JIIAフォーラム講演要旨

2007年1月30日
於:日本国際問題研究所


バラ・ナンダ・シャルマ中将
前国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)司令官

「国連PKOの課題−前UNDOF司令官の経験を踏まえて−」

冷戦の二極分化の時代から一極の時代へと変わり、今日では平和維持活動のあり方も大きく変わった。平和維持活動の概念は変化しており、課題は多面的になっている。単なる平和維持活動というものは今日では存在せず、NGOなどとの連携を重視しながら、国づくりといったような複合的な努力が必要となっている。

中東では国連創設の直後からUNTSO(国連休戦監視機構)などの国連PKOのミッションが展開されているが、UNDOF(国連兵力引き離し監視部隊)やUNIFIL(国連レバノン暫定軍)といったミッションは、本来は一時的なものであるはずだったのだが、いずれも政治的な解決を見出せずに恒常化している。こうしたミッションの隊員は、当事者を支援し休戦協定の履行を助けるために駐留するわけで、不偏不党の立場から当事者の合意に基づいて現地にいるのだが、それでも現地では多くの危険が伴う。私が始めてUNIFILの任務で現地に着任した1978年頃は過酷な状況にあり、現地の国連の部隊が攻撃を受けるといった事件があった。

現在もそうした状況はあまり変わっていない。平和維持活動のミッションは長期間に及ぶことが多く、現場の司令官には非常なストレスが掛かる。司令官の自殺というケースもあった程である。平和維持活動のミッションの決定に際しては、それぞれ政治的な事情を抱える各国の折衝によって政治的な要素がより反映される形でミッションの概要が決められることが多く、実際に現地の状況に照らしてどの程度の人員や装備が必要かといったような軍事的要請はあまり反映されていない。しかし現地で実際に平和維持に当たるのは軍であり、現場の負担とストレスは大きい。

実際の平和維持活動の中での大きな課題のひとつは、武装勢力の動員解除(demobilization)である。武装戦力から引き離した人々に授産を行い、生活が立つようにすることが必要なのだが、一般の人々が貧困状態にあるときにそういう人々だけを優遇するわけにも行かず、困難が伴う。

UNDOFの司令官として、これまで多くの国の軍隊を指揮してきた。UNDOFの現場は戦火こそないが交戦状態にあるわけであり、いつ何が起こるかわからないところである。いざというときにきちんと動けるか、各国の軍隊から成る部隊がうまくまとまるように普段からの努力が必要となる。各国の軍隊は約6ヶ月で入れ替わるし、文化も食べ物も宿舎も違うので、意識的に何かしなければひとつにはならない。戦時になればまとまろうという意識も生じるであろうが、平時からのコミュニケーションが非常に重要である。また軍人と文民スタッフとの協力も様々な困難があり、両者の協力は重要な課題である。

平和維持活動について今日の国際社会が抱える課題は、紛争状態にある国に対して、それを解決する力のある国には関心がなく、関心のある国には力がないといったこと往々にして起こるという点である。ダルフールでは既に20万人が殺戮されたが、どの国も実効ある策を取ろうとしない。ミッションを決定し開始することは非常に難しく、確立する前に立ち消えになってしまうこともある。しかし、資源もなく戦略上重要でもない地域であれば仕方がないということでいいのだろうか。意思決定が為される前に何十万人が死んでいるということが実際に起こっている。国連はそういう地域にも目を向けなければならない。

以 上