JIIAフォーラム講演要旨

2006年1月23日
都内ホテル・オークラで

カッラ・インドネシア副大統領
「インドネシアの現状と将来」

まず、インドネシアのここ数年の出来事、現在の状況そして今後の望ましい方向性について御話しさせて頂きます。

1997年にアジア経済危機が起こりましたが、インドネシアはもっとその影響を受けた国でした。インドネシア経済にとって、独立後、これまで経験したことのない最大の危機でした。政治的安定も1998年の5月暴動で揺らぎました。同月に起きた政権交代は、社会的問題と領土問題という国家全体の問題にまで波及しました。暴動は、「多様性の中の統一」という我々の価値を崩壊させました。

地域の友人、国際社会は、「インドネシアは危機から回復できるのか、回復し、もう一度地域や国際社会で意味のある役割を果たせるのだろうか」と疑問に思ったでしょう。

しかしながら、よく言われるように、危機はチャンスでもあります。実際、1998年の改革運動は、インドシア国民が未来へ向かって奮闘する機会を提供するものでした。より良くつよいインドネシアが生まれるという、ある種の国民的合意が生まれました。早期の経済回復に勤め、人権を尊重する民主的で調和の取れた社会を建設することに邁進しました。すべての問題を、非暴力的手段をもって解決することを決めました。安全で平和的なインドネシアを構築する決意を表明しました。クリーンでよい政府を作ることを誓いました。我々の夢を実現することを誓いました。

実際に、これまで危機から約8年未満の間、これらのことを実現する道を歩んでいます。もちろん、我々望むところからは未だ遠いところにあります。しかしながら、かならず我々は、やり遂げるという大いなる自信があります。

まず、政治的側面をみれば、2回(1999年、2004年)の選挙後、民主的な政権運営が制度化されました。新たな民主的規範とルールが導入されていることが確認できます。最終的に、国民主権が復権しました。

ヨドヨノ政権発足後から1年が経ちましたが、前政権の成し遂げた成果をより強固なものとしてきています。

第一に、政治安定は、目覚しく回復しました。ゴルカル党党首が言うように、現政権は、国会での多数の支持を得ています。政権と国会は、うまく運営されていますし、我々の改革を成功裡に導くという意識を共有しています。

第二に、地方分権化は、実現されつつあります。地方分権化を通して、我々は新たな成長の中心を刺激することに力を入れています。民主主義と住民参加による直接地方選挙も根付き始めています。250以上の地方行政区で95%以上の割合で直接選挙が、平和的手段によって行なわれています。地方統治の質の向上は継続されていますが、問題はまだまだ存在しています。

第三に、地方での暴動はなくなっています。西カリマンタン、マルクでは民族暴動によって何千もの命を失いましたが、現在は安定で正常な状態に回復しています。政府は、公共秩序を維持することに腐心しており、最近起こったポソやスラウェシでの暴動が、他の地域へ波及することがないよう努めています。

第四に、アチェでは、平和が徐々に根付き始めているし、和平プロセスは順調で、不可逆的になっている。平和への支持は、アチェでは特につよく、インドシア全体でも強くなっている。武装解除のプログラムは、スムーズに行なわれ取り、現在以前のGAMのメンバーは社会復帰に向かっており、アチェは、現在、特別自治区としての地位を謳歌しています。このように、日本のアチェに対するサポート、国際社会のサポートに深く感謝しています。

パプアにおいても、類似の政治的解決が途上にあり、和平のムードがたかまっています。パプア人民議会が設立され、中央政府も、パプアを特別自治区としています。

第五に、軍改革も進行中であり、多くの分野でその改革は達成されています。インドネシア国防軍は、もはや政治へ介入することはないでしょう。警察の強化と職業化への努力も進行中であり、とくに日本からの我が国の警察改革への支援にお礼を申し上げたい。

第六に、インドネシア政府は、インドネシアの腐敗の改善が、国際ビジネス社会からみても重要なもんだであることに気付いています。インドネシア人としても同様であり、腐敗との戦いは、現在の政権においては特に重要な問題と考えています。現実には、腐敗との戦いは、非常に時間を要するものであり、問題を完全に解決するまでに多くの努力を必要とするでしょう。

現政権は、極めて慎重な手段をとっています。腐敗の撲滅は、ジャカルタだけではなく、地方でも政府と社会によって始まっています。政府は、腐敗との戦いに社会の参画を奨励しています。また、腐敗と戦っていく中で、同時にビジネス環境の整備が必要であることに気付きました。

しかしながら、これらの改革の進展は簡単なものでありません。改革への難しい仕事を遂行する中で、また新たな課題が降りかかってきます。最も難しいのは、2004年12月26日起こった地震と津波による被害です。20万以上の命を失い、50万以上の人々が住むとこを失うなど、被害は想像を絶するものでした。日本や国際社会からのサポートの結果、アチェの再建は目覚しいものがある。災害の跡は、もはや目に見える形としてはなく、女性や子供の売買は、阻止されています。現在も再建は進行中であり、5000隻以上の漁船が送られ、30,000ha以上の田が回復されている。アチェの生活は目覚しく回復している。また、約31,000の家屋が建設され、医療施設は80%、119の教育施設が再建されている。インフラの再建が進行中であるのと同様に、アチェの将来展望は明るいものとなっています。しかしながら、回復の完遂まではまだ遠く、多くのことがなされなければいけません。このように、継続的な支援、特に日本からの支援が必要とされています。

