JIIAフォーラム講演要旨

2006年7月13日
於:霞ヶ関ビル プラザホール
  

ウォルフェンソン前世界銀行総裁

「21世紀における日本の役割」

 第二次世界大戦後半世紀にわたって、国際社会はG7を中心とした豊かな先進国とその他の貧しい途上国に二分されていた。そうした中、日本は目覚しい復興を遂げて世界第二位の経済大国となり、先進国の仲間入りをした。1953年に開始された世界銀行の対日借款は1966年には終了し、今や日本は世銀や国連に対する主要な資金拠出国の一つとなっている。文化的・歴史的伝統を失うことなく、変化する世界情勢に適応しつつ発展してきた日本の姿には目を見張るものがある。

 21世紀に入り新たな世界が生まれつつある。近年、BRIC諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の経済は急速に成長している。15年か20年後には、その筆頭格である中国はGDPにおいて日本を凌駕するとの予測もある。また2030年か2040年にはG7の構成も変わり、そのメンバーであり続けるのは日本と米国だけとの見方もある。そして2050年までには、BRIC諸国を含む新興国のGDPが総額90兆ドルに達すると推定されている。しかしその一方で、最貧国と呼ばれる50カ国は約10億人もの人口を抱えているにも関わらず、全世界の1パーセントのGDPしか生み出さないのである。

 そのように世界が激変する中、日本の国内状況も著しく変化している。国民の平均年齢が50歳に近づくなど高齢化の進行に伴い、年金や社会福祉分野における財政負担が増大してきており、予算上の制約がますます顕在化している。日本が効果的なリーダーシップを発揮するためには、そうした国際的及び国内的変化に適応しつつ、以下の三つの分野に注目することが肝要であろう。

 第一に、中国とインドという二大新興国を擁するアジア地域におけるパワー・バランスの変動に留意しなければならない。特に、「政冷経熱」の状態にある日中関係の改善と北朝鮮問題の解決がこの地域の平和と安定にとって不可欠であり、そのために日本が果たす役割は極めて重要であると考える。

 第二の分野はエネルギーの安全保障である。日本は石油消費量のおよそ70パーセントを、世界で最も不安定な地域からの輸入に依存している。真剣な省エネ努力は賞賛に値するが、中国やインドの需要拡大の影響もあり、エネルギーの安定供給は日本にとって死活的な問題といえよう。

 第三に、人間の安全保障においても日本は継続した役割が求められている。同分野における日本の資金面での貢献は世界で一、二位を争うものであり、国際社会の平和に資するものである。今後は更なる道義的、政治的役割が期待されている。

 世銀総裁を務めた間、私は常に日本の寛大な財的貢献に感銘を受けた。だがリーダーシップを発揮することに関しては、日本は躊躇する傾向があったとの印象がある。歴史的経験による心理的トラウマや米国との同盟関係などが影響しているのかもしれないが、その国際的地位や国力に鑑み、日本が今まで以上に明確な自己主張を行い積極的なリーダーシップを発揮することを切に願ってやまない。そうすれば、日本が実際に果たしている大きな役割に対する国際的認知も高まるのではなかろうか。

以 上