JIIAフォーラム講演要旨

2006年10月25日
於:霞ヶ関ビル プラザホール

小山謹二 当研究所軍縮・不拡散促進センター客員研究員
道下徳成 防衛研究所 研究部 第2研究室 主任研究官    
秋山信将 当研究所軍縮・不拡散促進センター主任研究員

「北朝鮮と核問題」

 小山謹二

 北朝鮮の核爆発実験は失敗か?成功か?北朝鮮は、爆発規模4ktの核実験を行うと中国に事前に通報した。ところが、CTBTO暫定事務局の報告によれば、爆発による地震の規模(マグニチュード)は4.1±0.1であり、セミパラチンスクで行われた地下核爆発実験と同じ状況の下で行われたと仮定すれば、爆発規模は0.34ktという結果になる。USGSの報告(マグニチュード4.2)で計算しても、0.46ktであり、北朝鮮による事前通告の1/10以下の結果となってしまう。
 なぜ、このような結果が生まれるのか?まず、計画通りに核爆発しなかったことが考えられる。だとすれば、その原因は、即発中性子増倍率(kp)が予定の値に到達しなかったか、もしくは早期爆発を起こしたことが想定される。もし、核爆発で80回の核分裂を繰り返すと仮定し、kpの設定値2.0に届かず1.96にしかならなかったとすれば、爆発の規模は1/10以下になる。また、中性子源が設計どおりに動作せず、早期爆発を起こせば、核分裂が設計どおり続かないことになる。
 加えて、計画通りに爆発したが、地震の規模が小さくなったことが考えられる。まず、爆心地の地層によって地震の規模は変わる。花崗岩層でマグニチュード5.0の爆発は、乾いた沖積層では4.0になる。さらに、伝播経路における地震波減衰率の違いによって地震の規模は変わる。過去に米ソが行った4ktの核爆発実験でも、ネバダで行うとマグニチュード4.4だが、セミパラチンスクで行うと4.9であった。また、空洞の中で核爆発をさせると地震の規模は減少する。4ktの核爆発を10m半径の空洞で行うと、地震の規模は1/30になる。
 このことから、北朝鮮の核爆発実験を失敗だったと結論付ける十分な根拠はない。10nsecの単位で制御しなければならない世界で、少なくとも0.5kt以下の核爆発は起こしている。しかも、その爆発規模はもっと大きい可能性もある。これが兵器として使えるかは分からないが、技術的に一番難しい部分は通り抜けていると評することができる。


道下徳成

 核実験の評価であるが、安全保障の面から見れば、日本と韓国にとって危険なものである。しかし、核実験に完全に成功したわけではないようだ。北朝鮮の核兵器はまだ完成されたものではないので、軍事的に見れば北朝鮮は現在、最も脆弱な状態にある。にもかかわらず北朝鮮が核実験を行ったのは、北朝鮮が米国の攻撃を恐れていないからであると考えられる。また、核実験が「失敗」であると評価されていることは、将来、外交的に利用できるかも知れない。北朝鮮に「核を放棄させる」のではなく、「そもそも北朝鮮は核兵器を保有するに至らなかった」という形式をとることによって、北朝鮮が核を放棄しやすくできる。
 北朝鮮の核実験の目的であるが、1つ目は金融制裁を行う米国を交渉に引きずり出すためである。2つ目は、米国は瀬戸際外交を行う合理的アクターとして北朝鮮を見ているので、非合理的アクターであるように思わせるためである。3つ目は、北朝鮮に対する影響力を強めつつある中国を牽制するためである。
 この後についてであるが、中国がイニシアティブをとって何らかの合意を引き出すことが望ましい。90年代、冷戦体制崩壊によって中ソに見捨てられた北朝鮮が新しいパートナーとして米国を選んだのは自然なことであった。しかし、今は状況が違う。中国は対北関与政策でリーダーシップをとる意思と能力をもっている。核実験によって米朝・日朝の関係改善は当面困難となった。こうしたなかで外交的に問題の解決を行うためには、中国が対北政策を見直し、「対話と圧力」をバランス良く用いつつ、6者協議でリーダーシップをとっていくことが不可欠である。つまり、90年代に米国が果たした役割を中国が果たすということだ。
 中国が中心となって行う合意の内容は、核計画の即時全面放棄よりは緩やかなものとなろうが、日米両国も受け入れられるものでなければならない。そして、合意に伴う対北エネルギー支援や外交努力などのコストは中国が負担し、韓国がこれを側面支援する。日米両国は中韓の努力を支持しつつも、当面は対北抑止力と圧力を漸増させる。但し、核・ミサイル問題や拉致問題が進展した場合には、日米も積極的な関与政策を再開するという立場を明示しておく必要がある。
 日本にとって注意すべきことは、北朝鮮が非常に危険な瀬戸際政策を行ってくることである。北朝鮮は米国との交渉を引き出すために、日本に対してミサイル攻撃などの軍事行動を起こすことも考えられる。その場合に日本が北朝鮮の脅しに屈服し、米国に対して北朝鮮との対話を呼びかけるような状況に追い込まれるのが最も悪いシナリオである。また、北朝鮮が崩壊するようなことになると、金正日が歴史に名を残すために日本に攻撃を仕掛けようとするかも知れない。そうなると、もはや抑止力は働かない。そういう事態に備えて、被害限定のための準備もしておく必要がある。


