JIIAフォーラム講演要旨

2005年 9月 2日
於:日本国際問題研究所

クリストフ・バートラム
ドイツ・国際安全保障問題研究所(SWP)所長
「アジアに向き合う欧州:戦略的視座の必要性」

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EUの現況

欧州は、19世紀、20世紀の戦争の惨禍から平和と繁栄の欧州を築き上げた。EUはいまや人口4億5,000万人を擁する大きな統合体であり、ここまでに至った欧州の国々の協力は類まれな達成を成し遂げたといってよい。

なぜ現在憲法条約の批准が暗礁に乗り上げているのか。憲法条約に反対する人々も、欧州が望ましくないと考えているわけではない。反対の主な要因は、自分たちの福利厚生への脅威と映ったからである。つまり、統合された欧州が、グローバリゼーションから自分たちを守ってくれるのではなく、自分たちの生活をグローバリゼーションの前に開いてしまうものと映ったためである。実際にはそうではないのだが、政治家たちがそのことを伝え損ねている。そしてもうひとつの要因は、当初の6カ国から25カ国に広がったEUに対し、これ以上の拡大のプロセスに反対であるためである。特にトルコ加盟問題は大きな争点となっている。EUは日増しにより大きな国際責任を担うようになっている。EUによる安全保障活動や中東和平プロセス、アフリカでの安定など、EUは現在幅広い活動を行っているが、これらは善意(goodwill)によるものであって、戦略ではない。アジアに対してはそうは行かないのでないか。

アジアの戦略変化

アジアの状況は複雑である。インド、中国が台頭しており、特に中国は唯一の超大国たるアメリカに対し、バランサーとして対抗するようになっている。アジアには未解決の紛争があり、十分に機能する多国間機構というものが存在しない。ロバート・クーパーは最近の著書で世界の国を脱近代(post-modern)、近代(modern)、前近代(pre-modern)の3つに分類したが、欧州は脱近代の国々の集まりであるのに対し、アジアは近代か前近代の国が集まっている。

中国のような新興の大国を取り込むには2つの方法がある。封じ込め(containment)か、関与(engagement)である。中国に対して封じ込めというアプローチを取るのは賢明な政策ではない。関与の政策が必要であり、それも商業的な関与だけでなく、中国が責任ある国際大国になるように仕向けなければならない。

日本、インド、アメリカ、中国といった大国はこの地域に対し特に責任を負っている。大国であるからといって国際的なルールを無視するのではなく、協力の枠組みを作っていかなければならない。

EUのアジアへの関与

日印米中の大国には特に責任があると述べたが、それはEUには関係ないということではない。EUは影響力を持った十分大きな存在であり、アジアに間違ったメッセージを発信することもありうる。例えば対中武器禁輸解除の問題もそうであり、このプロセスが凍結されたことは良いことであった。禁輸の解除はあくまでも象徴的なものという意見もあったが、これを解除すれば今度はこの措置自体が象徴となる。中国が反国家分裂法を制定した情勢に鑑みても、間違ったメッセージを送らずに済んだことは良いことであった。

欧州のアジアにおける協力の枠組みを如何に強化すべきかについて考える必要がある。アジアの民主国家との協力が重要であり、欧州とインド、欧州と日本の協力が重要である。こうした考え方は欧州においては重要視されてこなかった。インドの戦略的重要性はこれまで看過されてきたが、最大の人口を持つ民主主義国と良好な関係を持つことは重要なことである。また、日本との緊密な関係も重要である。日本とはこれまでも長い間同盟の関係にあり、大国として重要な役割を持っている。今後日本との間の戦略対話が重要である。欧州と日本との関係は、日本が台頭する中国との関係をどのように構築していくかによっても変わって来る。日中間には困難もあるが、域内において協力的な関係を作る努力を続けていく必要があり、日本がそのためにどのような努力を払うかは、欧州のアジア政策にとっても大いに参考となるところである。今後とも欧州と日本との間の緊密な対話を希望している。

以 上