私の主要な講演テーマは、イラクの現状に関するものである。具体的には、フセイン前政権崩壊後の国内情勢、イラクにおける暴力の連鎖の現状とその解決策、そしてイラク再建における日本の役割である。
2003年のイラク侵攻は、フセイン前政権に終止符を打った。その後、新生イラクをいかに形作って行くのかが模索されているが、今なお厳しい状況にある。将来的に再建計画が実施されることを我々は望んでいるが、現在はそこへ至るまでの移行期・過渡期といえよう。我々はすでに投票によって憲法を制定し、それにしたがって民主的な方法で政府と議会を形成した。これは現在の政治プロセスによって生まれた一定の実績と評価できよう。しかし、新生イラクの形成という点においては、依然として議論が続いており、我々はいまだ道半ばである。確かに新憲法は制定されたが、改正をめぐる議論は続いている。そして、政府は存在するが脆弱であり、議会は選出されたが法案成立に多大の時間と労力を浪費している。いつ最終的な新生イラク像に全国民が合意し、現在の過渡期が終わるのかは不明である。無論、イラク人だけでは現在の諸問題を解決することはできず、日本を含む国際社会の協力が不可欠である。
前政権の崩壊以降、イラクにおける暴力の連鎖がしばしば報じられている。この暴力の連鎖は政治・経済改革の試みをも凌駕するものである。この暴力の背景に存在するものとしては、まず過激主義者を挙げることができよう。シーア派の軍閥や、アル=カーイダなどスンナ派武装勢力である。また、多国籍軍の占領から祖国を解放しようとする国民の抵抗運動も存在する。さらには、国軍・治安部隊に入り込んだ過激主義者の存在も大きな問題となっている。これら過激主義者に対しては、シーア派・スンナ派を問わず、言葉による説得ではなく、力によって対処しなければならない。同時に、周辺諸国・国際社会と良好な関係を構築し、武器・技術・人材が過激派に渡らないようにする必要があろう。また、イラク国民間の和解を促進する必要があり、全国民が政治プロセスに参画できるよう包括的な改革を行う必要がある。特に、憲法改正による各省庁・政府機関の適正な役割分担、宗派・民族対立を制度的に助長する現行の選挙法改正は不可欠である。国軍・治安部隊の改革も必要で、秩序と規律、そして祖国への忠誠心を定着させなければならない。その他、若者が民兵組織やテロリスト集団に加入しないように失業対策を行うことも重要である。
現在、イラクは真摯に治安対策に取り組んでいる。徐々に治安は改善し、民兵組織の解体も進んでいるといえよう。我々は決意を持って治安回復に取り組んでおり、その可能性は十分にあると信じている。イラクの歴史はスンナ派とシーア派の共存の歴史である。現在の暴力は国外からもたらされたものと考えられる。外国の内政干渉がなくなれば、宗派間の殺戮は停止するのではなかろうか。
現在進められているイラク再建において、日本が果たすことのできる役割は多くある。イラク人は日本との良好な関係の樹立を願っており、積極的な協力・貢献を歓迎する。日本が是非とも様々な分野でのイラク再建に貢献し、力を合わせてより大きなイラクの発展を実現したいと希望している。また、内閣から議会に先般提出された石油投資関連法が成立すれば、石油部門へ外国企業が参加できるようになる。この分野においても日本の積極的な参加を期待している。
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