2007年の世界は冷戦時代の世界とは大きく異なる。第2次世界大戦後の世界は、戦勝国による秩序であり、世界は依然西欧によって支配されており、また冷戦によって世界は二分されていた。しかし今日の世界は多様性の世界であり、多極的な世界である。アジア、アラブ・イスラム世界、ラテンアメリカなど、新しい経済的な極ができつつあり、とりわけアジアの経済発展は象徴的である。その中でも日本はアジアの経済的な中心の役割を果たしてきた。欧州もまた、世界最大の経済的な極をなしている。EUは今年で50周年を迎え、今日EUは27カ国の加盟国を抱えるダイナミックで連帯した連合となっている。憲法条約をフランスとオランダが否決してしまったが、欧州の建設はこれからも継続していく。
多様性に富む世界は危険な世界でもある。脅威はむしろ大きくなっている。テロリズムの脅威に晒されていない地域はない。また、大量破壊兵器の拡散や、中東やアフリカなどでの地域的な危機、マフィアなどの組織犯罪、コントロール不能な人の流れ、エネルギーや水や食料をめぐる緊張など、新しい様々な脅威が存在している。
そのような多極的な世界の中で、欧州とアジアは戦略的な協力を強めるべきである。いかなる国も新しい脅威に一国で対処することはできない。EUは5年前から基本的な安全保障の仕組みを整え、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コンゴ、ダルフール、アチェなどで作戦を展開し、非軍事的作戦、軍事的作戦の両面で国際安全保障の様々な任務を担っている。また、欧州はNATOを補完する形でも安全保障の行動領域を広げている。
欧州と北東アジアの関係強化が重要である。EUとASEANの間では危機管理の分野で対話の枠組みがあり、またEUと日本の間でも2005年に戦略対話が行われているが、さらに遠くを目指すことができる。フランスは、北東アジアの国々、特に日本との関係を重視している。日本がアフガニスタンの安定化活動に参加していることを嬉しく思っている。日本と欧州各国との間の防衛分野での良好な関係は継続されるべきであり、フランスは日本との間で、防衛協力を行っていくうえで十分に価値を共有している。そしてフランスは日本の国連安保理常任理事国入りを支持する。
欧州はこの50年間成功裡に統合を進め、防衛の分野で最も大きな進展を遂げた。同時に北東アジアは国際社会の中で主要な役割を果たしつつある。この多極的な世界において、両者は共に協力していくことができるし、共に協力していかなければならない。軍事的にも緊密な連携を築くことにより、我々は21世紀初頭の課題に共同で対処することができるであろう。
追補:質疑応答における対中武器禁輸問題についての大臣の答え
中国の軍事力の強化は、その人口や経済から見ればある程度自然なのかもしれないが、その軍事力は平和のために使われなければならない。そしてそのためには最大限の透明性が確保されねばならない。対中武器禁輸以外にも武器を売るには様々な規定があり、禁輸を解いたとしても実際に兵器を中国に売るのは非常に難しい。禁輸を解くにはEUの全加盟国の合意が要るため、禁輸は依然有効であるが、この制裁措置は実質的な意味を失っているのではないか。EU以外の国が既に中国にいろいろな武器を売り、技術を供与している。一方で、EUにとってはこの制裁措置の有無に関わらず武器を売る際の規定がある。天安門事件に対する制裁という政治的な側面と、軍事技術の移転という実質的な側面とを分けて考える必要がある。
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