JIIAフォーラム講演要旨

2006年11月17日
於:東海大学校友会館


ハンス・ブリクス 元国際原子力機関(IAEA)事務局長

「兵器削減による更なる安全保障〜軍縮復活の必要性〜」

 今日、世界で注目されているのは、北朝鮮のミサイルと核実験、イランのウラン濃縮問題であろう。またテロリストが核兵器や放射能拡散兵器等を手に入れると危ないという指摘もある。それは妥当である。ただし、核兵器は誰の手にあっても危ないという事実が忘れられているのではないか。世界戦争のリスクは遠のいているかも知れないが、平和秩序を作る機会は失われているのである。

 これらを背景にして、私が座長を務める独立国際委員会の「WMDC:恐怖の兵器、核・生物・化学兵器から世界を自由に」が今年の6月に国連事務局長と国連総会議長にレポートを提出した。それによると、大量破壊兵器の脅威は、二つの異なった方法で排除するか、減少できる。①武力行使を禁じた国連憲章を尊重させることで、武力紛争をなくし、兵器の意味をなくすこと、②兵器規制や解体によって、兵器そのものをなくすことである。このいずれが効果的であるか?

 国連憲章では、二つの例外を除いて武力行使を禁じている。例外とは、国連安全保障理事会が必要な措置をとるまでの自衛手段である場合、国連安保理によって武力行使が認められた場合、である。ところが、平和秩序を構築するために国連安保理に依存することは難しい。冷戦期に安保理は常任理事国の拒否権行使のために機能しなかった。近年でも、安保理を無視してイラク戦争が始められた。自己防衛のための先制攻撃もありうるという米国の安全保障政策では、国連憲章は平和に役に立たなくなる。また、安保理では北朝鮮の核実験を批判したにもかかわらず、常任理事国である米国や中国などは包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准していない。安保理が国連加盟国に義務を課すためにも、理事国もまた国連憲章を尊重しなければならない。

 そこで、国連安保理理事国が国連憲章に基づいて国連加盟国に義務を要求する場合、武力行使を限定しながら、理事国自身も国連憲章を尊重する行動を採るべきである。また、国連安保理が核不拡散を他国に要求する場合、核保有国も核軍縮に向けて動くべきである。

 大量破壊兵器の使用を不法とすることについてだが、1946年に国連総会は「原子兵器」と他の大量破壊兵器を物理的に除去する決断を宣言した。しかし、今まで、生物兵器と化学兵器については包括的な保有禁止措置が作られたが、核兵器については核不拡散条約(NPT)など様々な国際条規によって断片的な措置がとられているにすぎない。どうすれば、世界を核兵器から自由にできるのか?

 大量破壊兵器の核拡散に対するEUの戦略では、「大量破壊兵器である核拡散の問題の最良解決は、国家がもうそれらを必要に感じないようにすべきである…安全であれば安全であるほど、核計画をより放棄しやすいであろう」と論じている。イランは、イラクから実際に大量破壊兵器の攻撃を受けた経験もある。そういったイランや北朝鮮の安全を保障することは、彼らに核を放棄させることに役に立つと考えられる。それゆえ、核保有国は核軍縮に動かねばならず、新たな核兵器を開発すべきではない。相手に脅威を与えるからである。また、軍事制裁も行ってはならない。それも相手に対して脅威を与えるだけである。

 そこで、WMDCでは、核兵器から世界を自由にするために、以下のような方策を勧告している。まず、大量破壊兵器放棄のための世界サミットを開催し、ジュネーブ軍縮会議を再活用し、安保理に大量破壊兵器に関連する部署を設置し、NPTに常設事務局を置くべきである。さらに、CTBT批准を進め、高濃縮ウランとプルトニウムの生産を禁止する条約を成立させ、IAEAの査察や検証制度を高めていき、現存する核兵器を削減していき、核保有国に核の先制不使用を宣言せしめ、平和核利用のためにIAEAを活用し、危険な地域(朝鮮半島や中東)ではさらに神経を尖らせ、国連の下にある査察機能を活用し、IAEAの保障措置システムを高めるべきである。

以 上