JIIAフォーラム講演要旨

2005年12月20日
於:都内ホテル・オークラ

松浦晃一郎・ユネスコ事務局長
「ユネスコ事務局長を6年間つとめて」

ユネスコは国連と同様今年で60周年を迎えるが、日本にとっては縁の深い国際機関である。日本が戦後最初に加盟を果たしたのが1951年のユネスコ加盟であった(国連には1956年)。

ユネスコが取り扱う事業は非常に多岐にわたっている。日本で一番知られているのは世界遺産事業であろう。ちょうど知床の世界遺産認定式が行われたところであり、日本で13番目の世界遺産となった。現在ユネスコでは文化財の移転に関する条約の批准の促進に力を入れているほか、有形遺産のみならず無形遺産の維持、振興に力を入れている。日本では能、文楽に続いて歌舞伎が無形遺産に登録されたが、有形遺産、無形遺産の2本立てで文化財の保護を進めて行きたい。世界遺産事業には約180カ国が参加しているが、そのうち世界遺産がひとつもない国が40カ国ほどある。国おこしやアイデンティティにもつながることでもあり、なるべく各国にひとつはあるようにしたい。

また、現在ユネスコの一番の仕事は教育である。この分野は先進国では一段落しており、“Cross-border high education”といわれる高等教育や遠隔教育のガイドライン策定が当面の課題であるが、基礎教育が確立されていない途上国における基礎教育の拡充が最大の課題である。日本にはドナーの立場で参加してもらっており、特にアフリカや南西アジアの地域、とりわけエイズなどの深刻な問題を多く抱えるサハラ以南のアフリカ地域への援助に関わっている。文化活動の面で日本の貢献が認知されているのは喜ばしいが、日本には教育の分野でもイニシアチブを発揮し、力を入れてほしい。ユネスコは全ての子供に基礎教育を受けられるようにするという目標を立てている。途上国も教育予算を増やすなどの努力がいるのは勿論だが、日本にも基礎教育分野のODAに占める分野を増やしてほしい。

ユネスコは知的協力の場であり、議論のレベルは高い。しかし議論が拡散しすぎる傾向がある。事務局長に就任する際には欧州などからの反対もあったが、就任するにあたってまず目標としたことは、ユネスコを単なる議論の場ではなく、議論して決めたことを実行に移す場とすることであり、ユネスコがそのための行動力を持たなければならない、ということである。文化の領域も重要であるし、生命倫理の分野でも規範づくり(normative action)などの取り組みが重要であり、そして規範を実行に移すことが重要である。また、途上国に対しては規範を示すだけでなく助けてあげる必要がある。そのためにも地方事務局の役割の拡充が必要である。

そして重要なのがマネジメントの改革である。ユネスコには191ヶ国が加盟しており、これだけの組織を動かしていくのは難しいことである。改革の案が出ても総論賛成、各論反対で結局まとまらないことも多かった。そこでまず組織改革に取り組んだ。当初ユネスコには局長以上の職員が約200人いたが、組織的に頭でっかちであり、それらの職員の中には特定の加盟国からの政治的な意味合いで在籍している場合もあった。そこで政治的なリクルートを廃止することなどにより、当初の200人を180人、そして110人まで減らした。現在では局長以上の職員は約100人である。

今回事務局長に再選されるにあたっては、日本から全面的な支援を得るとともに、アフリカから強い支援を得た。AUが再選のための選挙運動をしてくれたし、イスラム諸国も再選を応援してくれた。2期目は、6年間のことを継続し、完結させることが仕事だと考えている。引き続きマネジメントの改革を進めるとともに、教育分野などに力を入れて行きたい。

以 上