JIIAフォーラム講演要旨

2005年 9月29日
於:日本国際問題研究所

ハンス・ブリクス大量破壊兵器委員会委員長
「軍事力の行使・大量破壊兵器・国連」

世界平和の回復と安全の維持にはアメリカの協力が欠かせないが、アメリカによる平和、パックス・アメリカーナは現実には不可能である。世界全体の秩序を維持することは、いかなる国であっても一国のみの能力では及ばない事業である。

軍事力の行使

今日でも内戦や地域紛争は依然として生起しているものの、我々は世界大戦の時代は後にしたといえる。近頃の国連首脳会議宣言でも改めて確認されたように、効果的かつ実効的な集団安全保障システムの構築が求められている。経済、技術、情報などのさまざまな分野で進行しているグローバルな統合は、我々の結びつきを急速に深めている。冷戦期に麻痺していた国連の安全保障システムが冷戦後には、1990年代初頭の湾岸戦争の事例に示されたように、憲章で意図されたものにより近い機能を果たせるようになった。しかしながら、2003年に起きたイラク戦争では、国連安全保障理事会の承認なしに数カ国が単独で軍事力の行使に及んでしまった。ブッシュ米政権は言明していないが、イラク戦の開戦はアメリカによる「先制攻撃」と解釈されうるものである。米政権は、大量破壊兵器の除去という目的の遂行のためには、最早国連憲章51条による措置では十分ではないという結論に至っているようだ。

大量破壊兵器

大量破壊兵器(核・生物・化学兵器)問題の解決が困難である理由のひとつは、これらの物質が軍事用にも民生用にもどちらにも利用できることに由来する。また大量破壊兵器は使用されれば知覚できるが、これらの兵器の「所有」を外部から確認することは難しい。したがって大量破壊兵器の所有を抑止・発見するために、「査察」が必要になる。査察の目的は、査察による監視の圧力を通じて禁止物質の軍事転用を抑制することであるとしばしば言われるが、これより重要な機能とは、査察による検証体制を通じて大量破壊兵器の放棄に関する信頼を地域や世界全体で醸成していくことである。すなわち、国際的な検証査察システムは、ある種の「透明性の制度化」の試みとして捉えることができる。

国連

グローバリゼーションの進展は、我々にグローバルな制度の強化を迫っている。国連は「地球村」に存在する唯一の多国間制度ではない。もちろん国連を批判的に分析してみることも必要であるが、しかし同時に、国連やその多くの専門機関が国際関係における最も重要なネットワークである続けることは疑いない。こうしたネットワークを通じて、環境・疫病の問題に対処したり、核の安全性確保や軍縮などが推進される。国連安保理の拡大に関して言えば、安保理がいかに幅広く世界全体の利益を代表しているかという観点から議論されるべきであり、特定の国家(群)の利益に鑑みた改革であってはならない。

以 上