JIIAフォーラム講演要旨

2006年5月25日
東海大学校友会館
  

ホセ・デ・ヴェネシア
フィリピン共和国下院議長

「東アジアにおける日本 (日・フィリピン国交正常化50周年)」

日本経済が再び活性化し、東アジア諸国の経済成長に良影響を与えているのは歓迎すべきことである。小泉首相が促進してきた政治改革は、政府支出の削減と経済分野への政府の介入の抑制において成功を収めている。これは我が国でも実現したい課題である。日本の選挙政治に国民の大きな関心を呼び起こした小泉首相のカリスマにも賞賛の念を抱いている。小泉時代は間違いなく日本の近代民主主義政治の分岐点となるだろう。

ASEAN10カ国は東南アジアを一つのマーケットとする構想を急速に進めている。「ASEAN10+1」自由貿易地帯構想を中国と進めており、2010年にはフルに機能する予定である。日本と韓国はASEAN諸国との独自の自由貿易協定交渉を進めている。今月初めには、ASEAN9カ国が韓国との貿易協定を締結した。我が国と日本との「経済パートナーシップ協定」については、太平洋戦争を終結させたサンフランシスコ条約締結50周年の今年7月までに署名されることを願っている。

過去4年間、アロヨ政権は経済の効率性向上のための構造的変革と、社会・産業インフラへの公共投資増加を意図した財政改革を行ってきた。財政赤字は対応可能なレベルに削減されてきている(2002年においてGDPの5.5%、昨年は2.6%まで削減)。経済改革は完成されたとは言いがたいが、高成長を続ける近隣諸国とようやく足並みを揃えられる見通しを持つに至っている。政治システムの近代化も進められており、大統領制から議会制へのシフトを承認するための憲法改正が予定されている。議会制は政党政治であるから、現在の諸派閥が合併し、支持する政策により明確な違いを出せる政党としてそれぞれが一本立ちしていくよう奨励している。

新しい東アジアにおける日本の役割について、ASEAN諸国はどのように考えているだろうか。我々は、日本が東アジア経済グループ (EAEG)構築のリーダーシップを取ることを期待している。同時に、日本が中国、韓国、インド、南アジアと中央アジアの共和国と協調しつつ、アジアの政治的統一に向け、欧州評議会議員会議(PACE)のアジア版ともいえるアジア議員会議を創出するイニシアティブを発揮することも期待している。

更に、米国との安全保障パートナーシップの保持、中国及び南北朝鮮との政治的相違の克服、ASEAN諸国との経済・開発パートシップの枠組みの完成、ロシアの天然資源開発支援と同国の東アジア共同体への参加促進――― この4点を、我々、東南アジアは日本に期待している。

日・フィリピン関係においては、フィリピン政府は9〜10月までに署名をめざしているミンダナオ島の反政府勢力MILF(モロ・イスラム解放戦線)との平和協定への日本の力添えを期待している。日本のODA及び民間投資によるミンダナオ開発は、同島の安定にとって欠かせないものである。

東南アジア諸国が過去は過去のものとしているのに対し、北東アジア諸国 ―― 日本、中国、南北朝鮮 ―― が半世紀以上も前に起こった出来事にいまだにこだわり続けているのは異常な状態である。戦後6年しか経たないうちに、ヨーロッパ諸国がECの立ち上げにドイツ、イタリアの参加を認めたのに対し、日本は外交的に孤立させられ、ほとんどの場合、他の大国によって大国以下の扱いをされ続けてきた。しかし今では、国連分担金の20%を負担していることも含め、世界的課題への日本の惜しまぬ支援は世界にとって必要不可欠である。自由民主党は日本が「普通の国」になるための提案を行っているが、私個人の意見としては日本が「正常化」するのをどんな外圧も無限に阻止することはできないし、日本は今こそ、大国協調の場でリーダーシップと威厳ある地位を得る時であると考える。国連安保理の常任理事国入りはその一つであり、フィリピン下院議会は日本の常任理事国入りをアジアで正式に支持した最初の議会だったのではなかっただろうか。

今後10−20年の間に、東アジアが大規模な武力紛争に直面する危険は否定できず、我々は協力して地域の平和維持に努める必要がある。西ヨーロッパにおいて過去200年に渡り戦い続けてきたフランスとドイツは、軍事的ライバル関係を過去のものとしている。新しい欧州は力と制圧によるのではなく、コンセンサスと共通の目的の上に築き上げられた「帝国」である。我々もこうした欧州のケースに学ばなければならないだろう。

ASEANと中国が自由貿易協定交渉に合意してからまもなく、2002年初頭に東南アジアを訪れた小泉首相は、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、後には米国、カナダを含む、太平洋経済ブロックというより広大な発想を提示した。このヴィジョンは、21メンバーから構成される包括的なAPEC(アジア太平洋経済協力)が、最終的にはアジア太平洋共同体へと変貌するであろうことと大きな相違はない。そうであれば、共同体というものが我々の未来を握っているといえる。こうした地域組織を機能させることが、今後台頭する世代の政治的、経済的、文化的リーダーの歴史的責務となるだろう。

以 上