「ロシアとアジア太平洋の安全保障」会議


 当研究所では1999年3月19日から21日までの3日間、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)及び朝日新聞社との共催により、「ロシアとアジア太平洋の安全保障」と題する会議を開催致しました。
 本プロジェクトは朝日新聞創刊120周年記念行事の一部として行われましたが、当研究所にとってはSIPRIとの初の学術交流であり、国内外から約40名もの有識者が出席しました。

 初日の公開セッションでは明石康・元国連事務次長(現在日本予防外交センター会長)が基調講演を行い、松永当研究所理事長兼所長(現副会長)とロットフェルド・SIPRI所長が共同議長をつとめました。 その他会議の主な参加者は、当研究所から小澤所長代行、神山研究調整部長他6名の研究員、チュフリンSIPRI研究員、下斗米伸夫・朝日新聞客員論説委員(法政大学教授)、長谷川毅・カリフォルニア大学教授、斎藤元秀・杏林大学教授、佐藤経明・横浜市立大学名誉教授、森本敏・野村総合研究所主任研究員、高木誠一郎・政策研究大学院大学教授(現在防衛研究所第2研究部長)、三井光夫・防衛研究所主任研究官、山本吉宣・東京大学教授、陳啓懋・上海国際問題研究所名誉所長、李相禹・西江大学教授(韓国)、ポラック・ランド研究所顧問ら3名の米国研究者、そして世界経済国際関係研究所(IMEMO)を中心とする8名のロシア人研究者です。

 会議の内容は、日米中露の2国間及び4カ国関係から、朝鮮半島情勢、中国=台湾問題、経済関係、ASEANやARFに至るまで多岐にわたり、ロシアをとりまくアジア太平洋地域の安保環境の現状とそこにおけるロシアの役割を中心に議論がなされました。

 ロシアの対アジア太平洋政策活発化に伴い、対中・対日関係も大幅に改善されましたが、中露の間には未だに伝統的な不信感や警戒感があり、その「戦略的パートナーシップ」には限界があるとの見方もあります。 他方、領土問題解決に向けた環境づくりのほか、日本の国連安保理常任理事国入りへの支持とりつけや、新ガイドラインに反対する中国を牽制するためにもロシアとの関係強化をはかってきた日本にとって、特にガイドラインの問題でロシアが中国の立場に近づきつつあるようにも見えることは好ましくない現象です。

 今回の会議では、このように、中露接近が日本、米国など第3国との関係に及ぼすネガティブな影響についても指摘されました。 朝鮮半島をめぐる4カ国(北朝鮮、韓国、中国、米国)の対話枠組みを6カ国(プラス日本、ロシア)に拡大するという考えについても、改めて韓国の出席者から時期尚早とする意見が表明されました。 他方、有事自動介入条項を含まない新たな2国間条約の締結交渉を北朝鮮と進めているロシアが、北朝鮮に対しポジティブな意味での影響力をもつことが望まれる点で出席者の見解は一致しました。 しかし、経済危機、政権不安定、犯罪の増加などを抱える現在のロシアは、その影響力に限界があることもまた出席者の共通した理解でありました。

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