米軍のトランスフォーメーション(変革)は、現在進行しているプロセスであり、「はやり言葉」として人口に膾炙した概念であるが、その全体像や具体的な内容に関してはまだ明確になっていない部分も多い。
新しい力(パワー)の概念と軍隊の編成
G・W・ブッシュ政権は、技術拡散に伴う大量破壊兵器の開発やテロリストによる技術・兵器の獲得など、「これまでにない、目に見えにくい」脅威への対処に、「新しい概念、戦略と決意」をもって望んでいく姿勢をとっている。そしてブッシュ政権は、国際政治における力(パワー)を「質量やサイズではなく、機動性や迅速性」の観点から再構成するようになっている。現在進行している米軍の変革はまさに情報・軍事技術の発展を存分に活用し、「数日、数週間」で「機敏かつ決定力のある即時派遣可能な」軍隊の編成を試みるものである。
「能力ベースアプローチ」へのシフト
ブッシュ政権は2001年9月の「四年次国防見直し(QDR)」で、国防計画の重点を「脅威ベースアプローチ」から「能力ベースアプローチ」にシフトし、すなわち「誰が敵であるかより、その敵がいかに戦うか」を重視して戦略を組み立てるようになっているが、米軍のトランスフォーメーションはこうしたアプローチの移行と深く結びついている。トランスフォーメーションとは、「アメリカの有利な点を活かし、非対称の脅威から国家を守るためのコンセプトであり、また能力、要因、組織の新しい連携・結合を通じて軍事競争・協力の性質を変えていくプロセス」で、それは「アメリカの戦略的地位の維持につながり、ひいては世界の平和と安全に寄与する」との考えに基礎を置く。
注目すべき3つの点
トランスフォーメーションは包括的なプロセスであるため非常に複雑な現象であるが、特に注目すべき側面として以下の3つが挙げられる。
第一は、今後仮想敵の能力や危機的状況に備えて、いかに統合軍を準備、派遣、運用、維持するかという「統合作戦コンセプト」であり、これは「トランスフォーメーションのエンジン」とのいえるものである。第二は、前述の「能力ベースアプローチ」への移行との関連である。このアプローチではまず、「目的達成のために奇襲、偽装、非対称戦闘をしかける敵を抑止、撃破するために必要な米軍の戦力」を見極めなければならないが、そのためには国防省内での意思決定プロセスの変更などが必要になってくる。最後に、トランスフォーメーションは、QDR2001に示された「前方展開兵力にグローバルな能力をもたせ、さまざまな有事において、戦域外からの小規模の増援だけで速やかに敵を撃破する」ことを目指す新たなグローバルな戦力計画との関連で注目されなければならない。
なお本公演は個人的な見解の表明であり、米国政府や米国防大学の見解を代表するものではない。
以 上 |