JIIAフォーラム講演要旨

2006年11月6日
於:霞ヶ関ビル プラザホール



「北朝鮮の核実験後の北東アジア情勢と中国の対応」



  ①北東アジアの地政的な特徴、②北朝鮮の核開発問題、③対話による平和的な解決、④現在の北朝鮮の核問題、⑤北朝鮮の核実験の影響、⑥国際社会が直面する選択について論じたい。

 ①北東アジアの地政的な特徴であるが、3つ挙げられる。一つ目に、国際政治に大きな影響力を持つ日本や中国、ロシア、さらに域外であるが米国、それらの大国がこの地域に集まっており、複雑な関係を持っていることである。二つ目に、韓国や北朝鮮、モンゴルなど相対的に小さな国家も存在することである。三つ目にそれらの国家はそれぞれ異なる歴史を経てきたことである。それだけ複雑な地域なのである。
 近代化が始まって以降、中国が宗主国であったこの地域に大きな変化が生じた。それが大国間の関係に大きな影響を与え、近代化以降、4つの大きな戦争を経験してきた。日清戦争、日露戦争、日中戦争、朝鮮戦争である。それらは全て朝鮮半島に関係している。つまり、朝鮮半島の問題は上手に処理しないと新たな争いを引き起こすことになるのである。歴史を振り返って、現在における北朝鮮の核問題に立ち向かっていかなくてはならない。

 ②北朝鮮の核開発問題についてであるが、北朝鮮は1950年代後半から核開発を始めている。1956年にソ連と核技術に関する協定を結んでおり、69年になると核技術はますます発展した。80年代初めに米国は北朝鮮が秘密裏に核開発を進めている事を発見し、北朝鮮を核不拡散条約(NPT)に加盟させた。90年代に入ると、米国は北朝鮮がまだ核開発を進めていることを知った。そこで米朝間の対話が始まり、94年に米朝合意枠組みが締結されたが、米朝共にこの協定を遵守しなかった。2002年10月に始まった北朝鮮の核危機はこういう経緯がある。朝鮮半島の情勢は緊張の度合いを高めていき、2005年2月に北朝鮮は公式に核保有を認めた。そして、今年の10月に核実験した。このように北朝鮮の核開発は、何十年もかけて、莫大な資金を投入したものであった。
 北朝鮮の核開発の目的であるが、核保有国になって周辺大国に対して制約を加えること、南北朝鮮の関係における受動的な立場を変えようとすることが最終目的として考えられる。さらに、開発過程における目的として、一つ目に国内の求心力を集めるため、二つ目に外交カードとして使うため、三つ目に米国が北朝鮮に侵攻する事を阻止するためが考えられる。それに対して、米国は北朝鮮の核開発に反対している。その理由は、一番目にNPTの下の秩序を乱すため、二番目に北東アジアにおける軍備競争が始まるため、三番目にテロリストなどに核技術が拡散する恐れがあるためである。

 ③対話による平和的な解決であるが、1994年に米朝合意枠組みが締結されて暫定的に核危機を回避した後、97年から断続的に4カ国協議が開催されて核問題を解決しようとしたが、成果がなかった。2002年に核危機が発生した後に、03年4月に3カ国協議が開催されたが、これも成果がなかった。03年8月に中国が斡旋して6カ国協議が始まった。これは5回行われ、ある程度の成果があった。05年7月から第4回協議が行われ、9月に非核化の共同声明が発表されたからである。たたじ、11月に第5回協議が開催されて以降、北朝鮮が参席を拒否したため、今まで開催されていない。これを回想すると、これらの協議は根本的な成果を得ておらず、対話による平和的な解決は非常に難しいといえる。

