JIIAフォーラム講演要旨

2007年3月13日
於:都内・ホテルオークラ


シモン・ペレス元イスラエル首相

「中東和平と信頼醸成について」

中東情勢は常に流動的であるが、ここでは中東で起こっている基本的な変化について述べたい。

これまで中東和平において、我々イスラエルは4回の試みを持ったが、2回は成功し、2回は失敗に終わっている。前者はエジプトとヨルダンであり、後者はパレスチナとレバノンである。和平の可否を分ける要因としては、前者では政府・軍隊・政策があったのに対し、後者では多くの政府があるが統治がなく、各派の軍隊はあるが統一軍がなく、多くの政策があるが統一された政策がなかったことが指摘できよう。しかし、イスラエルはユダヤ教の平和を愛する信条に基づく道義的責任から、そして未来永劫イスラエルとアラブは戦争を続けることはできないという政治的理由から、平和を求め続けてきた。パレスチナとの二国共存構想はこの考えに基づくものである。

しかし、様々な衝突が起こっているのも事実である。イスラエルとアラブの衝突のみでなく、アラブ・ムスリム(イスラム教徒)内での衝突、例えばパレスチナのファタハとハマス、イラクでの宗派対立、アルジェリア内戦、スーダンでの虐殺なども起こっていることにも注意を払う必要があろう。また、中東では自爆テロがしばしば報じられるが、それはイスラムの一部に近代性を危険視し、その排除を願う人々がいるという背景から生じている。しかし、イスラムの伝統を墨守しようとしても、歴史の流れには逆らえない。我々は新たな変化と時代の中に生きているのである。

新たな時代における変化とは、これまでの土地に基づく経済システムから科学技術に基づく経済システムへの移行である。この変化は我々の生活に大きな影響を与えている。かつては、農業の下で土地を分割し、国境を定め、主権国家を樹立して、それを武力によって守ってきた。しかし、グローバル性を備えた科学技術の発達に伴い、国境の持つ重要性が低下した。科学技術や知識は軍隊では征服できないものであり、世界は大きな変化を遂げたといえよう。

こうした変化を認めない一部ムスリムは中東のみならず、世界においても大きな問題となっている。彼らは、宗教と科学技術が矛盾しないことを知るべきである。もはや伝統のみでは生活は成り立たず、そして土地にしがみついているだけでは新たな時代に適応できない。経済・社会構造の変化で土地そのものが価値を変質させていることを的確に認識し、新たな時代に参加しなければならない。現在、こうした新時代の中で、中東で科学技術・エネルギー・水などの諸資源に関するイスラエル・ヨルダン・パレスチナの共同経済地域構想が進められている。日本はヨルダン渓谷における「平和と繁栄の回廊」へ1億ドルの投入を表明した。これは当該地域の経済開発に非常に重要な投資である。日本の経済協力および中東和平への真摯な取り組みに感謝したい。

近代民主主義とは全ての人々が平等であることを基礎にするのではなく、全ての人々が他社とは違うという権利を平等に持つものである。多様性の時代に踏み出すこと、これが我々の抱える問題の解決策となろう。イスラエルはよき隣人としてのパレスチナ国家樹立を支持するものである。

以 上