UNHCRアフガニスタン・ミッション代表 フィリッポ・グランディ氏懇談会

2003年10月27日(月)、(財)日本国際問題研究所にフィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)アフガニスタン・ミッション代表が訪れ、松田邦紀当研究所研究調整部長のもとで、「アフガニスタンにおける平和の定着と復興」と題する講演会を行った。
以下は、当研究所が作成した要旨であり、講演をそのまま書き起こしたものではない。

グランディ氏略歴:
グランディ氏は、ヴェニス大学、ミラノ州立大学ならびにグレゴリアン大学(伊)で学んだのち、1988年にUNHCRスーダン事務所に勤務。その後、シリア、ジュネーブ、ザイール等のUNHCR事務所勤務を経て、2001年9月にアフガニスタン事務所の代表に着任。同事務所では、難民・国内避難民の帰還支援、アフガニスタン暫定政権への支援、さらには、国連アフガニスタン支援団(UNAMA)との協力等に携わる。

懇談会概要
*アフガニスタンの位置付け

9・11とその後のアフガニスタン攻撃は、アフガニスタンのような国家であっても、先進国の生活と無関係ではないことを世界に示した。世界から忘れ去れていた間、アフガニスタンはテロリストの温床となってしまっていた。アフガニスタンをテロの温床へと戻さないためにも、関心が再度薄れていくことは、避けなければならない。イラク戦争の影響でアフガニスタンへの関心が薄れることをおそれている。国際社会は、「イラクかアフガニスタン」ではなく、「イラクとアフガニスタン」という姿勢で臨むべきである。和平が合意されたボン合意と、開発のスキームが定められた東京会議が、現在のアフガニスタン復興支援の基盤である。しかしながら、2年後の現在、憲法を2003年末までに制定し、2003年には「武装解除、動員解除、社会復帰(DDR)」を実施し、さらに2004年中盤には選挙を実施するといった三つの目標は、いずれも実現が難しくなっている。アフガニスタンにおける状況は危機的ではないが、このままの状態が続けばそうなる可能性がある。

*アフガニスタンが抱える課題
現在のアフガニスタンが抱える課題は大きく分けて三つある。ひとつは(国内)政治の問題である。国内の政治対立がボン合意以後、最も深刻化している。このような政治的な分断は、武器があふれているアフガニスタンにおいて、武力対立につながりやすい。二つ目は治安問題である。軍閥の存在が治安問題に影響を与えている。特に、軍閥のリーダーの統制が及ばない、地方軍閥が危険である。政府内にも軍閥の影響が色濃く、麻薬取引などで資金を稼ぎ武器を買い集める軍閥が存在する。彼らが力をつけ事実上の自治を始めてしまうと、暫定政権による統治が難しくなってしまう。軍閥の存在は難民・国内避難民問題にも大きな影響を与えている。軍閥からの恐怖から逃れるために特に北西部で多くの国内避難民が発生し、UNHCRの支援を受けている。したがってDDRは重要であり、日本がDDRに力を入れていることは非常に評価できる。ISAFの地方展開が国連安保理で合意されたが、リソースが確保されておらず、不確実である。三つ目は開発問題である。ボン会議と東京会議以降現在にいたるまで、支援も安定して提供され、治安もよく、支援物質も比較的郊外にも届けやすかった。しかし今後の課題は持続可能な開発や地域社会の開発である。支援策として合意された内容自体は整っていても、十分に調整され実行に移されるか否かが問題だ。  これら三つの困難の背景にはまず、復興の基盤となったボン合意において、政治的なバランスに欠けていたことがある。さらに東京会議において、準備期間が十分にない中で支援策が合意された。したがって、実際のニーズにあった支援内容の算出ができているとはいえない。2年間の経験に基づき、新たに支援内容の再検討が必要だろう。

*アフガニスタンにおけるUNHCRの役割
国外のアフガニスタン難民は、機会があれば戻ってきている。また、国内避難民のほとんども、故郷に戻っている。400万人いるといわれる国外難民、そして国内避難民の帰還を実現するためには、次の三つの要素が重要である。すなわち、治安の改善、水道や学校などの基本的サービスの提供、雇用の機会である。これらの課題に取り組むためには、マクロレベルとミクロレベルの両方での施策が必要である。

*アフガニスタン復興の指針
アフガニスタンは国際社会において高い関心が示され、包括的な支援が成されているという意味で、国際社会による紛争後の復興支援のよいモデルである。 今後の指針としてまず、パシュトゥンの代表が国内政治に関与できていない問題を再考する必要ある。次に治安改善に対しては支援国からの軍隊による支援が不可欠である。警察の育成も大事だが、時間がかかるうえ、国内の軍隊は国民を迫害してきた歴史があるためだ。さらに、東京会議の内容を新しいニーズに基づいて再検討し、支援策の優先順位を再考すべきであろう。 支援策を実施するにあたり、コミュニティを無視してはならない。平和の配当を(地方も含め)市民が感じられるようにしなければならない。さらに、人権問題への対応を忘れてはならない。支援機関の間の調整を行い、人権を尊重している場合には評価をし、尊重していないときにはなんらかの制裁が課されるようにすべきだろう。 緒方イニシアティブによる拠出金は、さまざまなギャップの橋渡しをしている。具体的には、開発支援と人権保護、国際機関と政府の活動などの間隙に埋もれた課題に支出されており、つなぎ目のない支援が、この拠出金によって可能になっている。国際社会による継続的な取り組みが、今後も求められる。

(担当研究員 佐渡紀子)

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