 ④現在の北朝鮮の核問題についてであるが、国際社会の強い警告にもかかわらず、北朝鮮は今年の10月9日に核実験を行った。その日、中国政府は「北朝鮮は国際社会の幅広い(普遍的な)反対の声を無視し、10月9日に核実験を実施した。中国政府はこれに断固として反対する」という声明を出した。これほど中国が強い表現の声明を出すことは滅多にない。これが中国の北朝鮮への対応方針である。北朝鮮の核実験は、第一点目に北朝鮮が核兵器を保有しようとするのは既定の路線であることを我々に教えてくれた。多くの人が本気と思っていなかった。あるいは外交カードだと思っていた。これらの見解は間違っていたことが明らかになった。もはや、北朝鮮の核放棄は非常に困難になったことを明確に認識しなければならない。第二点目であるが、北朝鮮の核実験は非常に重要な地点を越えたものであった。核実験によって核爆発までできることが証明された。これから北朝鮮は攻撃的な戦略を採って、核保有国であることを国際社会に認めさせようとしてくるであろう。第三点目であるが、対話を通じて核放棄を目指す6カ国協議の歩みがさらに困難になるであろう。6カ国協議について中国は楽観視していない。6カ国協議の趣旨と北朝鮮の目的は異なるからである。北朝鮮は、経済制裁を和らげるために6カ国協議に出てこざるを得ないであろうが、それで核放棄を実現できるわけではない。

 ⑤北朝鮮の核実験の影響であるが、誰も朝鮮半島の非核化が壊れたことを喜ばない。冷戦構造によって平和が保たれている北東アジアにおいて、北朝鮮が核実験をしたということは、日本や韓国、オーストラリアまで核の道を辿る可能性が出てきたことを示している。しかも、北朝鮮の人民にとっても喜ばしくない。北朝鮮は、国土面積が少ないのに人口密度が高く、国民は貧しい。それに加えて核開発すれば、国際社会から孤立するので経済発展はできない。また朝鮮半島そのものの人口密度が高いので、このような所で核実験することは危険である。また、北朝鮮が核兵器を持っていれば米国は攻撃できないが、核兵器を持っていれば、米国は真剣に朝鮮半島の非核化を考えるであろう。そのため、北朝鮮が核兵器を持つことはさらに安全を低めるともいえる。米国がどうするかは分からない。ただし、米国は一度の攻撃で北朝鮮の全ての核兵器を破壊することが可能であろう。
 日本にとっても良いことではない。北朝鮮の核実験やミサイル発射は、日本の防衛論を活発にする結果をもたらしている。日本が憲法を改正する可能性もあるだろう。さらに米国にとっても望ましくない。米国の北東アジアにおける立場にも大きな影響を与える。また、北朝鮮がテロリストに核技術を渡せば、米国にとって直接の脅威となる。
 中国にとっても好ましくない。ただし、北朝鮮の核保有は中国にとって有利だという誤解がある。これは非常に短絡的な見方である。北朝鮮の核保有は、周辺諸国すべてに対するものであり、中国にとって好ましいものであるはずがない。そのため、中国の目的は朝鮮半島の非核化を実現することにある。

 ⑥国際社会が直面する選択であるが、朝鮮半島の非核化を取り戻すことが必要である。その方法には、4つ考えられる。一つ目に対話を通じて核放棄させ、そして見返りも与えるというのが最も理想的である。二つ目に協議が失敗したときのために、武力による制裁を考えなければならない。核を持っているので慎重にすべきであるが、最終的な選択として採らざるを得ないこともある。三つ目に、イラク戦争のように、米国が北朝鮮の国内にあらかじめ手を回した上で、北朝鮮政府を転覆させることである。ただ、これはたとえ成功したとしても、北東アジアの安全保障に大きな影響を与える。四つ目に、北朝鮮と米国が秘密裏に会談して、核を輸出しない代わりに米国が黙認するということである。しかし、これは最終的な解決にならない。また米国がこれを認めるとは考えにくい。そこで、一つ目が最良の解決となる。これは金正日の出方次第となる。国際社会は難しい選択をしなくてはならないということになろう。協議が失敗したら、武力制裁という選択も出てくる。これは中国にとっては非常に困難な選択となろう。中国は北朝鮮の核保有を絶対に認めない。しかし、北東アジアの動乱も望んでいないからである。

以 上