JIIAフォーラム講演要旨

2007年2月14日
於日本国際問題研究所


マスーム・スタナクザイ アフガニスタン大統領顧問

「アフガニスタンの治安状況と非合法武装集団の解体」

タリバーン政権崩壊から5年という歳月が経過したにも関わらず、アフガニスタンの治安がいまだに不安定なのはなぜか、という問いを投げかえられることがしばしばある。アフガニスタンの復興プロセスは、ボン合意以降かなりの進展を見せたものの、貧困と難民問題、度重なる旱魃被害とケシ栽培への依存、脆弱な国家の統治能力など、困難な問題に直面してきた。長引く治安問題の背景には、そうした国内要因に加え、タリバーンやアル・カーイダによるパキスタン国境を越えてのテロ活動といった対外的な要因もある。ただこの点において、最近よい進展が見られるようになってきている。パキスタンがこれらの勢力に圧力をかけることにおいて協力的になってきたこと、そしてアフガニスタン、パキスタン、NATOの三者による協力体制の構築は、この問題への効果的な対応に寄与しつつある。また、アフガニスタン国軍と警察の発展および国際治安支援部隊(ISAF)と連合軍の連携強化も治安の改善に貢献している。

春になるとタリバーンの残党勢力による攻撃の激化が予想されるが、それに迅速に対応するためには、ISAFの効果的な展開に加えて、アフガニスタン自体の治安維持能力を高める必要がある。世界最貧国の一つである我が国は、非合法武装集団の解体(DIAG)や武器の回収、ケシ栽培の撲滅、ガバナンス強化や法の支配の確立、汚職対策などの諸課題に直面している。とりわけ、DIAGは、銃ではなく法の支配のもとに暮らしたいと願うアフガニスタン国民にとって最優先課題である。DIAGの推進による治安の改善は、人口の大部分が居住する地方において中央政府の権威を高めることにつながる。また、ケシ栽培がタリバーンやアル・カーイダの資金源になっていることに鑑み、代替作物への転換を促進する農業政策も重要である。こうした問題の解決には、軍事力だけでは不十分で、人間の安全保障の観点が肝要であるということを強調したい。

DIAGプロセスは既にかなり進捗してきたが、不安定な治安状況が続く中、自らを守りつつタリバーンと戦うために武器を保有していなくてはならないという風潮があるのも事実である。アフガニスタン政府は、DIAGを新しい行動計画のもと加速度的に推進し、タリバーンの脅威に対応するための体制づくりに強い決意を持って取り組んでいる。また日本政府は、DIAG実施および元兵士のための雇用創出に向けた支援などを通じて、アフガニスタンの復興に積極的に協力している。そうした努力が治安の安定化に着実に寄与している。長年の戦乱の犠牲者である女性が、平和なアフガニスタン実現に向けての牽引役となっていることも付言しておきたい。

アフガニスタンに真の安定をもたらすためには、国軍や警察の再建、行政・司法制度の改革、DIAGおよび麻薬対策を同時並行的かつ統合的に進める必要がある。また、地政学的に複雑な位置にあるわが国の復興には、近隣諸国との外交的対話と経済協力を通じた地域的なコンセンサスの確立が不可欠である。タリバーン残党勢力に効果的に対処し治安を安定化させることが復興プロセスの促進につながるのは言うまでもない。

現在国際社会が実施しているアフガニスタンへの投資は、アフガニスタンのみならず地域全体に対する投資であり、グローバルな影響を持っている。2002年1月に東京で復興支援会議を主催して以来、日本はアフガニスタン復興において主要な役割を果たしており、今後も我が国を支援していただけると確信している。アフガニスタン政府は今までどおり国際社会と協調していきたいと考えている。最後に提言をさせていただくならば、国際社会が引き続き復興支援を実施するにあたって、アフガニスタン政府との連携・協調を重視するよう願っている。その結果、アフガニスタン政府のリーダーシップとオーナーシップが強化されると同時に、政府に対する国民の信頼が高まるであろう。

以 上