JIIAフォーラム講演要旨

2007年5月10日
於:日本国際問題研究所


シルベストレ・アファブレ フィリピン政府和平交渉団長
(対モロ・イスラム解放戦線)

「ミンダナオ和平プロセスと日本の役割」

日本は、和平合意が調印されるよりも前に、ミンダナオ和平プロセスを支援するという決断をされました。日本はミンダナオの国際監視団の「社会経済開発部門」への専門家の派遣を行っています。一見すれば、衝動的で無謀だと見る人もいるかもしれませんが、私にすれば、この日本の貢献は、高度な戦略であり、気高い理想に基づいた力と目的と原則を併せ持ったものだと思っております。地域の安全保障と貿易の岐路に立つこのような話を議論する場として日本以上に適した場所はありません。また、日本は、世界の未来を形作る政治的な価値と経済的強靭さを持つ国でもあります。

「自由と繁栄の弧」という日本のアイディアにみられるように、世界は貧しい人々への安全な場所を確保し、文化と文明を危険にさらすことから守ることに協力するべきです。我々は時として、猜疑心や絶望に苛まれ、しり込みし、「力の均衡」による平和を許容してしまいます。しかし、「力の均衡」は、もはや安定を保証するものではりません。30,000フィート上空を通過して、6フィートの誤差で目標に届くミサイル―1基につき何百万ドルも必要ですが―もあれば、わずか数百ドルで同様の被害をもたらす自爆テロもあります。我々は、そのような破壊兵器の使用とともに、自分たちをそのような兵器としてしまう世界を迅速に変えなければなりません。人々をそのような状況に追い込む要因を理解し、時期を得た集団的に介入によって、その要因を根絶させなければなりません。

フィリピンの抱えるミンダオ問題には次の問題があります。まず、反政府軍と対話をする準備があるかどうか。次に、彼らに政治的、経済的な自決権を与える用意があるかどうか。最後に、土地や破壊された文化と戦争によって失われた世代といったものを元に戻せるかという問題です。アロヨ政権下のフィリピン政府は、このような問題に正面から取り組み、バンサモロの人々(イスラムの人々)、フィリピン国民そして世界に、降伏や敗北というではなく、真の正義と和解に基づいた和平を提案しなければなりません。フィリピンは国家の統合を必要としており、ミンダナオは、モロ・イスラム解放戦線(MILF)との合意というリトマス試験であります。

合意には二つの柱があります。ひとつは、フィリピン国内において、バンサモロの人々の自決権に基づいた合意ができるかどうかです。もうひとつは、荒廃した土地や富の補償に関して、キリスト教徒、ルマドを含む公平な合意ができるかどうかです。この二本の柱に関して、現在、フィリピン政府は信頼醸成装置に関するさまざまな取り組みを行っているところです。その取り組みとは、政府軍とMILF軍とのAd Hoc Joint Action Group(テロリストなどの監視)の設置、マレーシアのイニシアティブによる国際監視団(他にブルネイ、リビア)の配置、キリスト教徒・イスラム教徒・ルマド間の対話の制度化、日本を含む複数国の参加によるキャパシティ・ビルディングの強化、そして1996年のフィリピン政府とモロ民族解放戦線の合意路線の継続などがあります。我々交渉団は、日本のODAによって行われているプロジェクトに関する指針をMILFとともに作成していきます。また、JICAやマニラの日本大使館とともに「人間の安全保障基金」に基づくプロジェクトを遂行していきます。

日本の役割は東アジアにける「人間の安全保障」中心国として、経済・政治における地域統合を継続していくことだと考えています。日本には、尊敬されるべき価値や制度があり、特に日本の平和思想をアジアに広めていくことでしょう。日本や日本の人々が持ち続けてきたその「日本人らしさ」と同じように、我々も「フィリピン人らしさ」、「バンサモロらしさ」を維持し、紛争ではなく平和を構築していく必要があり、それを日本から学びたいと思います。

以 上