JIIAフォーラム講演要旨

2007年3月23日
於:都内・ホテルオークラ


プラナーブ・ムカジー インド外務大臣

「日印関係の重要性」

インドと日本が、歴史的、文明的に初めて接触したのは約1400年前であるが、いまだかつて両国が敵対的関係に陥ったことはない。我々は歴史的に仏教という共通の遺産を有し、また現代では民主主義、多元主義という価値観を共有している。しかしながら、このような共通の遺産や価値観があるにも拘らず、日印間の交流の密度はあまり濃いとはいえない。幸いにも近年、両国はこの状況を改善するために努力し始めた。2000年8月に森前首相が訪印した際に両国は初めてパートナーシップを確立することを宣言したが、それ以来日印関係には劇的な変化が起こっている。

世界経済の重心がアジアに移動しつつあるのは明らかである。地域の共通の文化や通商関係がアジアの結束力を高めている。日印両国が共に関心をもつアジア経済共同体構想はますますその重要性を増している。しかし、大きな問題も残っている。アジアは地域経済の現状に見合った地域的枠組みの構築に取り組み始めたばかりである。万人に繁栄と成長をという構想を実現させるには、協力の枠組みの中でアジア地域全体に関与することが不可欠である。それによって、アジアはグローバリゼーションによって生み出された新たな問題に対処することができるだろう。

インドと日本が共にパートナーとしてアジアに「優位と繁栄の弧」の創出を目指すのには、いくつかの要因がある。第一に、両国は民主主義、人権、法の支配といった価値観を共有している。第二に、両国はアジアにおける経済成長の主要な原動力である。インド人の創造性と日本の規律のある労働文化、高度な技術が融合し相乗効果がもたらされれば、この提携によりアジアの人々はもとより世界各地の何十億もの人々の生活をも変えることができる。第三に、両国はアジア地域に長期的な安全保障と安定した均衡をもたらすには、経済統合によってアジア諸国間に相互信頼関係を築くことが重要であることを認識している。第四に、両国は持続的なアジア経済の繁栄を達成するためには、域内諸国間の経済交流の促進だけでなく、シーレーン防衛に対する協力が必要であることを理解している。最後に、インドと日本は多国間組織、特に国連に多大な貢献をしてきた。多数の国連加盟国の関心が適切に反映され、多国間主義がグローバルな問題の解決に有効な手段となるよう、両国は共に安全保障理事会を含む国連の包括的改革に取り組んでいる。

インドと日本の経済的パートナーシップの可能性について話をしたい。両国の経済関係が、緊密になることは不可避であるという議論は、今日以前にも増して説得力がある。両国は、インドの発展を早め日本の繁栄を継続させるため、両国の経済関係の中に存在する補完性を充分に活用しなければならない。インドの熟練した莫大な労働力が財政的にも技術的にも強化されることは−成長し続けるその巨大な市場と合わせて−インドと日本に多大な経済的機会をもたらすであろう。この数ヶ月の間、二国間経済協力を進展させる動きが見られるが、それは歓迎すべきことである。インドに対する日本の経済的関与を質的に向上させようとする日本の指導者のビジョンを賞賛したい。

もしインドが今後20年から30年間、現在の高い経済成長率を維持したいのであれば、エネルギーと環境問題双方に取り組まなければならない。今日インドにおけるエネルギー需要の50%以上は石炭でまかなわれており、エネルギー供給の大部分は化石燃料に頼っている。インドがエネルギー生産を増大すると同時に環境問題に対処しようとするのであれば、我々は核エネルギー資源の開発を一層進めなければならない。私は、核問題に対する日本人の心情を深く理解している。しかし、私はまた安定的なエネルギー供給を確保しようとする我々の努力を日本が理解してくれているだろうと信じている。インドは一貫して核兵器全廃を先頭に立って主張してきた。私は、両国がこの分野における協力を促す共通の土壌を確立するだろうと確信している。

戦略的グローバル・パートナーシップを構築しようとする両国の目標は、両国が共有する長期的なビジョンを反映している。私は今回の訪日を通して、両国が二国間や地域の問題に関する交流を通して共有性を拡大しようと努力していることを確認した。急速に変化する世界にあって、地政的、戦略的、経済的課題に対する我々の努力の成果は、アジア全体の平和、安定、繁栄を築こうとする我々の共通の目標に資するものとなるだろう。

以 上