JIIAフォーラム講演要旨

2007年6月26日
於:日本国際問題研究所


アラス・アジモフ・アゼルバイジャン外務次官

「アゼルバイジャンの安全保障政策」

アゼルバイジャンは、安全保障分野で多くの課題を抱えている。そうした課題を解決するに当たってまず強調したいのは、アゼルバイジャンは、ソ連から独立したその日から、多くの困難な状況に直面してきたということである。その最たるものは、隣国のアルメニアとの紛争において、自国の領土を奪われたことだ。ソ連崩壊後、いくつかの紛争が旧ソ連域内で発生したが、それらには共通するシナリオがある。少数民族を「道具」とした分離主義運動が起こり、武装侵略がそれに続き、領土の支配にまで至る、というものだ。

もちろん、こうした紛争は解決されるべきだが、紛争の解決は、何よりも国際社会の関心が高まることなしには不可能である。そしてそこには国際社会の基本原則が適用されなければならない。例えば、国の意思に反して行われた領土分割が正式の領土分離と位置付けられ、しかしそうしたことの見返りとして欧州連合正式加盟という褒美が与えられる、というようなことは、非建設的であるばかりか、前例としてあってはならない行為である。そうしたことをGUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ)に押し付けることは良くない。GUAMは、紛争の解決において、「領土の一体性はその国の合意なしに不可能」という立場に立っている。紛争には様々なコミュニティが関与しているが、これらコミュニティが共存できるような体制を構築することが望ましい。それこそが、紛争の平和的解決である。GUAM宣言にはそうした原則が明記されており、国際社会がこれを支持することを望む。紛争の解決において成果が見られない場合、この紛争は、それが国際社会全体の取り組みを必要としていることを示している。協力と調和は、紛争の仲介者同士においても必要なのである。

地域紛争は、地政学的かつ複雑な現象であって、これを単純化し民族的なものとして理解するのは正しくない。南コーカサス地域の紛争を理解するには、「もし紛争がなかったらどのような成果が得られたか」という視点に立ってみることが有意義である。この地域の国家は、欧州とアジアの「橋」として、欧州とアジアの間の輸送における統合の強化や様々な交流に資することができた。まさにこれは、アゼルバイジャンの外交コンセプトである。アゼルバイジャンは、片足をアジア、片足を欧州においており、こうした二面性は、安全保障分野においても重要なものである。アゼルバイジャンは、今後、アジアとの関わりを深めたいと考えている。とりわけ、自由と繁栄の強化という意味において、アゼルバイジャンは、昨冬に日本の麻生大臣が提唱した「日本から中央アジア、コーカサスを通りバルト海に至る自由と繁栄の弧」という構想に注目している。この構想は、GUAMと日本との協力の展望を開く土台である。アゼルバイジャンは、GUAM以外の枠組みでも、日本との対話を拡げ、日本と協力したい。アゼルバイジャンは欧州とアジアを結ぶ「橋」として、大きな役割を果たしたい。

しかし、そうしたアゼルバイジャンの地政学的特性は、アゼルバイジャンに安全保障上の多くの課題を突きつけている。「欧州とアジアに抜ける門」であるアゼルバイジャンでは、税関や出入国の管理がなお不十分であり、その結果、アゼルバイジャンが麻薬や危険物質、あるいは不法移民の通過ルートになっている。その意味で、アゼルバイジャンの課題は欧州とアジアに共通のものであると言える。こうしたリスクにどう対処するかが重要になっており、現在、この関連で各種会議が開催されている。

安全保障に関しては、米国ミサイル防衛システムの東欧配備にロシアが反発する中、ロシアのプーチン大統領が先日のハイリゲンダム・サミットにおいて米国のブッシュ大統領に、アゼルバイジャンにあるレーダー基地のロ米共同利用を持ちかけた。この基地は、ABM条約に基づくソ連のミサイル迎撃システムの一つで、ソ連解体後にアゼルバイジャンが継承し、1990年代のアゼルバイジャンとロシアの協議の結果、アゼルバイジャンが所有するがロシアが有料で使用することになったものである。現在、この基地は旧式化してしまったが、それでも外部から攻撃される可能性はあるため、この基地の存在はアゼルバイジャンにとって安全保障有上の懸念事項となっている。この基地について、何らかの形で他の国が関心持つなら、アゼルバイジャンは協議に応じたい。

この基地のロ米共同利用に関するプーチン大統領の提案に対し、米国は前向きな反応は見せておらず、今後の事態の展開を予測するのは難しい。ただ、基本的には二つの可能性があり得よう。一つは、米国、ロシア、アゼルバイジャンの三カ国で基地の利用に関する枠組みを決めること、もう一つは、この三カ国に周辺諸国も加えた欧州大西洋レベルでの枠組みを決めること。後者の場合は、関係各国の基地をオンラインで結び、アゼルバイジャンの基地とデータを共有するということも考えられる。いずれにせよ、この問題をめぐる新たな関係には、アゼルバイジャンの安全保障が考慮されなければならない。

アゼルバイジャンは、イラクとアフガニスタンの情勢にも懸念を持っている。この二つの隣国からの難民流入と麻薬密輸が増えており、アゼルバイジャンの国境管理部隊が問題に直面している。しかし、そうした中で、アゼルバイジャンは、コソボにおけるNATO主導の作戦に協力するなど、国際レベルでの安全保障政策の遂行に貢献している。また、アゼルバイジャンは、文明間の対話に協力しており、異なった社会、宗教、民族の間の対話にも関心を持っている。アゼルバイジャンは、地政学的要衝に位置する。アゼルバイジャンにとって、アジア諸国との接触の増加は、アゼルバイジャンの安全保障にも利益をもたらすだろう。

以 上