JIIAフォーラム講演要旨

2006年1月13日
都内ホテル・オークラ

明石康・元国連事務次長
「加盟50周年の日本と国連改革」

日本が国連に加盟した1956年12月18日には、ちょうど現地にいあわせたが、国際社会で名誉ある地位を、と語る重光外相の加盟演説は素晴らしかった。国連加盟後、日本外交はその基本原則として、国連中心主義、自由主義、アジア重視の3つを掲げてきたが、その後の日本外交は国連中心主義と後二者との間の葛藤の歴史でもあった。反植民地主義や南北問題など、あまりに急進的な動きとは一線を画したし、また軍縮や核実験の分野では米国とは一線を画すものの、基本的には西側陣営の一員として欧米中心の政策を取ってきた。

現在、日本は非常任理事国としては、ブラジルと並んで最も多く選ばれている国のひとつである。経済社会理事会にもほぼ恒常的に理事国に選ばれており、選挙に強い日本というイメージができている。したがって、日本は常任理事国ではないが、ミドルパワープラスという役割を担っている。日本は、小坂外相、愛知外相の頃から既に安全保障理事会、経済社会理事会の改革を提唱してきた。米国のロジャース国務長官も常任理事国に日本も入るべきとの発言をしているし、ラザニ案と呼ばれる安保理改革案も提出されたが、改革の実現には至っていない。

日本における国連像は、他の国と際立って異なっている。一方では、軍国主義からの反動、理想主義的平和主義という背景から、平和に対する国連の役割を重視し、普遍的政治道徳というものを体現するようなものとして国連を理想化する見方がある。そうした見方は現実的ではないが、また他方で、伝統的なパワーポリティクスの延長線上で国連を見る冷めた国連観も存在する。しかし国連はそれだけに留まるものでもない。例えば国連が世界人権宣言を採択し、それが後に国際人権規約とつながったように、国連は一定の規範力を持っている。一方に理想化された国連像があり、他方に冷めた国連像があり、そのギャップのために日本は現実的で前向きな国連像というものを結ぶことができないままきたのではないか。

今回の国連改革では、安保理改革について、15年経ったら見直すとの前提で、拒否権なしの常任理事国を6カ国増やし、非常任理事国を3ヶ国増やすA案と、任期4年で再選可能な新しい非常理事国の枠を設け、普通の非常任理事国を1つ増やすというB案の2つが提示されたが、日本の推すA案が通らなかった背景には、コーヒー・グループ(コンセンサス・グループ)の反対があったとともに、G4とアフリカのドッキングがうまくいかなかったことがあるだろう。また米国の思惑を考えなかったというところにも要因があった。

国連憲章第23条では安保理の構成について記されている。常任理事国5カ国が明記されているが、ソ連と中華民国はそのままである。非常任理事国についても、国際平和への貢献度と地理的配分に応じて選出するとある。現実には各地域でのローテーションで決められており、あまり力のない国が選ばれる場合もあるが、本当はミドルパワーを中心に想定されたものであった。安保理に正当性と代表性を持たせる必要がある。日本やインド、ナイジェリアなど、ミドルパワーの諸国が入っていなければ安保理は鼎の軽重を問われるし、正当性と代表性を欠くことは現実的実効性の低下にもつながる。

日本では国連改革の中で安保理改革だけに焦点が当たりがちであるが、国連改革とは191カ国で構成される国連に運営の正当性を持たせるためのものである。実効性のある決定がないまま毎年同じ議論が蒸し返されることのないよう、安保理の改革だけでなく様々な改革が議論されなければならない。平和構築委員会を安保理とは別に設置するという案や、人権理事会の設置などは主要な検討課題のひとつである。また、重要なのは行財政改革である。国連の予算規模は小さい。年間18億ドル程度でありPKO予算を含めても80億ドル程度である。これは国連本部のあるニューヨーク市の予算よりも少ない。財政を見直し、限られたリソースの活用を考える必要がある。

新しい常任理事国の責任とは、第1に分担金と拠出金を合わせた財政的貢献である。第2には軍事的貢献である。これは実際の軍事行動だけでなく、PKOへの貢献も含まれる。日本はカンボジアに1個大隊を送っていたが、現在は少ない。ゴラン高原に33人のみで、アフリカには皆無である。国連加盟国で73番目である。第3は外交活動全体である。例えばカナダやノルウェーのような外交調停もこれに含まれるが、この分野でも日本はあまり目立っていない。日本が内向き、縮み志向になっているのではないか。

日本は安保理常任理事国になるべきである。しかし、そのためには常任理事国なったら何をするのか、そのビジョンを語ることが必要である。単なる地位追及者(status seeker)にならないよう、常任理事国たる心構えについて考えておくことが大事である。分担金をたてに主張するだけでは国際世論の支持は得られない。常任理事国たる地位には責任が伴うわけで、分担金プラスアルファで日本の貢献を印象付ける必要がある。

国連改革には安保理の構成だけでなく巨視的な見方が必要である。例えば大国の拒否権について、これをなくすことは現実的ではないが、適用範囲を狭めるということは検討の余地がある。国連憲章第7章の制裁については拒否権を認めるが第6章のレベルでは認めない、などといったあり方を検討すべきではないか。また国連の直接財源というものも考える必要があろう。日本も国連の受益者である。受益者であるだけでなく、主体的に国連に参画し、積極的に打って出る外交が大事である。常任理事国になれないからといって日本の国連外交が失敗というのではなく(失敗ではなく蹉跌というべきであろう)、たとえ打率2割、3割でもいいから国連の場を通じて実績を積み重ねていくことが大切である。

以 上