所得税、株式譲渡益課税を減税の対象にし、食料への課税を廃止し、医療にかかわる税も減税の対象としました。また高賃金を支払う企業への税控除を導入しました。これはニューメキシコ州に投資し、一定以上の賃金を支払えば、さらなる税控除をすることを決めたものです。さらに、職業訓練のコストの半分を州が持ちます。最近の調査によれば、ニューメキシコ州は税の負担が軽い州のひとつに選ばれています。これは4年前の状況と比較すると大きな進歩です。さらにニューメキシコ州は、財政均衡を実現した二つの州のうちの一つでもあります。また新しい雇用を次々と生み出してもいます。過去14ヵ月、ニューメキシコ州では2万近くの新たな雇用が創出されました。映画産業の誘致にも積極的に取り組んでおり、観光産業も同様に重視しています。我々は、現在二つの国に焦点を絞っています。それはメキシコと日本です。明日、私はニューメキシコ州がここ日本に通商オフィスを設置することを公表します。さらに名古屋万博にも参加することとしています。

最後に大統領選挙について少々述べさせて頂きます。今度の選挙は接戦になると考えています。すでに45%は民主党に、同じ数が共和党に投票することを決めています。したがって、残りの10%のスイング・ヴォーター(浮動票)を両党が引き入れようとしています。スイング・ヴォーターは、特定の地域に集中しています。西海岸、東海岸は民主党、南部は共和党が強いわけですが、中西部は両党支持者が混在し、サンベルト、西部州はいまだ未定で、この最後の三つの地域がどのように投票するかが、大統領選挙の結果を決定すると見ています。失業問題を抱える産業州である、オハイオ州、ペンシルヴァニア州、ウェストヴァージニア州などの州は、支持率が拮抗しており、どちらの党に傾く可能性もあります。あと私も所属するヒスパニック票の動向も重要です。ヒスパニック票は増加しており、これは4つの州に顕著です。それはニューメキシコ州、アリゾナ州、コロラド州、ネバダ州ですが、これも民主、共和、いずれの党に傾くか不明です。さらにフロリダ州があります。
イッシューという観点から見れば、二つの問題が重要です。おそらくはじめて外交問題が、大統領選挙の最も重要な問題として取り上げられることとなるでしょう。過去はそうではありませんでした。イラク戦争は極めて重要な問題です。6月30日以降の政権移譲後の情勢はどのように進展するのか、その後の米軍の存在はどうなるのか、引続きテロが続くのか。誰もこれに対して明確な答えはもっていません。しかし、米国民は、不安を感じはじめており、これが選挙の動向に大きな影響を与えるでしょう。
二番目の問題は、経済問題であります。経済指標は、米国経済復活の兆しを示しており、投資家、株式市場はそれに期待を寄せているものの、一般の米国民がこれをどう受け止めているか、これが問題となるでしょう。ケリー上院議員は、自由貿易を強く支持し、国際主義者としてひろく知られていますが、同議員が勝利した場合には、日本の強い友人がホワイトハウスに入ることになるでしょう。しかし、そうでなくても、日米関係が強固なものであるという事実には変わりありません。
日本は、今後もより積極的な役割を国際社会において担っていくべきであり、そのような問題意識を日本自身が抱きはじめたことがうかがえます。小泉首相の訪朝は、今後日本がより積極的な役割を担っていく際のひとつの例となり、国際社会はここから多くのものを期待できるでしょう。

(以上)