秋山信将

 北朝鮮の核実験を受けて、NPTは死んだという評価がある。NPTの第10条にある脱退条項が、核保有を正当化する方法として使えるという印象を北朝鮮の核実験は与えてしまった。つまり、他の国も平和利用を隠れ蓑に核技術の取得をNPT脱退直前まで続け、脱退して核保有を宣言する可能性があることを示したのである。また、核物質や核技術の拡散が指摘されよう。北朝鮮とパキスタンの間で核技術移転の噂もある。さらに、北朝鮮ですら核保有できるなら、我々もできると他国が考えるようになる、つまり意図の連鎖もありえる。それゆえNPTは死んだといわれるのである。
 しかし、それは正しいのだろうか?確かに、NPTやCTBTは北朝鮮の核武装を止められなかったし、北の核武装は他国が核保有に走るインセンティブを与えかねない。しかし、北朝鮮やイランの問題は、冷戦時代、まだNPT体制が弱かった時期から存在した古い問題であった。しかし、湾岸戦争以降、IAEA保障措置協定の追加議定書などNPT体制は強化されているので、強化された現在のNPT体制に死んだという評価を与えるのは早計である。
 NPTが核不拡散の規範として機能している点も重要である。インドやパキスタンはわざわざNPTの枠外で核保有したと強調している。北朝鮮も、核保有のためにNPTを脱退しているのである。これは、NPTが核保有の違法性を規定する規範としていかに強いかを逆説的に示している。
とはいえ、実際に核拡散は起きている。NPTだけで核拡散は止められない。核不拡散のためには3つの次元から考えていかなければならない。それは、一つ目に、北朝鮮のような個別の案件をどう解決しなければならないかということである。二つ目に核技術拡散を防止する制度にはまだ数多くの抜け道がある点を解決しなければならないということである。三つ目は、第二の北朝鮮の出現を阻止しなければならないということである。
 個別の案件についてはすでに道下さんが述べているので省略する。二つ目に関しては、拡散に対する安全保障構想(PSI)や貿易管理を強化する必要があろう。これは、実際に核技術移転を摘発することによる拡散の防止だけでなく、核技術を移転しようとする国に対する抑止という効果もある。しかし、コストがかかることが問題となる。やはり、長期的に見て、第二の北朝鮮のような国の出現を防ぐためには、規範の強化が重要になってくる。そこで、制裁など、違反国に対して罰する強制力のある制度によって、規範を強化することを検討すべきと考えられる。もちろん、規範強化にはNPT体制に内在する不平等の拡大の可能性など問題点もあって簡単ではないが、レジーム強化は長期的に不拡散の強化にとって重要な取り組みである。

以 上