JIIAフォーラム講演要旨

2006年12月11日
於:日本国際問題研究所


テケダ・アレム・エチオピア連邦民主共和国外務担当国務大臣

「アフリカの平和と安全保障―特にアフリカの角情勢」

最近のアフリカの角情勢、特にソマリア情勢について考える際には、次の3点に留意する必要があろう。
第1の点は、アフリカの角における混乱・緊張の背景には、イラク問題など中東情勢が常に存在するということである。アフリカの角地域の不安定な情勢について、その原因を当該地域のみに求めるのは誤りである。イラクでは過激派がイスラムの言説を恣意的に解釈することでそれを悪用し、テロ活動を行うという事例が多々見られるが、アフリカの角も同様の脅威に直面している。イラク情勢の悪化は、アフリカの角地域の人々の間に草の根レベルで不安・不満を醸成する契機となっており、ジハードを声高に唱える過激派の主張を後押しする事態となっている。その結果、ソマリアではイスラム法廷など過激派の勢力が伸張し、かつてないほどに危険な状況となっている。また、ジハードを唱える過激派は、国際法や国際秩序を無視し、紛争の平和的解決に取り組まないという点で、国際社会に対する脅威にもなっている。
第2の点は、国際社会において、アフリカの角におけるこのような危機的状況への認識が不十分であり、過激派の伸張に伴う危険性に適切な注意が払われていないということである。このことは、イスラム法廷への国外からの支援と比較して、ソマリア暫定政権への国際的な支援が非常に限定的なものに留まっていることによく示されている。この結果、暫定政権は正統な政府として認められているにもかかわらず、非常に勢力が弱いままである。

第3の点は、ジハードを唱える過激派の勢力伸張の背景として、イラク問題などの中東情勢の他に、我々当事者による過去の取り組みが失敗した事実が挙げられることである。それゆえ、過去の失敗を反省し、それに学べば、安定したアフリカの角を回復することができよう。これまで、ソマリアでの長期に及ぶ混乱状況の収拾を目的に、準地域機構IGAD(政府間開発機構)を中心として暫定政権への支援が行われてきた。しかし、国際社会の足並みが乱れたため、この計画は政治的・財政的困難に直面し、その実施は停滞した。この間隙を縫ってイスラム法廷が台頭する事態となり、アフリカの角の平和と安定にとって大きな試練がもたらされたのである。

エチオピアなど周辺諸国にとっても、ソマリア情勢の悪化は大きな問題である。上述のように、イラク情勢の悪化はアフリカの角に暮らす人々に対して、過激派の主張を説得力のあるものと感じさせる心情的な影響を与えている。例えば、過激派は、ソマリア人ムスリムの権利が十字軍勢力によって侵害されているとするが、このような主張も説得力を持つものとして受け入れられる事態となっている。イスラム法廷の組織内部において、良識ある穏健派の声は、このような少数の過激派の声に消されている。

また、偏見に満ちた過激派は、エチオピアに対する批判を広めることにも熱心である。彼らは既存の国境を無視し、アフリカの角におけるソマリ語を話す人々の統一を目論んでいる。仮に他者との対話を拒否し国際法の諸原則を無視する過激派の思惑が実現したらならば、それはアフリカの角のみならず、アフリカ大陸、さらには世界にとっての大きな悲劇・脅威となろう。

国際社会が十分に関心を払ってこなかったことが現在のソマリア情勢の一因ではあるが、最近、国際社会においてソマリア情勢の安定化に向けた取り組みが見られるようになってきたことは朗報である。この講演の2日前に、国連安保理でソマリア情勢安定化のために、暫定政権への武器禁輸解除が決定され、同時に暫定政権とイスラム法廷との対話を求める決定がなされた。実際に、両者間で対話の兆しも見られるようになった。しかし、イスラム法廷は言葉では対話重視としつつも、同時に暫定政権に対する攻撃を続けておい、ソマリア情勢安定化への前途は決して楽観しできない。国際社会は暫定政権への支援を行い、そして暫定政権とイスラム法廷との対話を促進するよう努力し続ける必要がある。

イラク情勢が悪化する中で、過激派がアフリカの角で勝利すれば、それは国際社会にとても大きな脅威となろう。彼らはエチオピアへの敵意を抱いており、その併合をも狙っている。エチオピアと対立するエリトリアを動員しつつ、エチオピアへのジハードを主張している。これまで私はイスラム法廷の指導者たちと会った際に、お互いによきパートナーとなること、国際法を遵守すること、国家間関係を尊重し敵対行為を控えることを提案してきたが、まだ彼らから回答を得ていない。中東情勢とアフリカの角情勢は相互に密接に関連しており、国際社会はアフリカの角における今後の推移を慎重に見守らなければならない。
国際社会の協力がアフリカの角の安定化には不可欠であるにもかかわらず、いまだ不十分のままである。2日前の安保理決議を出発点に、これまでの経験を糧として、平和なアフリカの角の回復に努めたい。日本をはじめとする国際社会のさらなる積極的な協力・貢献を大いに期待したい。

以 上