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JIIAフォーラム講演要旨

2006年11月20日
於:日本国際問題研究所

フランシス・ドゥロン 仏国防事務総局長

「フランスの対テロ政策」

 フランスは数十年間、テロに直面して来た。1990年代以降、アルカイダなどのグローバルなイスラーム原理主義などが台頭し、フランスは対テロ政策のグローバルな見直しを行った。フランスの対テロ政策は、2つの基本的な要素を踏まえなければいけないと考えている。まず、対テロ政策の内容は国民に受け入れられなければならないということ、そして、法の支配を堅持しなければならないということである。そのうえで、先進国間、そしてイスラーム諸国などとの間に強固な国際協力の仕組みを作らなければならない。

 1980年代とも90年代とも違い、今日の世界は、グローバルなテロリズムの時代となっている。グローバルなテロリズムが戦略的な脅威となっているのにはいくつかの理由がある。ひとつは、グローバルなテロリズムが形態を変えながら世界に拡散し継続するとともに、テロリズムという手法が、西側のコントロールモデルを受け入れたくない人々を結び付け、グローバリゼーションのアンチテーゼとなろうとする性格を持つためである。そして、イラクやアフガニスタンなど各地の紛争において、テロリストが紛争に乗じて正当性を得ようとする動きが存在するためである。

 フランスは、イラク戦争に加わらなかったためか、マドリッドやロンドンで起こったような最近の欧州での一連のテロには見舞われていないが、アフガニスタンへの関与、北アフリカとの関係、スカーフ問題に象徴される政教分離の原則などのように、テロリストにとってテロを正当化する名分を探してくることはできるだろう。テロリストは宗教の教義を混同し、宗教を利用している。イスラーム自体とテロリズムを混同してはならない、という点が非常に重要である。

 近代社会は決してテロを許容してはならない。テロをもたらす根本原因を根絶するために戦わなければならないが、その際に留意すべきことがある。ひとつは、法の支配を曲げないということである。テロ対策のために法の支配を曲げるということは我々の正当性を失うことを意味する。もうひとつは、テロに対し戦争を想起させる語彙(terminology of war)を使わないということである。我々は「テロに対する戦争(war against terrorism)」とは言わないことにしている。テロ対策を戦争になぞらえることは、ある意味でテロリストを戦闘員として認めることでもあり、テロを正当化する意味合いを持ってしまう。対テロ政策とはあくまでも犯罪者に対する戦いなのである。

 テロリズムに対処するにあたって、まず最も重要なのは情報である。テロを未然に防ぐことが重要であり、情報収集能力の強化が必要である。また、潜在的なターゲットを保護することが重要である。テロリストは攻撃不可能なところは狙わないので、テロリストにとって狙いやすい、ソフトターゲットを保護することが重要である。

 そして、とりわけ重要なのは国民の支持をきちんと取り付けることである。政府のやっていることを国民に十分に説明し、支持を求める必要がある。対テロ政策とはある意味では思想戦(battle of ideas)である。テロリストのプロパガンダにはきちんと論駁し、アルカイダなどのテロリストが言っていることはイスラームの曲解であるときちんと説明し、対抗するメッセージを発信する必要がある。また、今日における対テロ政策とは一国だけで対応できるものではない。各国の連携が重要であるとともに、アラブ、アフリカに向けた政策が必要である。テロが彼らのためにもならないことを説明し、テロリストによる最大の被害者はアラブ人であるということを知らせなければならない。日本ではテロリズムの脅威はあまり深刻に受け止められていないかもしれないが、日本もまた西側世界の一員であり、関係ないとは言えない話である。

以 上