国家改革という課題に取り組んでいくことで、テロの脅威にも直面しています。テロの脅威が政治、経済改革を達成できるかどうかに影響を与えることになりますそれゆえに、我々は、テロとの戦いも重要課題として考えています。

事実、現政権下では、毅然とテロやテロリスト・ネットワークに立ち向かい、今後もそのように対処していきます。インドネシア社会の様々なところから支援を受けていますが、中でもムスリム組織やそのリーダーからの支援を受けており、効果的な手段をもって、テロの脅威に対処できると自信を持っております。

テロとの戦いに関する他の地域機構や国際組織と協力は、強化されております。新たな民主主義として、我々は、テロとの戦いと法規範の適用のバランスを取りながら対処し続けていくでしょう。なぜなら、テロとの戦いに関する成功とは、我々の安全と自由のバランスに拠っていることを忘れてはならないからです。

様々な困難の中、我々は危機の悪化を克服してきました。しかし、そのような進歩にもかかわらず、我々の前にある障害はより複雑化しています。我々の改革が8年目を向かえ、取り組むべき三つの大きな問題があります。

一つは経済です。様々な困難に直面してきましたが、我々の経済は目覚しく改善されてきています。しかしながら、まだまだ改善を必要としています。失業率はいぜん高く、現在も完全に克服できておりません。汚職、労働問題、法の整備、公共秩序そして官僚主義といった問題が、民間企業の内外で現在も残っており、これらの問題は、健全なビジネス環境構築の障害になっております。特に、外資による直接投資の障害となっています。

それゆえ、日本のODA、また民間による支援が、必要とされています。日本が、インドネシア経済の改善を示す道を示し、他のものがそれに続くよう勇気付けてくれることを切に願っております。インドネシアを助けられるのは、世界第二位の経済規模をもつ日本しかいません。

日本企業がインドネシアでビジネスを展開できるように、健全で友好的なビジネス環境を提供できるよう最善を尽くします。

第二に、民主主義の定着という課題があります。民主的制度は、確立され、相対的にうまく運営できています。言論の自由は保障されています。市民社会の役割も増しています。

しかしながら、真の民主主義とは、もっと多くの制度を必要とするでしょう。民主主義的規範と価値(法や人権の遵守)の国際化や、平和的手段による紛争の解決などが必要です。これらの規範や価値を、社会と政治エリートの両者が備えなければいけません。

第三に、社会の団結と領土的一体性が、継続的に育成され強化されなければいけません。これらじゃ、政治と公共秩序の安定の基礎となります。インドネシアは多元的国家です。そして、社会の多様な関心を運営することは慎重な仕事となります。宗教、民族、人種などに係わらず、すべての市民が事実、現政権において、これらの課題は鍵となっています。

我々が、これらの内的な問題に取り組むことは、必ずしも、われわれが内向きでるということを意味しません。国際社会への責任から逃れられるわけではありません。事実、国内社会で進歩が進んでいくにつれ、新たな国力を知り、自信を持つことで、改めて国際社会や地域で建設的役割を果たせるようになるのです。

インドネシアの東南アジア地域での地域協力へより大きく深い貢献が衰退していないことを示しています。ASEANの友人達とともに、インドネシアは、地域共同体が東南アジアでも実現することを願っています。

ASEANは、完全な経済統合を達成することによって、巨大な市場の潜在力を発揮し、人々の生活の向上という域内の経済利益を得ることができると信じています。

2003年に、インドネシアは、ASEANには、経済統合を強固なものとするために、より深い政治・安全保障協力が必要であることを提言した。「経済共同体」を確かなものにするためには、ASEANはある種の「安全保障共同体」であるべきです。そのために、ASEANの人々によるいっそうの協力が必要であると考えています。ですから、ある種の「安全保障共同体」と「経済共同体」を達せするために、ASEANは「社会文化共同体」でもあるべきです。

このように、将来の設計図が見え始めています。バリでの第9回サミットで、三つの柱―安全保障、経済、社会文化―によるASEAN共同体を創るということが決定されました。

3つの柱は、それぞれ同じ重要性を持っており、互いに影響しあいます。3つの柱が構築され、機能し始めたとき、ASEAN共同体が自然と存在し始めるのです。そして、その共同体とは、共通のアイディアと展望―共通の経済的展望と政治的意思―によって作られるのです。

事実、地域共同体構築は、ASEANという地域を越えてその他の国家でも共通のアジェンダとなっています。東アジアでは、「地域の安全保障、繁栄と進化を目的とする協力の制度化」を目的とする地域秩序の構築の途上にあります。昨年12月にクアラ・ルンプールで行われたサミットは、東アジア共同体実現の旅の始まりを表しています。

インドネシアとASEANの友人は、オーストラリア、中華人民共和国、インド、日本、ニュージーランドそして大韓民国とともに、東アジア地域協力を制度化するために協同歩調をとっています。共に歩む一体感をとおして、われわれは、東アジア共同体のひとつの柱として貢献し、協調的な平和と繁栄のために努力していきます。

ASEANは、これまでと同様に、東アジア地域においても、共同体構築の「運転手」としての役割を担っていきます。しかしながら、ASEANがドライバーとなることは、4つの条件が必要であります。第一に、東南アジア地域を越えた運転手としてASEANは、まずASEAN共同体の実現を確かなものにしなければなりません。第二に、その過程において、インドネシアは、積極的にリーダーとしての役割をしなければなりません。第三に、インドネシアがASEANでリーダーとしての役割を果たすためには、自分たちの経済問題を克服し、成長を推進しなければなりません。そして第四に、日本は、インドネシアが経済を改善し、それを強固なものにするために、重要な役割を持っているということです。

このように、インドネシアの現政権のリーダーシップ下において、インドネシアは再び、経済的成長と発展の機会を得て、東南アジア地域でのリーダーとしての役割を担っています。そして、日本は、インドネシアがそのような役割を果たすために、さまざまな援助が可能な国なのです。

ASEANは、東アジア共同体の発展の途上で、運転席に座っていますが、それは、日本と中国という本来のリーダー国が、その役割を担えないがゆえのことです。日中関係の改善によって、両国は地域のリーダーに確実になることでしょう。中国と日本が持っている課題は、それぞれの国内で起こりつつあるナショナリズムを抑制すること、歴史問題を克服すること、そして領海問題を解決することでしょう。しかしながら、同時に日中間の貿易額が2600億米ドルという過去最も高いという事実に注意しなければなりません。人の往来も活発で、日本から中国へは年間400万人が訪問し、民間航空は一週間に700便が就航し、8万人の中国人が日本に留学しており、何百もの姉妹都市関係が構築されています。

なぜ、国家間関係においては、前述のような実態を見ることができないのでしょう。インドネシアとASEANは、二国間の問題を解決するために、両国が解決の方向に向かうよう環境を整備するために努力をしています。ASEANは、日本と中国が、東アジア全体の利益のために、自分たちの関係を早やかに改善することを期待しています。ASEAN+3と東アジアサミットのメカニズムは、地域全体の包括的協力という文脈において日中関係にも寄与するものであります。

インドネシアとASEANは、地域の協力と共同体構築の推進において、日本の役割が極めて重要であるという認識を持っています。たとえば、APECの設立においても、日本が重要な役割を果たしたからこそ、実現したと思います。APECは、日本のアイディアに基づき、オーストラリアが推進し、ASEANが承認したものです。ですから、日本は引き続き、積極的に、自らの役割を果たすべきでしょう。

日本が果たすべき重要な役割のひとつは、今後も米国がアジア太平洋地域において、安定と安全保障に関して役割を果たすように、働きかけることです。インドネシアは、現在も米国のアジア太平洋地域でのプレゼンスの必要性を認識しています。

また、もうひとつは、たとえ、米国が東アジア共同体構築へ、直接的に関与しなくとも、日本が米国に東アジア共同体の構想を支援するよう働きかけてほしいと願っています。もし、米国がそれを望まないようであれば、日本には、東アジア共同体をAPECに組み込むよう働きかけて欲しいと考えています。APEC自身、改革と改善を必要としています。東アジア共同体構想とその実現を通して、日本は、自身のアジア政策と地域での役割を迷惑にすることができるでしょう。日本は、またアジアと米国との仲介役となるべきです。これらの役割をはたすことで、日本は東アジアでの米国の将来のプレゼンスと役割を確実なものにできるでしょう。

インドネシアとASEANと共に、日本はAPECとARFを、米国からの参加と支援を持つ効果的な地域機構として強化していけるでしょう。

私のプレゼンテーションを終える前に、もう一度、インドネシアがASEAN,東アジア、そしてアジア太平洋地域のために、必要な存在であることを述べさせて頂きたい。

インドネシアは、世界第四位の人口を持ち、民主主義国としては、世界第三位の規模を持ち、発展途上の国であります。世界最大のイスラーム教徒がおり、その大半は穏健な信者です。

もし、インドネシアが成功すれば、他の発展途上国にとっても民主主義が途上国でも機能するということの一例となります。

より重要なことは、インドネシアは、他のイスラーム国家にとっても、民主主義とイスラームは相反するものではなく、両立し、経済的繁栄と社会正義の発展を導くものであることの一例となります。インドネシアが成功すれば、シャリーア(イスラム世界の拡大)だけが、イスラーム共同体であるということを意味しなくなります。

私が述べたこのような考えは、インドネシアの改革を達成するために件名に努力して初めて、現実のものとなります。そのために、今一度日本の役割が不可欠であることを強調させていただきたい。民主主義、繁栄そして地域の安定のために、パートナーシップを築きましょう。

以 上